ガダのリルデのマッサージ
ガダが寝室に入ると、リルデは既にベッドに横になっていた。近付くと、寝息を立てている。
ガダはそうっとベッドに腰を下ろした。
「うん?ガダ?」
「起こしてしまったか?」
「待たずに寝てしまったみたい。ごめんなさい」
「いいや、構わないよ。今日は疲れただろう。私の方こそ、起こしてしまってごめん」
リルデは小さく首を振って「ううん」と返すと、ガダを入れる為に上掛けを捲る。ガダは横にはならずに、リルデの頬に手を当てた。
「ずっと立っていて疲れたろう?」
「それはガダもでしょう?」
「私は立ったり座ったりしていたけれど、裏で指示する時もリルデは立ちっ放しだったのではないか?」
「それはラーラもミリもよ」
「ミリは子供だろう?寝て起きたら疲れなんて残らないだろうし、ラーラだってまだ若いのだから」
「あら?私がもう歳だと言いたいの?」
リルデが一睨みするけれど、ガダは微笑みを返す。
「いいや。リルデにはマッサージが必要なのではないかと、思っているだけだ。さあ、足を揉ませて貰っても良いかな?」
「え?・・・でも・・・」
「うん?なに?ふくらはぎとか、張ってないのか?」
「でも、ガダも疲れたでしょう?」
「ラゴやバルがいたから、全然だ。ほら?足を出して。それとも、私が捲って良いかい?」
「え?待って待って、自分で出すから」
リルデは上掛けを更に捲ると、ナイトウエアを少し手繰り上げて、ふくらはぎまで裾から出した。
「じゃあまず、ふくらはぎかい?それとも土踏まず?」
「ガダにお任せします」
「それなら、指先からにしようか」
そう言うとガダは片脚ずつ、リルデの足の指を一本一本揉み始める。
「そのまま、眠ってしまって構わないよ」
「・・・でも」
「今日の片付けで、明日も忙しいだろう?」
「そんなに残ってないわ。ラーラとミリに任せたから」
「そうか」
「二人がいてくれて、本当に助かったわ」
「そうだな」
そこで会話は途切れたので、ガダはリルデが眠りそうなのかと思い、あまりリルデの体を揺らさない様にマッサージをする。
しかしリルデは寝てはおらず、しばらくしてからガダに話し掛けた。
「どうしようかって判断が必要な時に、どうしてもお義母様の顔が浮かんでしまうわ」
一瞬ガダは手を止めたけれど、「そうか?」と言ってまたマッサージを続ける。
「リルデはもう大分前から、母上に聞かずに家の事を取り仕切っていたじゃないか?」
ガダの言葉にリルデは、「任せて頂いてはいたけれど」と呟く。
「・・・お義母様はいて下さるだけで、私は安心できたのよ」
「まあ私も、リルデに頼りにして貰える様に、これから頑張るよ」
「ガダの事だって頼りにしてるわよ?でもやっぱり、お義母様がいらっしゃらないのは不安だし、何より寂しいわ」
ガダは手を止めないまま、「そうか」と返した。
「母上の事を苦手とする人が多い中で、リルデは不思議だよな」
「私は結婚前から、お義母様には何度も助けて頂いていたから」
「そうか」
「ええ」
「そうだったな・・・」
ガダは土踏まずのマッサージに移る。
「ハーナかサナレに王都に来て貰うか?」
ガダが息子達の嫁二人の名を上げた。
「・・・そうね・・・でも、そうしたらラゴかガスも王都に来させるのでしょう?領地が手薄になるんじゃない?」
「どちらか一人でも大丈夫だとは思うが、領地に残すならラゴとハーナか」
「でもそうすると、ガスは王都でやる事がないのではないの?」
「私の代わりをさせれば良い」
「それなら私達は領地に行くべきじゃない?」
「他家と同じ様にか?」
「ええ。それで王都にはラゴとハーナに来て貰って」
「ラゴとハーナは領地が良いんじゃないか?王都はそんなにやる事がないし」
「まあ、そうなのだけれど・・・」
「何か懸念があるのか?」
そう尋ねながらガダは、踵からアキレス腱のマッサージをする。
「サナレとラーラ、あまり相性が良くないから」
「そんな事、あるのか?」
「あるわよ。これまではお義母様がいらっしゃったから良いけれど、私も領地に行って離れたら、王都に残る二人の事はかなり心配だわ」
「二人の様子からは、そんな風には思えなかったけれどな」
「それにミリとリザの事もあるし」
「子供達がどうした?」
「リザがミリを意識してると言うか、目の敵とまではいかないとは思うのだけれど」
「リザが?なんで?」
「色々と羨ましいのだと思うわ」
「リザは王都に来たがっているらしいけれど、その辺りの理由で、王都生まれで王都育ちのミリにヤキモチを焼いているとかか?」
「ヤキモチはヤキモチでしょうけれど、色々とあるみたいよ?」
ガダは「そう言うものか」と口にして、幼くても女は女なのかもと考えながら、リルデの踵からふくらはぎに向けて揉み上げる。
「その辺りは落ち着いてから考えるか。母上の葬儀にはガスも来るから、葬儀の後にでも相談しよう」
「そうね。リザは連れて来ないのでしょう?」
「来ないのではないか?リドラもレグも小さ過ぎてまだ連れて来られないから、サナレもハーナだって来られないだろう?さすがにガス一人で、リザを連れては来ないだろうし」
「そうよね。でもリザを置いてくるのも、ガスは大変よね」
「そうなのか?」
「ピナ様の葬儀の為にジゴだけ連れて来たでしょう?リザがごねてごねて、大変だったそうじゃない?」
「まだ子供だから、ごねても仕方ないは仕方ないけれどな」
「そうなのよね」
そう言うとリルデは溜め息を吐いた。




