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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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コーハナル侯爵の帰邸

 バルの祖母デドラ・コードナの埋葬の翌日早く、コードナ侯爵家からミリに、コーハナル侯爵家の手伝いを薦める連絡が届いた。ラーラとバルにも、コーハナル侯爵家を手伝うなら、コードナ侯爵家より優先しても良いとある。

 それなので取り敢えずミリがコーハナル侯爵邸に出向いて、バルとラーラの手伝いが必要そうかどうか確認する事になった。


 コーハナル侯爵家では、ピナ・コーハナルの葬儀に向けた準備は、それほど残ってはいなかった。

 当主であるラーダ・コーハナル侯爵が、王都に到着したら確認する事項がかなり溜まっているけれど、それ以外はパノとパノの母ナンテとパノの弟スディオで、熟し切れる量だと考えられていた。

 その為、手伝いにコーハナル侯爵邸を訪れたミリの仕事も、体調を崩しているスディオの妻チリンに付き添う事がメインになった。


 ミリの見立てでは、チリンはやはり妊娠している様に思える。

 しかしチリンの気持ちはピナが亡くなった事にだけ向いていて、自分では妊娠を疑っていそうにはなかった。

 チリンの側仕え達も皆、独身で若い所為だからか、チリンの妊娠を疑ってはいない。もっともミリの方が若いのだけれど。

 本来ならミリは、チリンの姑であるナンテに報告するべきなのだろう。しかし残りの目処が経ったとは言っても、ナンテもパノもスディオも、まだまだ葬儀の準備に手を取られている。

 それに妊娠していたとしても、今のチリンの日常には妊娠に悪い影響がある様な事柄がない。それなのでミリは、誰かに報告するのはピナの葬儀が終わってからになっても大丈夫だろうと判断をする。

 そしてラーダが王都に着けば、ナンテ達の手が多少()く筈なので、そうなったらタイミングを見て相談しようとミリは決めた。



 ラーダはピナの葬儀が終わっても、しばらくは王都に滞在する予定だった。それはデドラ・コードナの死の報せを受け取る前から予定していた。

 その為にラーダは、長期間離れても問題ない様にコーハナル侯爵領の仕事を整理しただけではなく、王都ですべき仕事の為の準備に付いても用意している。

 デドラの死で、王都でやるべき事に多少の変更はあったけれど、もちろんそれにも対応していた。



 ラーダが王都に着いたのは夜になってからで、ミリが帰った後だった。

 既に寝室で横になっているチリンには報せずに、ナンテ、スディオ、パノの三人でラーダを出迎える。


「いま戻った」

「お帰りなさい、あなた」

「お帰りなさい、父上」

「お帰りなさいませ、お父様」

「ああ。パノも来ていたのか。ちょうど良い。状況を報告してくれ。私の執務室に行こう」

「あなた、食事はどうなさいます?まだ食べていらっしゃらないのではありませんか?」

「いや、まず情報の、いや、皆は済ませたのか?」

「はい。先に頂きました」

「それなら情報の共有を先に済ませよう」

「分かりました。取り敢えず、お茶と軽食は用意させますので、それを運ばせましょう」


 ナンテがそう言いながら手振りで合図を送ると、使用人が会釈を返して茶と軽食を運ぶ為に動く。


「ああ。お茶は助かるな。ありがとう」

「はい」


 そう言いながら先を歩くラーダとナンテの直ぐ後にスディオが、数歩離れてパノが付いて、四人はラーダの執務室に向かった。



 執務室でラーダはお茶を飲みながら、三人から報告を聞く。

 ラーダは王都に向かいながらも、王都からラーダ宛てに送られた手紙を回収しながら来ていた。コーハナル家からの手紙には連番を振っていたので、送られた順にラーダは読んでいたし、途中で擦れ違って受け取れなかった手紙がない事も確認出来ていた。

 そしてナンテとパノとスディオは、ラーダが手紙を全部読んでいる事を前提として、手紙を送った後の状況を報告した。


「報告は分かった。私の判断が必要な件については、明日の朝、回答出来るものは回答する。今日は下がって良い」


 そう言うとラーダは執務机の上の書類に目を向けた。

 事務的な会話しかなかったので、スディオはもう少しラーダと話をしたかった。一方(いっぽう)でパノは、会釈をして直ぐに退室しようとする。そのパノの動きを見て、スディオも会釈をすると、パノの後を追ってラーダの執務室を出た。


 そしてパノとスディオの様子を見たナンテが、小さく息を吐く。その音をラーダの耳が拾った。


「どうした?」


 書類から顔を上げないまま、ラーダがナンテに尋ねる。


「パノもスディオも、お(かあ)母様の葬儀の準備で、良くやってくれていました」

「そうか」

「少しくらいは言葉を掛けて上げたらいかがですか?」

「言葉?なんの話だ?」

「二人が(おこな)った準備に対して、評価してあげたりです」

「うん?出来ない事をやらせていた訳ではなかったのだろう?」

「出来ない事ではありませんけれど、慣れない事をしていましたので、二人とも疲れてはいます」

「疲れているのは君だろう?」


 ラーダは顔を上げてナンテを見た。


「後は私に任せて、君ももう休みなさい」

「あなたこそ、まだ起きているのですか?」

「朝までには、いくつか結論を出して置きたい件がある。そう出来れば朝一番で、スディオとパノに指示が出せるからな」


 そう言ってラーダは視線を書類に戻した。その様子を見て、ナンテは再び息を小さく漏らす。

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