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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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用途と理由と抑止

2024/12/11 投稿を漏らしていましたので、「馬車クラブ」の前に「スイーツへの誘い」を差し込みました

 どう言う仕組みで馬車を監視するのか、愚直に一台一台の馬車を見張る他にレントには良い案が考えつかなかった。


「すべての馬車を見張っているのでしょうか?」


 レントの口から思わず漏れた言葉に対しての、ミリの「そうとも言えます」との返しに、レントは資料から顔を上げてミリを見詰める。

 そのレントの目が種明かしを望んでいる様に感じられたミリは、なんだか嬉しくなって口角を上げた。


「馬車は同じ設計書から作られた物でも、見る人が見れば、一台一台区別が付くそうなのです」

「一台一台?確かに区別が出来なければ、この様な情報の信憑性が下がりますね」

「ええ」

「その様な区別が出来る人を王都中に配置しているのですか?」


 どれだけの人手が掛かるのか、レントには直ぐに見当が付かない。しかしソウサ家が主導しているのなら費用計算もしっかりとなされているのだろう、とレントは考えた。


「馬車クラブで人の手配をしているのではありません。馬車職人達ですとか、馬車好きな人達ですとかで構成されている、一種のファンクラブの様な組織なのです」

「ファンクラブ?」

「はい。馬車ファンクラブですね」

「そう言う人が王都にはいるのですね」

「馬車好きな人は結構多い様ですよ?それに王都には限りません。国中に馬車好きな人はいる様ですから、国中から馬車の移動情報が集まります」

「国中から?」

「はい。王都ほど情報が細かくはありませんけれど、試しにコーカデス領での動きを出してもらって見ましょうか?」


 提案にレントが頷くと、ミリは護衛の一人にカードを渡し、受付に資料を用意してもらう様に依頼する。


「コーカデス伯爵領にはソウサ商会の支店はありませんが、情報は集められるのですね?」

「ソウサ商会とは別の組織ですし、現地で利益を上げている訳ではないので、広域事業者特別税を(のが)れている事にもなりません」


 確かにそうなのかも知れないけれど、それこそどれだけの人手を掛けているのか、レントには想像できなかった。


「しかしそれはまた何故です?その情報を集めてどうするのですか?」


 たとえ人を雇っているのではなく、ただで報告をさせていたとしても、それを王都に集積するには費用が掛かる筈。レントにはその費用に見合った情報の使い途が思いつかない。


「ソウサ商会では犯罪被害者のフォロー業務を行っています」


 ミリの言葉にレントは小さく肯く。

 その話はレントも知っており、ソウサ商会が撤退しているコーカデス伯爵領では、同じ様な事業を興したけれど上手くいっていないと言う問題も、レントは認識していた。


「その時に容疑者が貴族ですと、証拠を集めるのが難しいのです。しかし馬車の位置が把握できていれば、言い逃れは出来ません」

「言い逃れ?」

「ええ。いついつのどこどこにだれだれの手配の馬車があったと分かる訳ですから、容疑者がその証拠が誤りだと証明するのは不可能です」

「しかし、馬車があった事は分かっても、貴族がその犯行現場にいたのかどうか、それも証明するのは不可能なのでは?」

「顔検分も行われますけれど、貴族家の所有する馬車や借用した馬車がその場にあった事は動かし様のない事実です。身替わりを立てるかも知れませんが、被害者にとっては被害が弁済されるなら、それでも構わない場合も多いですので」

「構わないって、本当の犯人が捕まらなくても良いと言うのですか?」

「ええ。犯罪があった事を貴族に握り潰されるよりは」


 そう言ってミリに見詰められると、レントは叔母であるリリ・コーカデスを責められている様にも感じてしまった。


「この話は、わたくしにしても良いのですか?」

「え?はい。構いませんけれど、何故ですか?」

「その様な調査が出来る事は、秘密なのではありませんか?」


 話を聞いてレントには、馬車の移動情報を掴める事は、強力な武器に出来る様に思えた。


「秘密ではありません。馬車クラブの会員が誰なのかに付いては公にはしていませんし、事件の手掛かりになる情報を提供したのが誰なのかは、突き止める事が出来ない様にしていますけれど、馬車クラブの存在自体は公表されています」

「そうなのですか」

「はい」


 レントは証人を守る事には意識が向いていなかったので、ミリとの視点に違いがあるのだと改めて感じる。

 そのレントの表情を見て、納得していないと受け取ったミリは、説明を追加した。


「犯罪を犯す時、馬車を使える立場の人は、馬車で移動する事が多いのです。それは馬車の中にいる事で、自分の姿を隠している積もりになっているからでしょう。詰まりは悪事を働いている自覚があると言う事ですよね?」


 貴族なら日常的に移動手段として馬車を使っている事が多いので、悪事を働く時にも特に意識して馬車を使っているとはレントには思えなかった。それなのでレントは小首を傾げたけれど、意識しようと無意識だろうと、貴族の犯行時には馬車が使われる事が多いのは確かにそうだろう、と思って小さく肯く。


「そして馬車を使えば犯罪が突き止められると周知されれば、犯罪抑止に繋がるかとも思いますので」

「しかしそれなら今度は、騎馬や徒歩で犯罪に臨むのではありませんか?」

「そうかも知れません。悪事を企む人は、何をしても実行するかも知れません。しかし騎馬で誘拐などを行えば、非常に目立つと思います。徒歩でなら攫ってから被害者をどこかに隠すまでに、かなりの時間が掛かるでしょう。その間に目撃されたり被害者に逃げられたり、或いは逮捕されたりする確率は、馬車を使った場合の比ではありません」

「それは・・・確かに、そうなのかと知れません」

「ええ。私は犯罪者を罰するよりは、犯罪被害者を出さない方が大切だと思っています。ですのでその為には、曾祖父達が築いた馬車クラブは、とても有効な手段だと思っています」


 そうミリに微笑んで言われると、どうしてもミリの母ラーラの誘拐事件が頭に浮かび、レントは「そうですね」と言って肯くのが精一杯だった。

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