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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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それぞれの思い、思惑

 使用人に案内されてミリが向かった部屋には、パノとパノの弟嫁チリン元王女が待っていた。


「ミリちゃん!」


 入室したミリの姿を見て、チリンがソファからスクッと立ち上がる。隣に座っていたパノも慌てた様に立ち上がり、チリンの腰に手を当てた。


「チリンさん。急に立ち上がっては危ないわ」

「大丈夫ですよ、パノ義姉(ねえ)様。立ったり座ってりなんて普通の事ですし、危険ではありませんわ」

「急に立ったら立ち眩みする事だってあるでしょう?」

「パノ義姉様は心配し過ぎです。ねえ?ミリちゃん?」


 チリンの傍まで近寄っていたミリは口角を少しだけ上げて、チリンの手を握ると座る様に促す。


「何かあってからでは遅いですから、パノ姉様は心配なさっているのですよ。素早い動きをなさるのは意識して避けた方がよろしいかと、わたくしも思います」

「もう。あれもダメ、これもガマンって、妊婦にストレスを与える方が赤ちゃんに良くないのではないの?」


 促されて座りながらチリンはそう返して、ミリの手を引いてミリも隣に座らせた。


「それももちろんですけれど、精神的なストレスを回避する為に、物理的な衝撃を与えてしまう事があれば大事(おおごと)になりますし、万が一が起こってしまった後の妊婦さんの心理状態は、周囲から小言を言われる時とは比較になりませんから」

「ミリちゃんにそう言われたら、言い返せないわ。これでも気を付けている積もりなのですけれど、皆さんに心配を掛けない様に更に注意します」


 しおらしくそう言うチリンに、ミリはまた少し口角を上げて見せる。


「口うるさくて、申し訳ありません。ですけれど、チリン姉様の体調が良さそうな事には、安心しました」

「ええ。体調は良好ですけれど、気分はそうでもないわよ?」

「え?どうしましたか?ご気分が悪いのですか?」

「ええ。ミリちゃんのお陰で」

「え?わたくしの?」

「正確には、コーカデス家の所為ですけれど」

「それは詰まり、レント殿を連れて来た事に付いてですね?」

「ええ」


 チリンは大袈裟に肯いて見せた。


「ミリちゃんがコーカデス家の人間と手紙の遣り取りをしている事も、私は気に入りません」


 レントとの文通に、チリンが良い顔をしていなかった事をミリは知っていたけれど、面と向かって言われたのは始めてだった。

 亡くなった曾祖母デドラ・コードナからミリは、レントとの交流に付いて誰かに何かを言われたら、デドラの命令と言う事にして良いと言われていた。しかし今この場でチリンにその言い訳を使うのは、ミリは気が進まなかった。

 ミリとしては、自分を可愛がってくれているチリンに、レントとの関係を賛成して貰えなくても良いから、理解して見守って欲しかった。

 けれどミリは、チリンにそうして貰う為にはどう言えば良いのか浮かばず、それについても言葉が出ない。



 パノの母ナンテに案内されて、レントはパノの祖母ピナの墓前に立つ。

 ピナの墓には多くの花が(ささ)げられていて、葬儀の後も献花する人が後を絶たない事を示していた。

 献花の端に持参した花束を置いて、レントは顔を伏せて目を閉じた。


 レントはピナとは面識がない。

 レントの叔母リリ・コーカデスがパノを通してピナと交流があった事は知っていたけれど、レントはリリから具体的なピナの話を聞いた覚えはこれまでなかった。今回、墓参りをするに当たって多少の話をリリから聞いてきたけれど、それだけだ。

 それなので、レントが目を閉じたところで、ピナの顔や声が浮かぶ訳でもない。

 そう言えばミリ様はなぜピナ様の死をわたくしに知らせて来たのでしょう?などと言う事をピナの墓前でレントは今更考えていた。


 そうは言っても、ピナはリリの礼儀作法の師の一人ではあるし、今回はリリの助力で王都に来る事が出来た。ミリが慕っていたのも分かっていたので、レントは敬意を込めて、ピナの冥福を祈った。



 使用人にお茶を淹れ直す指示をして、パノは先程まで座っていたチリンの隣ではなく、テーブル端のソファの前に移動する。チリンとミリが並んで座ったので、ミリの顔が見える席に移る形だ。


「チリンさん。ミリがコーカデスと遣り取りしている手紙は、バルも目を通しているのだから、コードナ家としては問題ないと考えられていると言う事よ?」


 腰を下ろしながらパノは、ミリを擁護した。


「パノ義姉様は、ミリちゃんが何でもバルさんの所為にしているのは、構わないと仰るの?」

「ミリが将来の事をバルの所為にしているのは問題ですけれど、これはそう言うのとは違うでしょう?」

「同じですわ」

「あの、チリン姉様?あまり興奮なさると」

「お(なか)の子に良くないのでしょう?分かっています。でもねミリちゃん?既にラーラさんの事件を知っているあなたが、どうしてコーカデスの子と交流を持っているの?」

「それは以前お話ししたと思いますけれど」

「ええ。経緯は分かっているわ。サニン殿下の親睦会で、たまたま同じテーブルに着こうとして、席を譲り合った結果、隣同士に座ったのよね?それは私も分かっています。その後にミリちゃんがお菓子を贈った事も、流れとしては仕方ないと認めます。けれどそこから何故、文通に繋がるの?」

「え~と、お菓子のお礼の手紙を頂いたのですけれど、それと一緒に贈られた栞の機能に付いて知りたくて」

「ミリちゃんが気になる様な物を贈って、質問せずにはいられなくさせるなんて、コーカデスが文通を狙っていたからでしょう?」

「ええ?そんな事は」

「あります。狙っていたに違いないわ。そうでなければ、ミリちゃんから手紙を送ったりしなかったでしょう?」


 そんな事はと言ったものの、ミリもレントが手紙の遣り取りを狙っていたとは思っている。それなので、ミリはチリンへの反論が直ぐには出て来なかった。

 チリンのミリへの言葉に、パノは眉根を僅かに寄せた。


「チリンさん。レント・コーカデス殿がそれを狙っていたとしても、それでミリを責めるのはおかしいわ」

「おかしくありませんよ、パノ義姉様。ミリちゃんですよ?そんな企みに気付かない筈がありませんし、気付いたら躱せない筈がないではありませんか。詰まりミリちゃんは、分かっていて手紙を返したのに違いありません」


 これにもミリは反論が浮かばない。


「あるいは、ミリちゃんから文通を誘ったとしか」

「それはないです」


 直ぐに言い返したミリに、チリンは微笑みを向け、パノは指先で額を押さえて顔を隠した。それは、ミリから誘った事を即座にミリが否定した事で、レントの誘いに乗った事を否定しなかった事に付いては、それは事実だからだとミリが自白したのに近かったからだ。

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