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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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妊娠対応方針

事例や悪影響はフィクションです

 妊娠している様だと告げられて、チリン元王女の心から喜びが溢れ出る。しかしそれを直ぐに助産師の言葉が止めた。


「強い感情は胎児に良くないと思われています。それが喜びでも」

「え?そうなの?」


 チリンは思わずミリを見る。ミリは「はい」と小さく肯いてチリンに返した。


「妊婦さんが早産をした原因が、喜び過ぎた出来事があったからだと判断された診察記録をわたくしも読みました」

「喜び過ぎたって、何を喜んだの?」


 パノの言葉にミリは首を小さく左右に振る。


「理由は書かれていませんでした」

「わたくしが聞いたのは、夫が生きて帰って来たからだと」


 助産師が補足した。


「馬車が盗賊に襲われて亡くなったと思っていたら、一月(ひとつき)以上経ってから帰って来たそうです。怪我で帰れなかったとか」

「治るまで帰れなくても、連絡くらいは寄越さなかったのかしら?」

「それが、治療費を支払うのに働かされていたとの事で、治療費を踏み倒して逃げ出して、自宅にも隠れて帰って来たのだと聞きました」


 質問したパノも答えた助産師も同席していた他の皆も、微妙な顔をする。

 助産師は他にも、意地悪な姑が急死したのを喜んで早産したと言う話を聞いて知っていたけれど、チリンの姑のナンテも同席している前では口には出来なかった。

 どちらの場合にしても、妊婦が喜んだ理由までは診察記録に書けなかっただろう。



「それと流産や死産の可能性も、念頭に置いて置いて下さい」


 助産師の言葉にチリンが体を硬くする。


「王家や王家の血を濃く引く公爵家の出身の女性は、他の貴族家の方達より流産や死産の率が高くなっています」

「それは、知っています」


 チリンの応えに助産師は小さく肯いた。


「王妃陛下もそうでしたし、亡くなられた太后陛下もそうだったと聞きます。歴代の方達もです」

「ええ」

「ですが王妃陛下はそれを乗り越えて、ソロン王太子殿下とチリン様をお産みになりました」

「はい」

「チリン様が出産に希望を持つ事はわたくしにも理解出来ますが、子供は授かりものです。胎児やご自分に過度の期待を掛けるのは、特に王家の血を引く(かた)に取っては危険です」

「・・・はい」

「妊娠中には色々と不安を感じるものです。初めての妊娠や出産ならなおさらです。そして母親の状態に関わらず、流産や死産は起こり得ます。ですからどうか、出来るだけ自然体で気楽に、妊娠期間をお過ごし下さい」


 助産師の言葉はチリンにだけではなく、ナンテ達にも聞かせる為に言っているのだと、ミリは感じた。ソロン王太子の妻ニッキ王太子妃も、サニン王子を産んだ後に流産を続けていると言う事をミリは思い出す。


「ええ。分かりました」


 姿勢を正してそう応えるチリンの姿から、王家出身の威厳を皆が感じ取った。



「定期的に往診をさせて頂きますし、いつでもご連絡頂いて構いませんので、何かあれば仰って下さい」

「はい、ありがとうございます」


 チリンの助産師への応えに合わせて、他の三人も肯いた。


「ミリ殿が付いているのでしたら問題はないかと思いますけれど」

「いいえ。確かにミリは頼りになりますけれど、チリンさんの妊娠に付いてはコーハナル侯爵家で対応します」


 ナンテが助産師にそう返す。自分が外される様に聞こえて、ミリは驚いてナンテを見た。しかしパノは納得して、小さく肯く。

 もし流産や死産となってしまった時に、ナンテはミリに責任を取らせたりする事がない様にする為に、ミリをチリンの妊娠から離そうと考えていた。

 それはミリが、パノの祖母ピナの死に責任を感じてしまっていたからだ。


 コーハナル侯爵家の皆は、死因が肺炎でもピナは天寿を全うしたと考えている。他家の人間から見てもそうだ。

 誰もミリを責めたりはしていないけれど、ピナの死でミリは自分を責める言葉を口にしていた。

 それなのでナンテはチリンの妊娠に、なるべくミリを関わらせたくはなかった。

 ミリがチリンをフォローすれば、無事に出産出来た時にミリの手柄には出来る。しかしそのメリットよりは、デメリットの方が大きい。なにしろチリンはこれから何度も妊娠を繰り返すかも知れないけれど、その結果次第ではミリが自分を責め続けてしまうかも知れない。それに、最初から携わらせて置いて途中で手を引かせるよりも、最初から距離を置かせておいた方が良いとナンテは判断したのだ。

 そしてナンテがそう考えたであろう事は、パノにも良く理解出来た。


 ミリを遠ざける様なナンテの発言に、チリンは不安が膨れそうになったけれど、今はそれを意識して抑える。

 ピナが亡くなってから、その事を悲しんでばかりだったチリンは、ピナの死でミリがミリ自身を責めている事には気付いていなかった。

 しかしナンテがミリを可愛がっているし頼りにもしている事は、チリンは知っているし疑ってもいない。

 姑のナンテから嫁のチリンに対しての意地悪にも思えない。何しろチリンのお腹の子はスディオの子であり、つまりはナンテの孫なのだ。お腹の子に悪影響を与えそうな意地悪をする事はない筈だ。

 ミリを遠ざけるならそれなりの何らかの理由がある筈だと、チリンは考える。今は分からないけれど、後でナンテかパノに訊いて確認すれば良いと、チリンは判断した。

 そしてチリンも小さく肯く。


 三人の様子を見たミリの眉根が寄り、眉尻は下がった。

 強く感情を表すのが妊婦や胎児に良くないと書きましたが、あくまでフィクションです。

 不幸な状況は良くないでしょうけれど、悲しいドラマを見て泣いたりするのもストレス解消の為にはありなのだそうで、詳しくは医師にお尋ね下さい。

 応援している大好きなチームが優勝したから興奮し過ぎて早産をした、と言う話を聞いた事はあるのですけれど、事実関係は不明です。

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