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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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03 交際開始

 翌日、いつもなら登校中に最低2度はリリにアプローチしてくるバルが見当たらなかった。

 教室にバルが姿を現したのも、授業開始直前だった。


 クラスメイト達が中々状況の確認を出来ないまま、授業が終わる。

 すると昨日と同じ様にまた帰り支度(じたく)もそこそこに、バルが教室から出て行こうとした。


「待って!バル!」

「え?なにリリ?俺、これから用事があるんだけれど?」


 リリがバルの(そば)に小走りで近付く。


「それって昨日の女の子と?」

「ああ、そうだよ。じゃあまた明日な」


 片手を上げて笑顔で教室から出て行こうとするバルを止める為に、バルの服の裾をリリは慌てて無意識に掴んだ。


「え?なに?」

「何って、あの子と付き合うの?」

「そうだよ。あれ?昨日、そう言わなかったっけ?」

「用事って、あの子に会うの?」

「ああ。これからソウサさんをウチに連れて行くんだ」

「え?なんで?」

「父上が連れて来いって言うから」

「おじ様と会わせるの?」

「母上も祖父様(じいさま)祖母様(ばあさま)も一緒だよ。兄上達も間に合えば顔を出すって。姉上にも連絡するって言ってたから、旦那さんと来るかも」

「ご家族みんなとって事?」

「そうだよ。あ!リリも来る?」

「はあ?!」


 リリはバルを睨んだが、ハッとして顔を俯けた。目を瞑ってそのまま一度大きく息を吸い、顔を上げてバルを見る。


「じゃあ私が付き合ってあげる」


 教室内がしんとした。


「うん?それはウチに来るって話?」

「違うわよ!私がバルとお付き合いしてあげるって言ったの」


 教室内がざわめく。


「え?なんで?」

「え?なんで?だって、バルは私の事、一番に好きなんでしょう?」

「ああ」

「だからお付き合いしてあげるわ」


 周囲から嬌声があがった。


「ホント?嬉しいな。じゃあ俺がソウサさんに振られたらよろしくね?」

「え?」


 リリだけではなく、クラスメイト全員が呆気に取られた。


「なんで?今すぐ付き合って上げるわよ?」

「でもソウサさんと先に交際する約束しちゃったから。ソウサさんと別れたらリリに報告するよ」


 バルはニッコリと笑った。

 今まで袖にし続けたリリへの意趣返しで、こんな事をバルが言っているのでは無い事は、クラスメイト全員が分かっていた。バルは本当に悪気なく、ラーラに振られたらリリと付き合う積もりなのだ。


「取り敢えずソウサさんが待っているから、服を放してくれない?」

「え?」


 リリが自分の手を見ると、無意識に力を込めて掴んでいたバルの服の裾は、酷い皺になっていた。


「あ!ゴメン!」

「いや、大丈夫だよ。それじゃあまた明日な!」


 片手を上げて嬉しそうに笑うバルは、リリが伸ばし掛けた腕に気付かずに、教室を出ると廊下の人混みを()けて走って行って、(かど)を曲がって姿を消した。

 角の先から、廊下を走るバルを叱る教師の声がする。


「リリ、大丈夫?」


 パノが後からリリの両肩に手を掛けて、顔を覗き込む。


「ちょっと見てくる」


 リリの顔を見て決断したパノはそう言うと、廊下に出ると結構な速さで走り抜け、角の直前でスピードを落としてから曲がって行った。



 クラスメイト達は皆教室に残っていたけれど、誰もリリには話し掛けられなかった。

 他のクラスの生徒が教室内を覗いたり、帰りの誘いに来てそのまま留まったりして、事態を見守る生徒が増えて行く。

 昨日のカフェでのバルとラーラを見ていた者もいて、リリの周りでヒソヒソと情報交換が進められた。


 そんな中、最新情報を持つパノが戻って来た。


「なにこの人集(ひとだか)り?」

「どうだった?」


 集まっている生徒達を()けて教室に入って来たパノに、クラスメイトが声を掛ける。


「え~と、そうね」


 他のクラスメイトと同じ様な、パノの言葉の続きを待っている顔のリリを見て、小さく息を()いてからパノは答えた。


「バルはラーラって子の教室まで迎えに行って、そのまま一緒に車寄せまで歩いて、待っていたコードナ家の馬車に二人で乗って行ったわ」


 え~とかうわ~とか、周りの生徒達から声が上がる。


「二人きりなのか?」

「あ、いや、侍女と護衛も乗っていたけれど」

「侍女?」


 やっとリリが声を出した。


「いつもバルは侍女も侍従も連れて来ないわ」

「見慣れない感じだったし、ソウサ家のメイドかもね。護衛も二人はコードナ家の人だったけれど、もう一人、別の格好の男がいたし」

「え?そんなに大勢で馬車に乗ったのか?」

「ええ。6頭立てを用意していたわよ」

「使用人も一緒なら、ソウサ家にも話が通っているのね」


 再びえ~とかうわ~とか、生徒達の声で教室がざわめく。本気ねとか、その気だなとかの声も囁かれた。


「取り敢えず、私達も帰ろう。なにか甘い物でも食べて帰る?」


 俯き加減のリリの両手を掬って、パノはその顔を覗き込んだ。


「あ、ううん。今日は止めておくわ」

「そう。そうね。真っ直ぐ帰ろうか」


 パノの提案に、声は出さずにリリは肯く。もしかすると、ただ項垂れただけかも知れない。でもパノはリリが肯定した事にした。


「良し!ほら、そこ!邪魔で通れないから退()いて!」


 リリはそのままパノに手を引かれ、教室を後にした。


 他の生徒達はもっと情報がないかどうか、しばらく教室に残って噂話を集めた。家に持って帰って、家族に報告するためだ。

 侯爵家の跡取り夫妻の三男と、大商会の跡取り夫妻の末っ子一人娘との交際は、今後の社交界に必ず影響を及ぼすと、クラスメイト達にも思えた。

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