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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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振り返り

 コーカデス領まで戻る間、レントは今回の王都行の振り返りをしていた。

 今回は自分の不甲斐ないところに多く気付いたけれど、それと向き合う前に、良かった点をまず確認する事にする。そうしないと悪かった点の反省に辿り着く前に、悪かった点を数え上げるだけで気持ちが折れそうにレントには思えていた。


 しかし、良かった点が中々思いつかない。

 良かった事を考えようとすると、ミリの所作が美しかったとか、ミリとの会話が楽しかったとか、ミリの笑顔が可愛いかったとか、ミリが今回も持たせてくれた餞が楽しみだとか、少しも自分の事が思い浮かばなかった。


「どれもミリ様の事ばかりではありませんか」


 護衛達には分からない様に、馬上でレントは溜息を小さく()く。

 小さく首を左右に振って、レントは姿勢を正した。


 良い事なら他にも確かにあった。

 バルには、また王都に来たら家に寄るようにと言って貰えた。

 パノの母ナンテには、レントの叔母リリ・コーカデスが王都に来たら、コーハナル侯爵邸を訪ねる様に伝えて欲しいと、温かい雰囲気で伝言を貰った。

 最初は雰囲気の硬かったバルの母リルデとも、ミリが間に入って会話を回してくれたので、コードナ侯爵家を辞去する時にはかなり()()ける事が出来た。


「リルデ様は明らかにミリ様のお陰ですね。バル様もそう言えますし。それにナンテ様も、ミリ様がいたからこそ、わたくしに柔らかく接して下さった気がします」


 馬上から遠くを見詰めながらそう呟いて、レントはクスッと笑った。そもそもミリがいなければ今回の王都行も、あり得なかった事を思い出したのだ。

 レントの笑みに苦さが滲む。



 前回、初めて会った時のミリに対するレントの感想は、大切に育てられてしっかりと教育がされている様だ、だった。


 今回、バルからもナンテからもリルデからも、ミリの事を本当に大切にしている事が強く感じられた。

 各家の使用人達からもだ。ミリの出自とか、ミリがやがて平民となる事とか、その様な事には囚われず、主人の家族として確りとミリを支えているとの印象をレントは受けていた。

 レントはソウサ家は(たず)ねなかったが、貴族と平民の違いはあるのかも知れないけれど、やはりミリはソウサ家でも大切にされているのだろうとレントには思えた。


 ミリの教育を(おも)に担っていた三夫人が立て続けに亡くなったけれど、ミリの教育面での影響はそれほど酷くならない様にレントには思える。

 ミリの教育が既に完成していると思っている訳ではなかった。レントにはミリの隙は見えなかったけれど、ミリが何もかも満遍なく学び終えているとは思えない。得意不得意もあるのではないかと、レントは期待も僅かに込めた推察をしていた。

 しかし、これからの事を予想してみると、ミリの人生で大きな影響を与えていたであろう三人を亡くしながら、ミリの学習については不安要素はなさそうにレントには思える。少なくともレントには、問題点を思い付かなかった。

 ミリは定期的に助産院に助産師見習いとして通い、知識と経験を蓄えていっている。医院にも手伝いに行って、病気や怪我の事を学んでいる。

 ミリ商会を続けるのかどうかについてはレントは聞いていなかったけれど、ミリがそうしようと思えば結構簡単に再開出来る筈だ。


 レントには、ミリを下に見ていた部分が確かにあった。

 それはミリが年下と言うのもある。確かに子供の頃は、一歳違うとかなり違う。

 ミリが少女だと言うのもあった。今現在はミリの方がレントより背が高いし、体格も良い。しかし少年の方が成長が遅いと言うし、思春期になればレントの方が大きくなるのは確かだろう。

 出自についてもだ。犯罪者の血が流れているかも知れない事は、レントは問題にしなくても、世間はそうではないだろう。それは様々な方面でミリの将来の妨げになる筈だ。本当の父親が分からない事だって、ミリのプラスになる事は確かにないに違いない。

 将来的な地位に付いても、レントは伯爵位を嗣ぐけれど、ミリは平民になると言っている。出自を考えれば、貴族家に嫁入りするのは確かに難しい筈だ。それはコードナ侯爵家とコーハナル侯爵家とでどれ程ミリが大事にされていたとしても、変わらないだろう。

 自分と比較するならば、どれを挙げても、ミリの方が下位に位置するとしか思えなかった。


 しかし実際はどうだ?

 初めて会った時点では、レントが明らかにミリより上だと思える点は、僅かに二つしかなかった。一つは血筋であり、もう一つは年齢だ。

 どちらもミリ本人にはどうしようもないものであり、レント自身の努力とは一切関係のないものだった。

 一言(ひとこと)言葉を()わした時から、ミリが優秀な事はレントには分かっていた。優秀だと意識していた訳ではないけれど、所作一つ取っても評価を示すなら優秀としか言えない。

 そしてそれはミリと会話を交わせば交わすほど、事実であると言う事が裏打ちされていく。きっと意地の悪い接し方をする人ほど心の奥では、ミリの優秀さを否定出来なくなるだろう。レントにはそうとしか思えない。

 それはミリとの手紙での遣り取りからも、レントは充分に感じていた。手紙の内容で、ミリがレントの考えを讃える事もあった。レントに取っては胸を張れる出来事ではあるけれど、讃えると言う事は理解をしていると言う事だ。詰まりはレントの考えをミリは手紙の文面から読み取れているのだ。当然だ。

 そんなミリをどうしたら侮ったり出来る?

スマホは直りましたけれど、指が治っていません。もう暫くの間、間欠投稿となります。

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