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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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スイーツへの誘い

2024/12/11 投稿を漏らしていましたので、この話を差し込みました

 バルの後ろから姿を表したミリに対して、レントは礼を取った。ミリも礼を返す。

 サニン王子の前で以前行った古式床しい礼を思い出して、レントが今もそうするのではないかと心配もしていたミリは、レントがちゃんと今風の礼を取った事にホッとすると同時に、少しだけ寂しく感じた気がした。寂しいはおかしいと思ってミリは、物足りなく感じたのだ、と言う事にする。


「お久しぶりです、レント殿」

「ご無沙汰しております、ミリ・コードナ様」


 レントもミリに釣られて笑みを浮かべたが、直ぐに表情を引き締めた。


「バル・コードナ様、ミリ・コードナ様。この度は大切な方を亡くされました事、お悔やみ申し上げます」


 レントが会釈をすると、ミリも会釈を返す。


「恐れ入ります。遠いところをいらして下さって、ありがとうございます」


 頭を下げたままのミリが横目で一睨みすると、それに気付いたバルも会釈した。


「痛みいる」


 そう一言だけ言ってバルは顔を上げる。

 ミリも顔を上げて、レントに微笑みを向けた。


「さあレント殿、こちらへどうぞ。長旅でお疲れでしょう。父の新作のスイーツを用意致しましたので、是非召し上がって下さい」

「ありがとうございます。とてもうれしいです。しかしお忙しい所を急に訪ねましたので、長居をさせて頂く積もりはございません。ここで結構です」


 バルのスイーツに心を揺さ振られてまた笑みを浮かべたけれど、レントはミリの申し出を断る。


「え?もしかして、直ぐにもう、コーハナル侯爵家に向かいますか?」

「いいえ。コーハナル侯爵家への紹介状を頂けないかと思いまして、本日はそのお願いに参っただけでございます」

「ミリに案内をさせる積もりではなかったのか?」


 レントの言葉にバルは、眉根を寄せてまた低い声でそう(ただ)した。


「いいえ。ミリ・コードナ様が忙しい事は伺っておりますので、紹介状を頂ければ、わたくし一人でコーハナル侯爵家を訪ねさせて頂きます。本日はそのお願いに上がりました」


 想定と違うレントの要望に、バルの眉間の皺が深くなる。


「紹介状と言っても、準備もしていないから、今直ぐには出せないぞ?」

「承知しております。書いて頂けるかどうかの検討もなさると思いますので、後日改めて、ご回答を伺いに参ります」

「いいえ。今日でもよろしければ、私がコーハナル侯爵家に案内致します。お父様?よろしいですよね?」


 ミリが首を傾げてバルを見上げた。

 バルとしてもその積もりだった。本当はもう少しレントに意地悪を言いたい気はしたけれど、ここまで下手に出ている子供に対してその様な事をしたら、愛娘になんて思われるか分からない。


「ああ、構わない」


 その予定だったし、ミリがレントの前で明言した以上はここで何と言っても結果が変わらない事は分かっているので、バルは意地悪を諦めて、代わりにせめて愛娘に心が広く思われる様にと鷹揚に肯いて見せた。

 それを受けてミリも小さく肯くと、レントに向き直る。


「先程コーハナル侯爵家より、レント殿のピナへの献花に感謝する旨の連絡を受け取りました。よろしければスイーツを召し上がって頂いた後にわたくしが案内致しますけれど、レント殿がお忙しい様でしたら、このまま向かいますか?」

「よろしいのですか?」

「ええ、もちろんです」


 レントの確認はピナの墓参への許可と同行に対してだったけれど、ミリはこのまま直ぐに向かう事に対して答えていた。バルもミリと同じ受け取り方をして、少し機嫌を損ねる。


「先程の話ではレント・コーカデス殿は、それほど忙しくはない様子に思えたが?」

「あの、はい」


 バルの質問の意図が分からずに、レントはあやふやな表情を返す。


「遠くより訪ねて来たのに、コードナは茶も出さないなどと思われては困る」

「お父様」


 ミリがまたバルを一睨みするのを見て、レントはバルの言葉の意味を理解した。


「いえ、その様な積もりはございません。ただ、ミリ・コードナ様がお忙しいと思いまして、ご案内頂くにしても、お時間を取らせない様にしたいと考えたのです」

「構いませんよ、レント殿」


 レントの言葉を言い訳の様に感じて憮然とするバルの隣で、ミリはレントに微笑みを向ける。


「この後の予定はありませんので、レント殿さえよろしければ、わたくしの自慢の父の監修したスイーツを是非、召し上がって行って下さい」


 ミリの自慢がどこに掛かるのか、解釈の余地のある言い回しだったけれど、バルの機嫌は直った。


「ありがとうございます。しかし、厚かましいとは存じますが、出来ましたらデドラ・コードナ様とフェリ・ソウサ殿の墓前にも、花を捧げさせていただきたいと思っているのですが、いかがでしょうか?」

「二人にも?」

「はい。お二方(ふたかた)が亡くなられている事は、つい先程知りまして」

「そうだったのですね。ソウサ家は大丈夫だと思いますけれど、お父様?コードナ侯爵家はどうでしょうか?」

「問題ないだろうが、両家にも連絡を取ってみよう」

「ありがとうございます、お父様」


 ミリはバルに見せた笑顔をレントに向けた。


「という事ですので、両家から回答があるまでは、お茶とスイーツをいかがですか?」

「ありがとうございます、バル・コードナ様、ミリ・コードナ様。分かりました。ありがたく、戴かせて頂きます」

「ええ、是非。ね?お父様?」

「ああ」

「さあ、こちらへどうぞ」

「はい」


 ミリの合図でバルが先頭に立ち、ミリはレントに並んで案内をした。



 スイーツを食べるレントを見ている内に、バルの中の蟠りは(ほど)けていった。

 コーカデス家とは敵対関係にあったけれど、ラーラが誘拐されたのはレントが生まれる前だし、表面的にはコーカデス家とコードナ家は和解もしている。

 目の前のレントも、ミリを蔑む素振(そぶ)りは見せていない。

 それはミリと(おこな)っている文通をチェックしている上で、表向きの手紙の文面からもバルが感じていた事だった。秘密の文面も見たらきっと、レントがミリに敬意を示している事も、読み取れていたのに違いない。あるいはそこに作為を感じて、却ってレントを疑う事になったのかも知れないけれど。


 取り敢えず、目を輝かせて美味しそうにバル監修スイーツを食べるレントの様子を見て、悪い子ではないな、との結論をバルは出す。

 そして、最初に見せた大人気ない態度を反省したのもあって、レントがコードナ邸を辞去する時には、「王都に来たら、また寄りなさい」とバルは声を掛けていた。

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