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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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チリンの意見

 バルとラーラとの話を終えたミリとパノは、一緒に馬車でコーハナル侯爵邸に向かった。


 コーハナル侯爵邸に着くと、パノは待ち構えていたパノの弟嫁チリン元王女に対して、ミリが赤面した事に対してはパノとチリンは勘違いしていた事を説明した。


「それでは、ミリちゃんはレント殿に対して、恋心を持ってはいないのね?」


 チリンのその言葉に対して、チリンへの説明に恋心との単語を使わない様にしていたパノの眉間が狭まる。ミリの前で恋だの何だのと口にする事で、その気のない筈のミリがその気になってしまわないかと、パノは心配をした。

 しかしミリは表情を変えずに、チリンの言葉を「ええ」と肯定する。


「わたくしが顔を赤くしてしまったのは、人前での失敗を恥じた為なのです」


 ミリはまた思い出して、頬を少し染めながら、そう応える。

 もう泣く事はないとバルとラーラとパノに宣言をしたミリだけれど、ラーラの祖母フェリの墓前での失敗を思い出すと、恥ずかしく思ってしまうのには代わりがなかった。


「確かに、他人の前で涙を流すのはいけないわよね」


 レントへの気持ちを牽制したいチリンは、「他人」の単語を強調した。ミリはそれに対して「はい」と素直に肯いたけれど、パノはそれに対して引っ掛かりを覚える。


「チリンさん?チリンさんは他人の前でなければ、泣いても良いと思うの?」

「ええ、パノ義姉(ねえ)様。そう思いますけれど」


 チリンは不思議そうな表情を浮かべて、パノを見た。


「そうなのね」

「パノ義姉様は違うのですか?」

「そうね。バルも家族の前は良いと言っていたわ。けれど私は、家族の前でも泣くのはダメなのではないかと思っているの」

「そうですね・・・私もお義父(とう)様やお義母(かあ)様の前では泣く事は出来ませんけれど」

「チリンさんは国王陛下や王妃陛下の前でなら、泣く事があるの?」


 チリンは「いいえ」と言いながら、手を左右に振って否定する。


「まさか、ありません。お義父様とお義母様の前で泣かないのですから、国王陛下や王妃陛下の前でももちろん泣いたりは致しません」


 そう言って肯くチリンに、ラーラがバルの前では泣いていそうな話をパノは思い出した。チリンもパノの弟でチリンの夫のスディオの前では泣くのかも知れないと思い至って、パノは肯き返すだけに(とど)めて深掘りする事は()める。


 ラーラと同じ様な事を言うチリンに対して、ミリは同じ様な説明をした。


「チリン姉様」

「なに?ミリちゃん?」

「パノ姉様にもわたくしの両親にも先程伝えたのですけれど、わたくしはもう、一人でも泣く事はありませんので、ご心配は要りません」

「そうなの?でも、他人の前で泣きさえしなければ良いのよ?」

「はい。一人でも泣く事がないのでしたら、人前でも泣く事はありませんから」

「それは、そうなのだけれど」

「はい」


 表情を変えずに肯くミリに、チリンの心には少し不安が生まれる。大人の自分にも泣きたくなる事があるのに、まだ子供のミリがその様な決断をして大丈夫なのだろうか、とチリンは心配をした。


「でもミリちゃんはまだ子供なのだし、バルさんやラーラさんの前では泣いても良いと私は思うのだけれど?」

「両親の前ですか?でもチリン姉様は国王陛下と王妃陛下の前では泣かないのですよね?」

「私はそうだけれど」

「もしかしたらチリン姉様も、子供の頃は両陛下の前で泣いた事があるのですか?」

「私はないけれど、王家はまた特殊だから」

「そうなのですか?パノ姉様は子供の頃に、養叔父(おじ)様と養伯母(おば)様の前で泣いた事はありますか?」

「いいえ。一度もないわ」


 ミリはパノに肯くと、チリンに向けて微笑みを見せる。


「お二人ともなさっていらっしゃいませんし、わたくしも物心付いてからはこれまで、した事がありません。ですのでこれからも、両親の前で泣きたくなる事などは、ないと思います」


 そう断言するミリと、その言葉に肯くパノを見て、自分は特殊だけれどパノも一般的ではないのではないか、とチリンは感じた。その様な人間に囲まれた環境で育つミリの将来に、チリンは不安を抱く。

 ミリを教育した三夫人の内の二人、パノの祖母ピナ・コーハナルとバルの祖母デドラ・コードナは、厳しい事で有名だった。その二人の授業を受けて育ったミリが、安易に涙を流すとも思えない。ミリのもう一人の教育係であったラーラの祖母フェリ・ソウサも、ラーラの話だとかなり厳しかった筈だ。

 もしかしたら三夫人に習って厳しく学ばされていたミリなら、辛くて涙を流したりしないのかも知れないけれど、それはそれで情緒的に大丈夫なのだろうか、とチリンの不安はそこにあった。



 ミリに不安を感じたチリンは、夫スディオに相談しようと思った。チリンと同様に、スディオもミリを妹の様に思っている。スディオなら自分の不安を理解して貰えるのではないかと、チリンは考えた。


 しかし、それを忘れさせる出来事が起こる。

 往診に来た助産師が、チリンの妊娠が安定期に入ったとして、妊娠の事をスディオに告げる事を勧めたのだ。

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