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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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パノの訪い

 喚ばれてコーハナル侯爵邸を訪ねたミリをパノが帰してから、パノはミリと約束をして、ソウサ邸を訪ねた。


「いらっしゃいませ、パノ姉様」


 ミリの家はバルとラーラが暮らすコードナ邸の筈だけれど、すっかり自分の家の様に出迎えるミリに、パノは苦笑する。


「今日は時間を作ってくれて、ありがとう、ミリ」

「いいえ。パノ姉様が泊まっていって下さるので、楽しみにしていました」


 ミリはそう言って一旦は微笑むけれど、直ぐに眉根を下げた。


「でも夕食はソウサ家の人達が同席できなくて、私と二人きりなのです」


 そう言ってミリは「ごめんなさい」と頭を下げる。


「分かっているわ。普段のソウサ家でもミリは、一人で夕食を摂っているのでしょう?」

「ええ。そうなのですけれど」


 そう言うミリの少し寂しそうな様子に、パノは苦笑を重ねる。

 コードナ邸に帰れば一人で食事をしたりする事はない。バルとラーラもいつでもミリの事を待っている筈だ。

 しかし最近、バルとラーラの距離が近くなったのは、ミリが二人から距離を置いているからともにパノには思える。そして自分もそれを助ける為に、コードナ邸にはなるべく顔を出さない様にしていた。もちろんイチャつく二人を見ていられないのもある。


 更に重なりそうな苦笑の代わりに、パノは近寄ってミリの背中に手を当てた。


「ソウサ家の皆さんは滅多に一緒に食事が出来ないってラーラからも聞いているし、ミリがいてくれさえすれば私は大丈夫よ」

「そう言って下さって、ありがとうございます」


 もう一度微笑みを浮かべたミリに、パノも微笑みを返した。



 パノが訪ねて来たのは、レントとの文通の件に付いてだろうと、ミリは思っていた。

 ミリは文通に付いて、今までパノに何かを言われた事はなかった。けれど先日のコーハナル侯爵邸でのパノとパノの弟嫁チリンとの様子をみる限り、チリンが賛成していないだけではなく、パノも意見がありそうだとミリは思っている。レントの叔母リリ・コーカデスとパノとの関係を考えれば、パノがミリに言いたい事が色々とあっても不思議ではない。


 ミリにとってレントとの手紙の遣り取りは、とても楽しく充実したものではあったけれど、パノの反対を押し切ってまで続ける積もりはミリにはなかった。

 それは最近、レントの事を考えるとどうしても、ラーラの祖母フェリ・ソウサの墓前での失態を思い出してしまう様になってしまった事と、無関係とは言えない。

 ミリの羞恥の気持ちは収まる事はなく、レントへの次の手紙を冷静に書ける気がしていない。自分から文通を()めるのは負けを認める様で悔しいから、誰かに()めて貰えるならそれが良いとミリは考えていた。悔しいと思う時点で負けている、と思ってしまうのもミリは悔しい。


 しかし夕食の間は、その話題は出なかった。

 コーハナル侯爵邸でのチリンの様子をパノが伝えたり、ミリが朝は帰っているコードナ邸でのバルとラーラの様子を伝えたり、パノの亡くなった祖母ピナの思い出を話したりはしたけれど、レントの事も()してやリリの事も、話題に上がる事がない内に、夕食の時間は終わろうとしていた。



「ミリ?」

「はい、パノ姉様」

「あなたは毎晩眠る前に、お祖父様達が遺した資料を読んでいるのよね?」

「はい」

「その後で良いから、あなたが寝付くまで、少し話をしても良い?」

「はい、分かりました」

「ありがとう」

「でも、今晩は資料を読まなくても構いませんよ?」

「でも、毎日の日課なのでしょう?」

「助産院に泊まる日は、読んでいません」

「そうね。そうだったわね」

「ですから、パノ姉様の準備がよろしければいつでも、この後すぐでも構いませんけれど?」

「そう・・・ねえミリ?」

「はい、パノ姉様」

「今晩は一緒に寝ましょうか?」

「え?あの、私、一人で眠れるのは、パノ姉様はご存知でしたよね?」


 いつかの様にまた子供扱いされているのかと、ミリは少し戸惑った。ミリはまだ子供なので、パノが子供扱いするのは間違ってはいないけれど、フェリの墓前での件からミリは、人からの接され方に少しナイーブになっていた。


「ええ、もちろん。でもミリと一緒に寝た事はなかったし、今後も機会があるか分からないから、良かったら一緒に寝ましょうよ?」

「ええ、分かりました、パノ姉様」


 ミリはパノに口角を少し上げてみせる。

 しばらく前までバルとラーラに挟まれて寝ていたミリは、久しぶりに人と寝る事が出来る事が、嬉しくない事はなかった。



 フェリからミリが譲り受けた寝室のベッドで、ミリとパノは並んで横になる。

 自分から誘ったものの、パノは大人になってからは誰かと寝た事がなかったので、少しソワソワとした。

 その様子を感じたミリが、落ち着かないパノを助けようと、パノに手を伸ばす。ミリは、上から目線とまではいかないけれど、少しお姉さん気分だった。


「パノ姉様?手を繋いでも良いですか?」


 横向きになって体を向けてそう尋ねて来るミリに、パノは自分も体を向けて微笑んだ。


「ええ、もちろん」


 ミリと手を繋ぐのも、パノは久しぶりの気がする。パノが最後にミリと手を繋いだのがやはり寝室で、ミリが一人で寝る様になって直ぐの頃だった。


「ミリ?」

「はい、パノ姉様」

「私の昔の話を聞いてくれる?」

「はい、もちろんです。どの様なお話ですか?」

「私の交際練習と婚約申請をした件ね」


 パノはもう一度ミリに微笑むと、ミリから視線を外して仰向けになった。


 ミリがレントに対しての恋を諦めたのだと思っているパノは、自分の経験を話す事がミリの助けになるのではないかと考えていた。

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