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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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責任と役割と心配

 パノの母ナンテが視線を向けると、情けない顔をしたミリと目があった。

 ミリの珍しい表情に、ナンテの口角が思わず少しだけ上がる。


「ミリ」

「はい、養伯母(おば)様」

「チリンさんの妊娠は、本来なら私が気付くべきだったと話しましたよね?」

「はい」

「チリンさんの妊娠に付いては、姑の私が責任を持つのが当然ですよね?」

「・・・そうなのですか?」


 ミリは様々な事を知ってはいるけれど、嫁姑関係に付いては今ひとつ納得出来ていなかった。それは小説や文献で得た知識と、ミリの周囲の嫁姑の関係が、今ひとつ噛み合わないからだ。

 それなので、ナンテに言い切られると、ミリは自信の無さそうな顔をする。それを見て、ナンテは自信たっぷりの表情で「もちろんです」と肯いた。


「ただし身近な人の妊娠は、ミリの経験にもなるでしょう。ですから今まで通り、チリンさんを訪ねて来ても構いません。ねえ?チリンさん?」


 呼び掛けられて、パノの弟嫁チリン元王女も肯く。


「はい、お義母(かあ)様。ミリちゃん?」

「はい、チリン姉様」

「私が気楽な時間を過ごす為に、遊びに来て貰えるかしら?」

「はい。それはもちろんです。ですけれどわたくしは、チリン姉様の体調を見届けたいのですけれど」


 ナンテの意向を掴めていないチリンは、直ぐに返事が出来なかった。それを受けてパノが口を挟む。


「それは構わないのではない?ミリも気にはなるだろうし、勉強にもなるだろうし。ねえ、チリンさん?お母様?」

「ええ。パノ義姉(ねえ)様の言う通りですね。見届けてミリちゃんの経験にして下さいね?」

「そうですね。ミリに助言を貰ったりもするでしょうし、何かをお願いする事もあるかも知れません。しかしコーハナル侯爵家には私もいますしパノもいます。チリンさんの事は任せて貰って大丈夫です」

「それはもちろん養伯母様の仰る通りなのですけれど、パノ姉様にはコードナ家の事や母の事に付いて、色々とお願いしていますし」

「それなのだけれど、私は今後しばらくは、こちらで暮らそうかと思っているの」

「え?パノ姉様?ウチに帰らないの?」


 ミリの驚いた顔に、パノは苦笑する。


「そうだけれど、ミリも最近はソウサ邸に泊まって、自分の家には帰っていないのでしょう?」

「それは、でも」

「ええ、分かっているわ。フェリさんの看病をしているのだものね。でもまだお祖母様の葬儀もデドラ様の葬儀もあるのに、フェリさんの看病に加えて、妊娠が分かったチリンさんの面倒まで見ていたら、ミリが倒れるわよ?」


 そう言われると、手一杯の気もしなくはない。でも。


「わたくしなら、一晩寝たら疲れはなくなってしまうのですから、まだまだ大丈夫です」

「そうでしょうね。でもね?ミリ」

「はい、パノ姉様」

「知らないかも知れないから教えるけれど、ここ、コーハナル侯爵邸は私のウチなの」

「え?」

「ミリが生まれる前からラーラ達と暮らしていたけれど、私のウチはここなのよ」


 ミリも当然それは知ってはいた。

 そしてそれを言われたら、パノに対してコードナ邸に帰ろうとは、ミリには言えなくなってしまった。



 診察が終わり、帰る助産師をミリがまた馬車で送る事になる。しかしその前に、ミリはパノに話し掛けた。


「パノ姉様がチリン姉様の睡眠薬を求めたと聞きました。もしかして、あまり眠れないのですか?」

「そうね。昨夜は少し寝付けなくて、試しに貰って飲んでみたの」

「お眠りになれましたか?」

「ええ、心配しなくても大丈夫よ」


 パノはそう答えて微笑むけれど、ミリにはパノが疲れて見える。


「パノ姉様用に処方して貰って、睡眠薬を持って来ましょうか?」

「大丈夫よ。また眠れなさそうになったら、お酒でも飲むし」


 そのパノの言葉でミリは、チリンに渡した妊婦向けの睡眠薬では、やはりパノがよく眠れなかった事を悟る。


「眠る為にお酒を飲むのは、体に良くないと聞きます。もし寝付けない夜が続く様なら、連絡を下さい」

「なあに?ミリは私の面倒までみて、また自分の仕事を増やすつもり?」

「そう言う積もりではありませんけれど」

「心配してくれてありがとう。でも私は大丈夫よ?」


 ミリは曾祖母フェリの治療の時に医師から、患者の大丈夫は真に受けてはダメだ、と習っていた。確かに大丈夫な時もある、とも言われているけれど。

 そして目の前のパノは、いかにも体調が優れなさそうだった。体調が悪くて眠れなかったのか、寝不足の所為で体調が悪いのか、あるいは妊婦のチリン向けの睡眠薬が合わなかった事も考えられて、ミリはどうしても心配になる。


「お酒を飲み続けたりする前に、なにかわたくしに出来る事があれば、仰って下さいね?」

「だから、大丈夫だから、心配は要らないわ」


 パノの言葉に、ミリは「いいえ」と首を振る。


「確かにわたくしには飲酒の経験も、妊娠した事もありませんけれど、出来る事があるのに大切な人の為に何もしないでいるのは、もうイヤなのです」

「・・・お祖母様の病気の事を言っているの?」

「それもありますけれど、色々です」

「色々?」

「お父様とお母様の事とか」

「なんで?ミリは良くやっているじゃない?」

「最近家に帰っていないのは本当ですし、我が家以外の話も色々」

「私の事より、色々と抱え込むミリの方が心配だわ。ミリこそちゃんと寝ているのでしょうね?」

「はい。寝付けない事とかありません。それで言うとパノ姉様の事に口を出しておきながら、寝付けない経験もないのですけれど」

「その方が良いわよ」


 パノは手を伸ばして、ミリの頭を撫でた。


「そうね。やっぱり、睡眠薬を頂こうかな?」

「パノ姉様」

「眠れない夜があるかどうかは分からないけれど、その時の為のお守りにするし、ミリも安心出来るでしょう?」

「押し付ける様でごめんなさい。でも、ありがとうございます」

「どういたしまして」

「後で届けるか、届けて貰いますね」

「いいえ。私が医師のところに行って、診察を受けて貰って来るわ。その方がちゃんと効く薬を貰えるわよね?」

「そうですね。その方が安心ですね」

「だからミリは安心してくれて良いわよ?」

「分かりました。よろしくお願いします」

「私の事なのに、ミリがお願いするのも変じゃない?先程の『ありがとう』もおかしいわよね?」

「いいえ。わたくしが安心する為なので、わたくしの為です」


 ミリが真剣な表情でそう言うので、パノはおかしくなって「そう」と返しながら笑った。

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