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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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休むと決めたパノ

 パノの父ラーダの執務室のドアがノックされる。

 ラーダは顔を上げずに「はい」と返事をした。


「チリンですが、ミリちゃんと入室してもよろしいでしょうか?」


 チリン元王女の声にラーダは顔を上げると、そこで初めてパノが部屋に残っていた事に気が付いた。

 先程渡した紙がパノの手にあるのに気付いて、もしかしたらパノに声を掛けられていたのかも知れないとラーダは思う。

 しかし今はチリンを入室させる方が先だ。そう考えたラーダはドアに向かった。

 パノもラーダがチリンとミリの入室を許可したら、自分がドアを開ける積もりだったけれど、ラーダが動いたので立ち位置を戻す。


 ラーダは笑みを浮かべながらドアを開いた。


「おはようございます、チリンさん、ミリ」

「おはようございます、お義父(とう)様」

「おはようございます、養伯父(おじ)様」


 ラーダはミリの乗馬服姿を初めて見て、注意を奪われる。パノもミリがコーハナル侯爵邸に乗馬服で来るのは珍しいと思った。

 ミリは授業を受ける時、コードナ侯爵邸には騎馬で通っていたけれど、コーハナル侯爵邸にはドレスを着て馬車で通っていた。

 しかし今日のミリはコーハナル侯爵邸まで馬に乗って来ていた。


 二人を廊下に立たせたままだったので、ラーダはもう一度笑みを浮かべ、二人を執務室に招き入れる。


「どうぞ、チリンさん。ミリもお入り」


 二人が入室すると、ラーダはパノを振り返った。


「私に何か話があるのか?」

「いえ、今はありません」


 パノは結局、ラーダが渡した紙に書かれた内容が、今ひとつ読み取れていなかった。

 ラーダはパノの言葉に小さく肯く。


「それなら下がって良いぞ」

「そうですか。お茶を淹れましょうか?」

「パノ姉様、お茶ならわたくしが淹れます」


 茶葉を載せたトレーを持って来ていたミリはそう言うと、パノの返事を待たずに茶器の傍に立つ。

 ラーダはチリンをソファにエスコートした。


「昨日はお義父様のお帰りを迎えもせずに、申し訳ございませんでした」


 ソファの前で、チリンはラーダに頭を下げた。


「いいえ、頭を上げて下さい。構わないのです。私は昨夜、かなり遅くなってから邸に着きました。それですので、声をお掛けしなかったのです。さあ、座って下さい」


 ラーダに着席を促されて、チリンは「ありがとうございます」と会釈を返して腰を下ろす。


「それに今も、お忙しいところをお邪魔してしまい、申し訳ございません」

「いいえ。ちょうど休憩をしようかと考えていたところです」

「お義父様にそう言って頂けて、良かったですわ」

「スディオとは一緒ではなかったのですか?」

「はい。スディオはお義父様の指示に対応すると言っていました。それなのでわたくしには、ミリちゃんが付いて来てくれたのです」


 ソファに腰を下ろしたチリンの様子を見ながら、パノは少し心配になっていた。スディオはチリンの体調を考えて、ラーダとの挨拶を短くする事を求めていた筈だ。

 しかしミリが茶葉まで持ってチリンと一緒に入室して来たのだから、体調も問題ないのだろうとパノは思う事にした。

 考えてみると、チリンとの挨拶を短くする話を聞いていたのに、お茶を淹れる話を自分が言い出した事に気付いて、パノは小さく苦笑した。


 手にある紙に書かれている内容も、スディオに訊いて教えて貰おう。それでも分からなかったら、今日は休ませて貰おう。

 パノはそう考えて、誰にも見られないまま会釈をして、ラーダの執務室を出た。


 三人はドアが閉まった事で、パノの退室に気付く。

 ミリの手許には、四客の茶器が用意されていた。



 パノはスディオを探したけれど、どうにも擦れ違っている様で巡り会えないでいた。

 使用人達もまだ朝の仕度中なので、スディオ探しを頼むのも気が引ける。やはりラーダの早起きの所為で、朝の支度の段取りが狂い、使用人達はいつもより忙しい様だ。


 頭も痛くなって来たので、パノはもう、今日は休む事に決めた。

 しかし部屋に戻って寝直す気にもなれない。


 外の空気でも吸おうと、パノは邸の外に出た。



 朝まだ早く、気温が上がらない湿った空気の中、パノはピナの墓前に立つ。

 パノは特にここを目指した訳ではなく、庭をぶらついていたら通り掛かっただけだった。


「お祖母様が亡くなって、家の感じが変わってしまったわ」


 そう言う自分の言葉が、ピナを責める様な口調になってしまっている事に、パノは苦笑する。


「お祖母様は完璧だったのだもの。残された私達は大変なのですよ」


 今度は言い訳の様な口調になり、パノはまた自分の言葉に苦笑した。


「女主人の座は以前からお母様に渡していて、お祖母様はミリの教育に専念していらしたけれど、お祖母様がいらっしゃらなくなったコーハナル家の穴は、中々埋められないでしょうね」


 パノは自分ではピナの代わりは無理だと思っている。

 それはいずれ、チリンが女主人となった時に、小姑としてうるさく言わない様にしなければと、常々考えているのもあった。

 しかしそれよりも、自分とピナとの違いをパノは、強く感じていたのもある。

 そしてピナの穴を埋めるのはミリなのではないかと、パノには思えた。

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