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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ほぐれるしこり

 パノの話を聞いて、ミリには疑問が浮かぶ。


 ラブラ・コウラからパノにプロポーズしたとの事だけれど、ラブラがパノと婚約しようと思った切っ掛けが分からない。

 コーハナル侯爵家ではパノとラブラの婚約はあり得ないと思ったからこそ、二人の交際練習を許したと言うのは本当だろう。

 そしてそれはコウラ子爵家から見ても同じなのではないか?家格も違えば派閥も違う。あくまで練習だと割り切れたから、二人の交際練習をコウラ子爵家も許したのではないか?それがどうしてラブラのプロポーズを許す様になったのか?

 もちろんパノの言う通り、コーハナル侯爵家との関係が出来るのはメリットになるだろう。しかしミリにはそれがしっくりと来ない。関係を持った上で、何をする積もりだったのか?何が狙いだったのか?

 パノは優秀だったから、将来の女主人として向かい入れたかったと言う事なら理解出来る。しかしコウラ子爵家が王家派だったのなら、コーハナル侯爵家と縁を結ぶ事はメリットだけではない筈だ。王家派内での立ち位置が変わるかも知れず、それが分かっていなかったとは思えない。


 パノを向かい入れた後のコウラ子爵家の立場に付いて、どんなビジョンを持っていたのか分からない事が、ミリを落ち着かせなくしていた。

 そこにはミリの大切なパノに対して、ラブラがパノを思う気持ちが見えて来ず、コウラ子爵家がただパノを利用しようとしていたのではないかとの、不愉快な疑問を消す事が出来ない事も大きく影響していた。



「パノ姉様?」

「なに?ミリ?」

「少し質問をしてもよろしいですか?」

「もちろんよ?どうしたの?」


 ミリがわざわざ確認した事で、ミリに気を遣わせている事に気付いて、パノには苦笑が浮かぶ。


「こんな話、なかなかミリにする機会はないから、何でも訊いて良いのよ?」

「・・・ごめんなさい」


 質問をして良いか尋ねてしまった事自体が、パノを傷付けた様にミリは感じた。でも、質問をする事を()めたら、なおさら傷付ける気がる。


「いいえ。構わないわ」


 パノがそう言ってまた頭を撫でるので、ミリは様子を見ながら訊けるだけ訊く事にした。


「その当時、コウラ子爵家は代替わりをしたと思うのですけれど、パノ姉様とラブラ殿が交際練習を開始したりプロポーズされたりした事との、前後関係を教えて下さい」


 何を訊かれるのかと、知らずに少し入っていたパノの肩の力が、フッと抜ける。


「前ね。交際練習を開始した時には既に、今のズラン・コウラ子爵が爵位を嗣いでいたわ」

「ラブラ殿の父君ですよね?」

「ええ」

「コウラ子爵が爵位を嗣いでどれくらい経ってから、ラブラ殿がパノ姉様に交際練習を申し込んだのですか?」

「直ぐね。一月は経っていないけれど、半月くらいだったかしら?」

「コウラ子爵家は社交をしないと私は教わりましたけれど、当時はどうだったのでしょう?」

「同じよ。昔からそうだと聞いているし、当時も変わらずコウラ子爵家の人は、社交の場に姿を現さなかったわ。ラブラ殿は私と一緒にパーティーに参加したりしたけれど、ラブラ殿の友人達にも珍しいと言われて、揶揄われていたわね」

「なるほど」

「何が気になるの?」

「ラブラ殿が交際申し込みをする事に対して、コウラ子爵が事前に知らなかった可能性はありますか?」

「・・・なるほど。ラブラ殿が勝手に私に交際練習を申し込んで、コーハナル侯爵家が受けてしまったから、コウラ子爵家としては交際練習をさせるしかなかったと言う事ね?」

「はい」

「確かにそう考えると少しは納得出来るけれど、そうするとプロポーズもコウラ子爵は後から知ったのかも知れないわね?」

「はい。パノ姉様とラブラ殿の親密度も、分かっていなかったかも知れません」

「コーハナル侯爵家がプロポーズを認めたから、仕方なく婚約申請を出したけれど、本当は私を嫁に迎えたくなかったから、ラーラを養女にした事を理由として、婚約申請の取り下げを言って来た、と言う事ね」

「パノ姉様を迎えたくないと言うのは気に入りませんが、そう考えても辻褄は合います。それに何より、ラブラ殿はたとえ家に反対されていたとしても、それを抑え込んでパノ姉様と交際したかったし、結婚しようとしたんだなって考える事が出来て、そうであればラブラ殿のパノ姉様への好意を疑わなくても済みます」


 そう言うミリをパノは静かに抱き寄せた。

 ミリは視界が奪われたけれど、パノが何度も大きく息をするのがミリには感じられた。


 パノがミリの体を離して顔を見た。


「良く思い付いたわね?凄いわ」

「あの、ラブラ殿が家格が上の人に対しても物怖じしないなら、自分の父親であるコウラ子爵に対しても、そうかなって思って」

「ありがとう、ミリ」

「パノ姉様」

「そんな風には考えた事はなかったわ。ありがとう」


 ミリはなんて応えて良いのか分からず、取り敢えず「はい」とだけ返した。


「ラーラにも教えなければ。私ね、コウラ子爵家が断って来た理由をラーラがいる場所で口にしてしまった事があるの」

「そうなのですか?」

「ええ。ラーラと私はそれぞれ別の人と話をしていたのだけれど、私はつい興奮してその事を口走ってしまったの。その後に問題が起こってその事を忘れていたのだけれど、後からバルに指摘されて」

「問題ってなんですか?」

「当時の宰相が怪我をしたり、王冠が傷付いたり」

「え?」

「王宮でそう言う事件があったのよ」

「知っています。コーハナル侯爵家の(かた)達とコードナ家の人間が王宮に喚び出されて、先代国王の前でコーカデス家の人々と一緒に訴えや申請の取り下げを話し合った時ですね?」

「え?・・・そう。ミリはそれも知っているのね」

「はい。でもお父様からの指摘ってなんですか?」

「ラーラの前では口にするなって。指摘って言うか、バルに怒られたって言う方が正しいわね」

「お母様からは何か?」

「その時ラーラは当時のコーカデス侯爵と話していたの。そちらも議論が白熱していたから、聞こえていなかったとは思うけれど、分からない。聞こえていたのかどうか、訊いたり出来ないし」

「お父様に確認してみます。お母様が知らないのでしたら、教えなくても良いと思いますし」

「そう?・・・そうよね。ダメね。知らないかも知れないラーラに教えるなんて、間違った判断をしていたわ」

「間違ってもいないと思いますけれど」

「いいえ。自分で思っているより、ラブラ殿との事が自分の中で消化出来ていなかったみたい。ミリに言われて、嬉しくて、舞い上がってしまったのね」

「あの、嬉しく思っていただけたなら、嬉しいです」


 そう言って上目遣いで微笑みを向けてくるミリをもう一度、パノは今度は強く抱き締めた。

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