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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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フェリの見舞いの注意事項

 助産師を助産院にまで送ったミリは、そのまま助産師達の手伝いをしたり、過去の診察記録の続きを読んだりして、夕方まで助産院で過ごした。

 助産院からソウサ邸には、ミリは騎馬で帰る。助産師をコーハナル侯爵邸に送り迎えするのに使った馬車は、既にコードナ邸に帰していた。


 ミリがソウサ邸に帰ると、バルとラーラが待っていた。


「お父様、お母様。こんばんわ」

「こんばんわじゃないわよ」

「はは。お帰り、ミリ」

「お帰りでもないでしょう?バル?ミリ?あなた達の家はコードナ邸よ?」

「え~と、はい」


 会っていきなりラーラに絡まれて、ミリは答に迷う。


「ミリったら最近は全然帰って来ないじゃない」

「申し訳ありません」

「曾お祖母ちゃんの看病をしてくれているのは分かっているけれど、顔も見れないのは淋しいわ」


 ミリはラーラにいつもと違うものを感じ、なんと返したら良いのか分からなくて、取り敢えずもう一度「申し訳ありません」と言って頭を下げた。


「おいで、ミリ」


 そう言ってミリを抱き上げる事で、バルがミリをラーラから救う。


「ラーラ。ミリに謝らせる為に、ソウサ邸に来たのではないだろう?」

「そうだけれど、頭が良い筈の私達の娘が、どこが自分の家なのか忘れてしまっているみたいだから、私達が親である事も忘れたりしない様に、アピールしているのよ」

「え?アピールなのか?」

「ええ、アピールよ。ミリ?」

「はい、お母様」

「忙しいのは分かっているわ。でもたまには顔を見せなさい」

「申し訳ありません、お母様」

「ミリはいつもこのくらいの時間に、ソウサ邸に帰って来ているのかい?」

「はい、お父様。出掛ける時も、曾お祖母ちゃんの夕食の時間には、間に合う様に戻る様にしています」

「そうなのだね。ご苦労様」

「それは、ありがとうね、ミリ」

「あ、いえ」

「ミリに任せっ放しにして、申し訳なくは思っているの」

「いいえ、お母様。私が自分でやりたくてやっている事ですから」

「ええ。でも、ありがとう」


 そう言うとラーラは、バルに抱き上げられているミリの頭を撫でた。


「ところで、ミリ?」

「はい、お母様」

「ミリの許可がないと、曾お祖母ちゃんのお見舞いが出来ないって言われたのだけれど、どう言う事?」

「許可と言うか、口裏を合わせて欲しいので、そうお願いしています」

「口裏を合わす?フェリさんに対してかい?」

「ええ、お父様」

「何かウソを吐かせる積もりなの?それとも何かを秘密にするのかしら?」

「ウソの積もりはないのですけれど、曾お祖母ちゃんは私をお母様だと思っているので、その辺りを改めて認識して置いて欲しいのです」

「ミリと私を間違えるのは聞いていたけれど、認識するってどうするの?私がラーラだと曾お祖母ちゃんに分からせれば良いの?」

「その、お母様が曾お祖母ちゃんの前に立てば、多分ちゃんと、お母様をお母様だと分かると思います」

「曾お祖母ちゃんが自分の勘違いに気付くって事ね?」

「いいえ。私とお母様を同一視していると思うので、私が(おこな)った事をお母様がなされたものとして、話して来ると思います」

「え?ミリを私と思って、私の事を忘れてしまったって言う事?」

「いえいえ、逆です。私をお母様だと思っているのですから」

「それだと、ラーラとミリが一緒にフェリさんの前に立ったら、フェリさんが混乱するって事かい?」

「いいえ、多分、お母様の事はお母様だと認識して、私の事は認識出来ないのではないかと思います」

「認識出来ない?どう言う事だい?」

「曾お祖母ちゃんの意識の中では、お父様とお母様は結婚したばかりで、お母様は私の事をまだ妊娠していないのです」

「え?ミリをミリって意識するタイミングはないの?」

「最近は、はい」

「フェリさんがミリの名前を言い間違えるだけなのだと思っていたのだけれど、本当にラーラと勘違いしているのか」

「どうして?そんなのヒドいじゃない?」

「勘違いと言うか、曾お祖母ちゃんはそう認識しているので」

「ミリ?一緒に曾お祖母ちゃんの前に立ちましょう。そうすれば曾お祖母ちゃんも、私とミリは別だってわかるでしょう?」

「そうかも知れませんけれど、その場合、私は知らない人だと思われそうで」

「え?そんな訳ないだろう?」

「いくら曾お祖母ちゃんが呆けていたって、私とミリが並べば、さすがにどっちがどっちかわかるでしょう?」

「でも、曾お祖母ちゃんの認識の中では、私はまだ生まれていないので、お母様と並んで立つと、曾お祖母ちゃんからしたら、初めましてになりそうです」

「そんなのって」

「ミリだって言っても、フェリさんには通じないのかい?」

「曾お祖母ちゃんにとってミリと言うのは、お母様のメイドだったミリさんの事ですから」


 ミリの言葉に、バルもラーラも声を失くす。


 ミリの懸念の通りに、もしフェリがミリを知らない人だと思ったりしたら、あまりにもミリが可哀想だと思ったラーラとバルは、ミリを置いて二人だけでフェリに会う事にした。


「それと曾お祖母ちゃんの手は、今は袋で包んでいます」

「袋で手を?」

「それは治療でかい?」

「直接、治療と言う訳ではないのですけれど、曾お祖母ちゃんが体中を痒がって、掻きこわしてしまうので、掻けない様にしているのです」

「痒がるってどうしてだい?」

「お風呂に入れないから?」

「お風呂には入れませんが、体は毎日拭いています。安静にしていなくてはならないのですけれど、曾お祖母ちゃんがどうしても体を動かしてしまって、添え木と擦れて肌が傷付いて、そこが瘡蓋になったりしました。そこを痒がって掻いたので、傷が広がったり膿んでしまったりしています」


 バルとラーラは、この話にも言葉を失う。


「ですから、曾お祖母ちゃんが外したがっても、手の袋を取らないで下さい」

「そうか。分かったよ」

「それとその所為で、お母様を私と間違えたら、お母様に抗議すると思います。ごめんなさい」

「それってでも、ミリの所為ではないでしょう?」

「曾お祖母ちゃんの肌のケアをもっと丁寧にしていたら、あんなに痒がらなかったと思いますし、膿んだりしなかった筈です」

「ミリの所為ではないよ」

「そうよ。ミリの所為ではないわ。気にしたらダメよ?」


 ラーラはそう言うとまた、ミリの頭を撫でた。


「ありがとうございます」


 ミリの作る微笑みに切なくなって、ラーラとバルは三度(みたび)、言葉を失くした。

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