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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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想い出話

「バルとラーラが交際練習を始めたら、貴族の子息と大商会の娘との組み合わせと言う事もあって、二人の事はとても噂になったわ。そして二人の楽しそうな様子を見て、みんなが真似をしだしたの」


 パノはベッドで仰向けのまま、ミリを見ずにそう伝える。横向きになって、そのパノの横顔を見ながら、ミリは小首を傾げた。


「そうだったのですか?」

「ええ。ミリの両親が最初なのよ。それで平民にも貴族にも交際練習が流行ったの」

「それはつまり、お父様とお母様は、誘拐事件の前から人々に有名だったと言う事なのですか?」


 パノは顔をミリに向ける。


「ええ、そうよ。王都の年頃の男女やその家族なら、たとえ顔は知らなくても、二人の名前はみんな知っていたと思うわ」

「そうだったのですね」

「ええ」


 ミリが納得して肯くのを見て、パノはまた上を向いた。


「その頃まだ生きていらしたお祖父様とお祖母様に、私も交際練習を勧められていたの。それはソロン王太子殿下の婚約者候補に名前が上がらない様にする為でもあったわ」

「そうなのですか?」

「ええ。お祖父様とお祖母様は、交際練習をしている令嬢を王家は選ばないだろうと考えたのね。実際にニッキ王太子妃殿下は、交際練習をした事はなかったし」

「でも、パノ姉様にも王家から婚約の打診があったのですよね?それはパノ姉様の交際練習の前なのですか?」


 ミリは詳しい事は知らないけれど、パノも交際練習をしていた事は知っていた。


「いいえ。そうね。詰まりお祖父様とお祖母様の目論見は、外れていたのかもね」


 パノは顔を少し傾けて目だけをミリに向け、微笑んで見せる。ミリが眉尻を下げて返すと、パノはまた視線と顔を上に戻した。


「それでもその当時はお祖父様とお祖母様の賛成もあって、私にコウラ子爵家のラブラ殿から申込みが来たら、交際練習をする事になったの」

「子爵家の方とですか?」

「ええ。コウラ子爵家は昔からの王家派だったし、コーハナル家とは仲が良い訳ではなかったけれど、それで却って婚約までには進む事はないから練習相手としては安心だと、お祖父様もお祖母様もお父様も思っていたのね」

「でもそれって、王家がパノ姉様の事を調べるのに、コウラ子爵家を使ったりした可能性はありませんか?」

「交際練習ではないと調べられない事って、私とラブラ殿の相性くらいよ?その当時は社交界が機能していたから、それ以外は調べようと思えばいくらでも調べられたし、社交界を使って調べる方が簡単だった筈だわ」

「そうなのですか」

「ええ。でもね?コーハナル家としての思惑はそれだったのだけれど、コウラ子爵家の狙いは分からなかったの」

「狙い?ラブラ殿がパノ姉様に好意を持っていたからではないのですか?」

「確かにラブラ殿はそう言っていたわ。ラブラ殿は年上で、学院の在籍が私とは一年間だけしか重なっていなかったけれど、その期間に私に好意を感じる事があったのだって」

「やはり!そうなのですね!」

「でもね?好意を感じて貰える様な関わりはなかったのよ」

「つまりは一目惚れですか?」

「最初は何か思惑があるのかと思ったし、私への好意と言うのも建前や社交辞令だと、私も思っていたの」

「そうなのですか」

「ええ。ラブラ殿はクセのある人だったし」

「クセですか?」

「自分に自信を持っていて、礼儀とかはちゃんとしているけれど、家格が上の相手にも物怖じしない人だったわ」

「そうなのですか」

「ええ。子爵令息に侯爵令嬢の私が、ただの年下の少女として扱われるのよ?」

「え?それは、大丈夫なのですか?」

「礼儀はキチンとしているから、文句は付けられないわ。でも何かと子供扱いされて。そうするとやっぱり、背伸びしたくなるじゃない?」

「そうなのですね」

「ええ。それで対等に扱われたりすれば嬉しくて・・・今思えばやはり、子供をあやす様な扱いだったのかも知れないわね。でも私は彼が私を認めていってくれていると感じていたし、だんだん彼に好意を持っていったし、彼に大人として扱って欲しくなっていったわ。それに伴ってなのか、お祖父様やお祖母様やお父様に、コウラ子爵家を警戒する様に言われたり、ラブラ殿への態度を注意されたりする度に、反発を感じる様になっていったの」

「反発ですか?」

「ええ。最初の頃は、言われなくても分かっている、と思ったくらいだったけれど、それがそのうち、ラブラ殿の何がわかるの?という風に変わっていったの。もちろん家族に向かってそんな言葉は口にしないけれど、でも何かを言われる度に心の中では反発を感じていたわ」

「それは、ラブラ殿に恋をしたからと言う事ですか?」

「そうね・・・そうだったのかも知れない。それだから彼からプロポーズされた時は舞い上がってしまったし、ソロン王太子殿下の婚約者候補にされる前に、などと言って家族を説得して、急いで国に婚約申請まで出して貰ったのよね」


 ミリは、元王女チリンに紹介されて会ったソロン王太子を思い出していた。

 ミリが見聞(みき)きしている範囲内では、ソロン王太子自身には問題がなさそうだった。当時のコーハナル侯爵家でも問題にしていたのは、婚約者候補と言う不安定で危険なポジションに立たされる事だけだったのだろう、とミリは考える。


「けれどその後、コウラ子爵家からは婚約申請の取り下げが申し入れられたの。家族の言う通りだったわ。私はいつからかラブラ殿だけではなく、コウラ子爵家への警戒もしていなかった」

「え?でも一度は婚約申請に同意したのですよね?」

「コーハナル家の意向を汲んだのかもね」

「でもラブラ殿からプロポーズされたのですよね?」

「前のめりになっていた私の事を忖度したのかも知れないわ」

「そんな」

「実際にコウラ子爵家としては、コーハナル家とのコネが手に入るのだし」

「え?それならなぜ、コウラ子爵家は婚約申請を取り下げたのです?」


 パノは話の取り回し方に、失敗をしてしまっていた事を悟り、目を閉じた。

 ラーラをコーハナル侯爵家の養女にした事が、婚約申請取り下げの理由とされていたのだ。それをミリに向かって言う必要が出来てしまった。

 ラブラ・コウラの話をした事で、自分が冷静さをなくしていた様にパノには思えた。そう思ってしまえば、胸の奥が微かに痛む。


 一呼吸置いてから目を開けて、パノは体を横にしてミリを向く。


「悪い噂のある平民を養女にしたから、との話だったわ」


 パノはミリを見詰めながらそう言った。


「それって・・・」

「そう。ラーラを養女にしたからね」

「そんな・・・」

「ええ。その理由を聞いて、ラブラ殿に対する私の気持ちは、()め切ったの」


 パノは敢えてゆっくりと言葉を口にした。


「・・・パノ姉様」

「ラブラ殿と婚約しなくて良かったとその時思ったし、それは今でも思っている」


 パノは手を伸ばして、ミリの頭を撫でた。


「そしてこれからもずっと、思い続けると思うわ」


 そう言ってパノはミリに微笑みを向けた。

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