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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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30 ラーラの縁談に対するコードナ侯爵家の対応

「そうすると問題は、ラーラとバル様の交際だな。控えて貰わないとスランガがどう受け取るか」


 ラーラの祖母フェリとラーラの父ダンの遣り取りに目もくれず、ラーラの祖父ドランは腕を組んで眉間に皺を寄せてそう言った。

 ラーラの母ユーレがドランに向けて告げる。


「それだけどお義父(とう)さん、コードナ侯爵家から提案があって」

「提案?」

「提案なら、受け入れない事も出来るのかい?」


 フェリがダンからユーレに視線を移して訊いた。


「それは出来ないけど」

「やっぱそうかい」

「でもお義母(かあ)さん、悪い話じゃないわ。二人の交際にスランガさんが選んだ人間を同席させても良いって」

「同席って、馬車の送迎も?」

「ええ」

「コードナ侯爵家でのお茶会とかも?」

「ええ」

「そんな事はバル様だけで決めたらダメだろう?」


 ドランの眉間に皺が寄る。


「これは大奥様と若奥様に言われたそうよ」

「あらま」

「侯爵様や若旦那様は承知してるのか?」

「それは、聞いてないけど」

「大丈夫だよ父さん。身元不詳の者を同行させても良いって言ってるんだ。護衛も強化するだろうから、コードナ侯爵家の総意だよ」

「かなり経費が掛かりそうだな」

「馬車もまた6頭立てを使うんだろうしね」

「え?あの大きいのを?でもスランガさんの所の人を同乗させるなら、追加の護衛も同乗するわよね」

「あれ、停められてると邪魔なんだよね。でもそうかい」

「その話はスランガには伝えたのか?」

「伝言はした。早速明日から同席して良いって言うから、人を寄越す様に伝えてある」

「港に着いたばかりで、手配出来るのか?」

「息子の将来が掛かってるなら、何とかするだろう?なんたってラーラを嫁に貰えるかどうかに影響するからね」

「それはそうだな。手配出来なければスランガが来るだろうし」

「それじゃあ乗組員への説得にならないから、日替わりで人を入れ替えながら寄越すと思うよ」

「自分達の目で確かめさせるのか」

「そうそう」

「その乗組員、一日一緒にいたら、ラーラに惚れちゃわないか?」

「あ!確かに!拙いな」

「まあパサンドより将来性があるならラーラを任せても良いが」

「いや、予定が狂うと困るな」

「お義父さんもダンもいい加減にしたら?ねえお義母さん?お義母さん?どうしたの?」


 少し顔を伏せて動かないフェリに、ユーリは気付いた。


「何か気になるの?」

「大きな馬車も侯爵邸でのお茶会参加も、コードナ侯爵家の示威行為だね」

「え?誰に対して?」


 不穏な言葉にダンが驚く。


「スランガ」

「何処が?何の為に?」

「ラーラの縁談を邪魔する為に、スランガの申し出に対して余計な費用を掛ける事で、圧力を掛けられる」

「理由が分からない。何でラーラの縁談を邪魔するんだ?」

「バル様との交際を続けさせる為」

「その為にラーラの将来をねじ曲げるのか?」

「いや、待て」


 いつもと違い、冷めているフェリと段々熱くなって行くダンの会話をドランが止めた。


「ラーラはその事を知ってるんだな?」

「ええ。馬車の手配やお茶会の話なら、ラーラが聞いて来たから」

「なるほど。ラーラは承知済みか」

「あるいはラーラの発案かも」

「あの、どう言う事?」

「父さんと母さんは、スランガとの縁談を壊す為にラーラがコードナ侯爵家に頼んで、バル様との交際の席にスランガの目を同席させる様に仕向けたって言ってるのか?」

「え?なんで?それならパサンド君との縁談はイヤだって言えば良いだけなのに、なんでそんなに回りくどい事をするの?」

「熱に浮かれてとか」

「え?バル様が?」

「ラーラかも」

「あり得ない」


 ダンは切り捨てる様に言った。


「ウチは貴族相手に商売はしてないじゃないか。ラーラがバル様との将来を望んでも何にもならないだろう?スランガの所に嫁に行くのだって、それがどれだけウチの利益になるか、ラーラが理解できない筈がない」


 そう言ってダンは立ち上がる。釣られてユーレも立ち上がったが、夫の行動に予測が付いた。


「何処行くの?ラーラならもう寝てるわよ?」

「起こす」

「何言ってんの」

「起こしたって無駄だよ」


 フェリが声でダンを止める。

 睨むダンと目を眇めて見返すフェリを止めるために、ドランは二人に手のひらを向けて制す。


「ラーラは何にも言ってなかったんだろう?そんな企みをしてるか、そんな積もりじゃないか、どっちにしても同じ答だ。訊くだけ無駄だな」


 ドランの言葉にダンは肩を落とし、腰を下ろした。それを見てユーレも座る。


「しかしバル様とは身分差がある事は、ラーラだって最初から分かってた筈だ。身分差があるからこそ、友人以上の関係にはならないと言ってたのだしな」


 ドランの言う通りだと思い、ユーレは眉間に皺を寄せた。ダンは憮然としている。

 フェリは溜め息を()いた。


「自分達の事を棚に上げて置いて、良くそんな事を言えるね」


 3人の視線がフェリに集まる。


「ダンとユーレだって、私達やユーレの両親の反対を押し切って結婚したじゃないか」

「え、それは・・・」


 何か言い返したいがユーレは言葉に詰まる。

 代わりにダンが言い返した。


「結婚する時には賛成してくれてたじゃないか」

「それはユーレに商才があったからだよ。見ず知らずの娘を連れて来ていきなり結婚するなんて、普通は反対するよ」

「父さんと母さんだって、親の反対を押し切って結婚したんだろう?私達の事、言えない筈だ」

「だからだよ。ザールは私達の勧めで婚約したけど、ワールもヤールも言う事なんて聞きゃしない。それなのになんでラーラは自分達の思い通りに、ウチの為の結婚を選ぶと思うのさ」

「ではラーラはバル様と結婚したがってるのか?」


 ドランが少し首を傾げて尋ねる。


「それは分かんないけどね。少なくともパサンドとは結婚したくないんじゃないかい」


 ドランは「ふむ」と肯くが、ダンは納得しない。


「だから、したくないならそう言う筈だろう?」

「じゃあ試してるのかもね」

「え?何を?」

「知らないよ。スランガやパサンドの決心じゃないかい?だいたい噂の真偽も確かめないうちに、交際を控えろって何様なんだい。そんな事言われたら、ヘソを曲げたって当たり前だよ」

「ラーラは母さんとは違うよ」

「ああ、ダンとだって違うさ」

「まあ、誰に似たのか、頑固ではあるな」


 ドランの言葉に3人の視線が集まる。

 4人とも、頑固なのは自分以外からの遺伝だと思った。ダンはユーレとは思っていないが、ユーレの両親か自分の両親か、もしくはその4人からかも知れないとは考えている。


 軽く咳払いをして、ドランが続けた。


「取り敢えずラーラはともかく、コードナ侯爵家はどう言う積もりだろうな。ダンも言ったがウチは貴族家とはほとんど取引がない。地方の領地は行商に回るが、取引は領民とがほとんどだ。扱うのも農産物の加工品がメインなので、コードナ侯爵家がウチと繋がりを持ちたいとは思えん」


 フェリがまた溜め息を()く。


「もし、コードナ侯爵家から、ラーラとバル様を結婚させたいって申し込まれたら、どうするんだい?」

「どうするも何も母さん、あり得ないだろう?」

「なんであり得ないのさ?」

「結婚て理由もなくする様なもんじゃない。コードナ侯爵家に取ってラーラと結婚させる理由はないだろう?ウチは貴族とはほとんど繋がりがないって言うのに。コードナ侯爵家に取ってメリットがないよ。子供って貴族に取っては導具の面もある。大切な子供をメリットがない結婚に使う筈がないな。それはラーラがどれだけ魅力的でもだよ」

「コードナ侯爵家から二人を結婚させろって来たら、あり得ないからって断るのかい?」

「それは、断れないだろうけど、あり得ないって」


 フェリは少し視線を下げて、テーブルの端を見詰める。


「ラーラがバル様に相応しくないって噂、知ってるかい?」


 フェリが視線を上げずに、誰にともなく問い掛ける。


「ああ。もちろん知ってるよ」

「しばらく前から流れてて、少しずつ内容が酷くなってるわよね?」


 ダンとユーレの言葉に、ドランは声を出さずに肯く。

 フェリは視線を上げて、3人を見回しながら言った。


「その噂の直ぐ後に、リリ・コーカデス様がバル様には合わないって噂が流れたのは?」

「うん?そんなのは報告には上がってないけど?」

「そんな噂があるの?」

「報告は載ってない。コーカデス様の噂で、ラーラのじゃないからね。でもなんでそんな噂が出たのか不思議だったんだけど、その噂をコードナ侯爵家が流してるんなら、今日の状況に納得がいかないかい?」


 3人とも、応えを返せなかった。


「私達が知らないラーラの価値が、貴族様には見えるのかも知れないよ」



 翌朝早く、疲れた顔をしたスランガがソウサ家を訪ねて来た。

 スランガはコードナ侯爵家に、交際への同席を辞退して来たと言う。

 

 落ち着いたらラーラとパサンドの縁談の話もしたいとの事だったが、ラーラとバルとの交際に付いては今まで通りで構わないとスランガは告げた。


 後ほど改めてコードナ侯爵家にお詫びをするのでその時は相談に乗って欲しいと言い残して、スランガはお茶も飲まずに帰って行った。



 スランガの変わり身の早さに、「スランガの(うしろ)に別の貴族家が付いているのかも知れない」とのフェリの言葉を聞いた家族は皆、目を瞑ってスランガの貿易品の取引先を頭に浮かべ、眉間に皺を寄せた。

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