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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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有用性と効果

 コーカデス伯爵領での馬車の動きについての資料が届けられ、ミリに渡された。

 ミリは中身を確認せずに、そのファイルをそのままレントに渡す。

 中には四ヶ月前から先月までの、領内の馬車の一台一台の移動情報が記されていた。レントの父スルト・コーカデス伯爵の使用している馬車についても載っている。


「コーカデス領についても、これほどの情報が集められているのですね」

「そうですか」


 中を見ていなかったミリに、レントはファイルを渡した。それを開いて、ミリは肯いた。


「なるほど。コードナ領とコーハナル領の資料を試しに取り寄せた事はあったのですけれど、他領でもここまで把握しているのですね」


 ぱらぱらと資料を(めく)りながらそう感想を口にして、ミリは再びファイルをレントに差し出す。


「こちらは、よろしければお持ち帰り下さい」

「え?よろしいのですか?」

「はい。不要でしたらこちらで処分いたしますが、この情報自体は秘密と言う訳ではありませんので」

「あの、料金はおいくらなのでしょうか?」


 ミリには気軽に取り寄せられる値段だとしても、レントにはそれ程手持ちに余裕はない。

 レントの雰囲気から、押し売りだとレントに思われたかと思って、ミリは慌てて否定する。


「いえいえ、大丈夫です。こちらは差し上げます。私はこの馬車クラブから情報を無料で引き出せますので」

「それは・・・ミリ様が馬車クラブのオーナーと言う事なのですか?」


 馬車クラブの位置付けが良く分からないので、立ち入り過ぎかとも思ったけれど、レントは回答を拒否される可能性も覚悟してミリに尋ねた。


「いいえ。曾祖父達からその権利を贈られているからです。馬車クラブの運営費は曾祖父達の遺産から出されていますけれど、オーナーに当たる存在はいません」

「オーナーがいない?」

「はい。ファンクラブですので」

「そうなのですね。そう仰っていましたね」

「はい」

「ミリ様の立場なら無料と言う事ですが、犯罪被害者にも無料で情報を提供しているのですか?」

「いいえ」


 ミリは首を小さく左右に振ると、小さく息を吐く。


「それなりの金額を請求します。本来なら、無料で提供するべきだとは思います。けれどそれですと、冤罪の証拠に利用される恐れがありますので」

「冤罪?」

「はい。無料で馬車の位置を調べておいて、そこで犯罪があったかの様に仕込む事が出来ます」

「なるほど」

「ですのでソウサ商会で被害者をフォローする場合には、まず調書を取らせて貰って、必要に応じて馬車情報を引き出して利用する事になっています」

「しかしそれでも、馬車クラブを通さずに予め馬車の位置を知っていたら、被害者を装って罪を着せる事は出来るのではありませんか?」

「そうですね。しかし被害者を装うまでは出来るでしょうけれど、罪を着せる事は難しいと思います」

「それはどうしてですか?」

「それは、本当に被害にあっている場合でも、罪を立証するのが難しいからです。犯罪があった事を完璧に偽装出来たとしても、そのコストに見合ったリターンは中々得られないと思いますので、わざわざ仕組まないのではないでしょうか?」

「しかし、例えば実際に犯罪を犯して置いて、それを別の人に罪を着せるのなら出来るのではありませんか?」

「不可能ではないとは思いますけれど、犯罪の本当の証拠の管理も難しいですし、犯罪に関係のない馬車の位置情報を証拠とするのは、かなり難しい筈です。馬車の位置情報は、無罪を証明する時の証拠にもなりますので」

「なるほど・・・確かに、仰る通りですね」


 肯いたけれど、レントにはまだ懸念が浮かぶ。


「しかし、誰が報告したのかを秘匿しておきながら、馬車クラブの提示する馬車情報が正しいと言う事は、どうやって証明するのですか?コードナ侯爵が設立に関与なさっていると言うだけでは、引き下がらない貴族がいる事も考えられますが?」


 コードナ侯爵家の力を侮る発言と取られる事を覚悟して、それでも既に用意されているであろう解決策を知りたくて、レントは体を乗り出してミリに詰め寄る様にそう尋ねた。


「馬車クラブの情報が充分な証拠能力を持つ事は、養祖父ルーゾ・コーハナルと王宮の文官の方々(かたがた)の尽力で、証明されております」


 ミリの誇らしげなその表情を見て、レントは喜びを感じて、自分に少し戸惑う。そして、その喜びは自分の想定が正しかった事を知ったからの筈だ、と納得して肯いた。


「なるほど。そうなのですね」

「はい」

「疑う様な事を申しまして、申し訳ございません」

「いいえ。当然の疑問だと、私も思います。それに裁判の証拠に採用される度に、馬車クラブ提供の情報が正しい事が、判例として積み上がっていっております。そして望まれればいつでも、正しさの証明に臨んでおりますので」

「証明?それはどの様にしてでしょうか?」

「疑問を持つ方が尋ねる、特定の馬車がいつどこにあったのかに答えるだけですね」

「それは色々と、分からない様に細工されたりするのではありませんか?」

「そうですね。数台の馬車の部品を入れ替えられた事もあるそうですよ?」

「え?それも当てたのですか?」

「はい。そう聞きました。その馬車はその時には存在してないと言うのが正解になりますけれど、キャビンはどこ、車輪はどことどこ、とそれぞれも当てたそうです」

「それは、すごいですね」

「ええ。情報が何台分にもなりましたので、仕掛けた方はかなりの金額を支払ったそうですけれど」


 そう言ってミリはおかしそうに笑うけれど、レントは別の事に気付いて眉根を寄せる。


「馬車の情報を調べるのには、かなりの料金が掛かるのですか?」

「はい。それなりには」

「そうすると、犯罪の被害者の(かた)が利用するには、ハードルが上がるのでは?」

「犯罪が立証されれば、費用は加害者に請求します。そもそも訴えられて直ぐに罪を認めるなら、馬車情報は不要です。認めない場合で、ソウサ商会も有罪が揺るぎないと判断して始めて、裁判に提示する証拠として馬車情報を取り寄せますから」

「そうなのですね」

「はい。なかなか罪を認めない加害者が、それなら馬車情報を取り寄せると被害者が宣言した途端に、罪を認める事もあるそうです。追加の費用を払わされるよりは、罪を認めた方がマシだと加害者が判断する程度には、料金が高い事は有名ですから」

「なるほど」


 自分は知らなかったけれど、後ろ暗い所のある者達には有名なのですね、とレントは判断した。

 レントのその納得した表情を見て、ミリは喜びを顔に浮かべた。

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