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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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デドラの埋葬

 デドラはコードナ侯爵邸の庭の一画に埋葬される。デドラの夫であったゴバ・コードナ前侯爵の墓の隣だ。

 それは先日亡くなったピナ・コーハナルと同様だ。埋葬に王家の代理人が立ち会うのも同様だった。

 ただし、ピナの葬儀の為に王都に領主達が来ている貴族家は、代理人の代わりに領主夫妻や跡継ぎが、デドラの埋葬に参列した。


 埋葬を仕切るのはバルの両親、ガダ・コードナ侯爵とその妻リルデ、そして二人をサポートするのはバルの長兄ラゴだった。

 バルもラーラももちろんサポートに当たる。ただしラーラの担当は裏方が主だったし、バルのサポート対象にはラーラも含まれていた。

 それはリルデの配慮だった。ほぼ引き籠もりだったラーラに、余計な負担を掛けさせない為だ。またリルデにとっては嫁のラーラより、孫のミリの方が気軽に頼み易い。その為、ラーラよりミリの方が、人前に出る事が多かった。ラーラが気疲れしない様にと、ミリが立ち回っているのもある。


 しかしミリ自身は、あまり前に出ない様にもしていた。

 何故なら今、王都のコードナ侯爵邸にはラゴの長男で、将来コードナ家を嗣ぐ予定のジゴがいるからだ。

 ジゴより目立てば、あらぬ噂が広がるかも知れない。例えばミリが、コードナ侯爵家を乗っ取る積もりだ、などだ。

 それなのでジゴよりは(うしろ)で、だけどラーラよりは前をミリは心掛けていた。

 しかしピナの埋葬も手伝ったし、ハクマーバ前伯爵の埋葬にも参加していたミリは、何かと頼りにされる場面がある。

 前には出ない様にしていた分だけ、困った時には現れて問題を解決して去って行くミリは、本人の思惑とは裏腹に、それはそれで目立っていた。



 デドラの埋葬に、ガダは神官を喚ばなかった。

 ピナの埋葬に立ち会っていたガダは、その時の大神殿の対応と派遣されて来た神官見習いの態度に、憤りを感じていた。

 ガダの父である前コードナ侯爵ゴバの葬儀の時にも、大神殿や神官達の対応には不満を持った事に付いて、思い出すまでもなくガダは覚えている。

 コーハナル侯爵家のナンテもスディオも、ピナの葬儀には神官を喚ばない方向で進めている。それにハクマーバ前伯爵が亡くなった時には、埋葬時に神官がいなかったとミリが言っていたが、調べたら葬儀にも神官を喚ばなかった事が分かった。

 ハクマーバ伯爵家が前例を作ってくれたのだからと、ガダはこの埋葬にも、その後の葬儀にも、大神殿には声を掛けない事にしたのだ。


 それなのにデドラの埋葬時に、大神殿から神官がやって来た。コードナ侯爵家からは依頼しなかったにも関わらずにだ。

 なぜ来たのか分からなかった為、もしかしたら関係者の誰かが依頼する様な話を神殿にしたのかと考えて、取り敢えずガダは神官を邸に入れた。


 邸の応接間で、ガダと神官が向き合って座る。


「神官殿。今日はどの様なご用事か?」

「いや、用事も何も、デドラ・コードナ殿の埋葬を行うのではないですか?」

「ああ。その為に本日の我が家は建て込んでいる。用事が後日で構わないなら、出直して欲しい」

「いや、そのデドラ殿の埋葬を執り行う為に、私は来たのです」

「我が家では頼んでいない。他の家の話だろう。お帰り頂こう」

「いや、大神殿に埋葬の進行を依頼しないなど、おかしいではないですか」

(つたな)い進行で埋葬の邪魔をされては適わないからな」

「何を言っているのです?埋葬にしろ葬儀にしろ、神官が進めなければ、正しく執り行う事など出来ないではありませんか?」

「その様な事はない。いない方がスムーズに進む」

「そんな、まるで神官が邪魔をしている様な言い(ぐさ)を」

「言い種?先日のピナ・コーハナル様の埋葬の話を聞いてないのか?」

「もちろん、知っています。神官の進行をスディオ・コーハナル殿が(さまた)げた件ですよね?」

「神官?神官ではなく、神官見習いだろう?」

「見習い?確かに見習いを埋葬に連れて来る事はあります。見習いですので、多少の不手際はあったのかも知れませんけれど」

「連れてきたのではなく、一人で来た神官見習いが、埋葬を仕切ろうとして失敗して、スディオ殿が取って代わって埋葬したのだ」

「何を言っているのです。見習いを一人だけで派遣する事など、あり得ません」

「ここで二人で話しても、時間の無駄の様だ」

「無駄?神の教えを守る私と話すのが、無駄と言ったか?」

「神官殿、大広間の方に来て頂けるか?」


 ガダは席を立ち、神官を見下ろしてそう言った。


「なぜ?」

「大広間にはピナ・コーハナル様の埋葬に参加した人もいるだろう。その人達の口から、先日の様子を聞くと良い」


 そう言うとガダはドアを開け、応接間を出て廊下で神官が出て来るのを待つ。

 神官はしばらく逡巡した後に腰を上げ、それでも威厳を示すかの様にゆっくりとした足取りで、応接間を出た。



 大広間には軽食と飲物が用意され、埋葬が始まるのを待つ間、参列者達は雑談をしていた。話題は当然、葬儀に関連したもので、ぼそぼそと小声で会話がされている。話に熱中する人もいない。

 それなので、大広間にガダ達が入ると、直ぐに皆が気付いた。


「どなたか、先日のピナ・コーハナル様の埋葬の様子に付いて、こちらの神官殿に話して貰えないだろうか?」

「コードナ侯爵閣下?なぜその様な事を?」

「ガダ?今更、話す事なんて無いんじゃないか?」

「その神官に、先日の責任を取らせるのか?」

「それなら大神殿長相手でしょうし、抗議するならコードナ侯爵家からではなく、コーハナル侯爵家からなのでは?」

「いや、抗議はその通り、我がコードナ家からする積もりは無い。ただこの神官殿が、ピナ・コーハナル様の埋葬の時の様子を知らない様なので、どなたかに客観的な説明をして頂けたらと思ったのだ」

「それならわたくしが説明致しましょう」


 そう言ったのは、王家の代理人だった。


 大広間に着いてからの参列者達の言葉や態度で、自分が聞いていたピナ・コーハナルの埋葬と、実際に起こっていた状況に違いがありそうだと神官は感じた。

 しかし王家の代理人からされた説明が、聞いていた話とあまりにも違い過ぎて、その神官には受け容れられなかった。


「そんなバカな」

「馬鹿とは、ピナ・コーハナル様の埋葬に、王家の代理として参列したわたくしの事でしょうか?」


 王家の代理人も、ピナ・コーハナルの埋葬の時に神殿の取った対応には、憤りを感じていた。その為、神官に対しての口調がきつくなるが、それも仕方がなかった。王家の代理人も人間だ。


「あ、いや」

「いくらなんでも、王家に向けた言葉ではありますまい」

「え!ええ。もちろんです。バカはピナ・コーハナル殿の埋葬を取り仕切った神官の行いです。とても信じられません」

「神官ではなく、神官見習いですね」

「いや、いくら何でも、神官見習いを一人で寄越すなんて、あり得ません」

「大神殿の方針は存じませんが、その者が自分で神官見習いと言っていたのは確かです。神官なのに神官見習いと言ったのかも知れませんが、わたくしには分かりません」

「いや、それも信じられない」

「神官殿が信じられないのが、その自称神官見習いの事なのかは分かりませんが、王家の代理人のわたくしの言葉が信じられないと言っている様に聞こえます」

「あ、いや、そんな積もりはありません」

「ですがあなたがどの様な積もりか、わたくしには分かりませんので」

「王家の代理人のあなたの事ではありません。本当です」

「そうですか。戻りましたらそのまま報告して置きますが、報告を受ける王族の(かた)達や王宮の者達にも、今この場で話を聞いていらっしゃる皆様にも、どの様に受け取られる可能性があるのか、神官殿も正確に大神殿で報告なさった方がよろしいでしょう」

「いや、それは」

「そうでなければ、神官殿の報告を信じた者が、今のあなたより更に、顔色を悪くする事態が起こるかも知れません」

「な!神の教えを守る私を脅すのか?!」

「いいえ。災いを避けたいだけです」


 災いと言われて神官の脳裏には、王都での暴動が浮かんだ。あの暴動が大神殿の所為だと言われた様に聞こえて、神官は怒りを覚える。しかし王家の代理人が明確に暴動と口にした訳ではない。ここで暴動の事を話に出すと、暴動と大神殿を結び付ける事を認める事になりそうで、神官は奥歯を噛み締めて、口を開くのを我慢した。



 ピナの埋葬は、ガダの仕切りで執り行われた。

 墓穴に下ろされたピナの棺に、ガダ、リルデ、ラゴ、ジゴ、バル、ラーラ、ミリの順で土を掛け、王家の代理人から参列者達も続く。


 神官も埋葬への参列を望んだ。

 それを受けてガダは神官に、神官服を脱げば参列を認めると告げる。神官ではなく、一個人としての参列をガダは求めた。

 しかし結局、神官は神官服を脱ぐことはなく、埋葬の様子を見学するに(とど)まった。

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