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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第一章 バルとラーラ
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29 ラーラの縁談とバルと

 夜。

 日中は店舗で業務を行っているラーラの祖父母も帰宅し、ラーラの両親と4人で話をする。

 話題はラーラへの縁談打診とバルとの交際の事だ。


「ラーラにスランガから縁談が来たそうじゃないか?」


 ラーラの祖母フェリが話を出す。

 それにラーラの祖父ドランも肯いた。


「私も聞いた。今日港に着いたばかりだろう?随分と(せわ)しないな」

「ラーラの噂を聞いたらしいのよ」


 ラーラの母ユーレが言葉を返す。


「それでかい。船乗りに噂の事を聞かれたって店員が言ってたよ。スランガの船の乗組員だったんだね。船乗りがラーラの事を話してるのを外回りしてたら耳にしたって報告もあったし」

「悪い噂が耳に入って、スランガが集めさせてるのか」

「そうかも知れないね」

「だがそれなら、悪い噂を聞きながら何故縁談を持って来る?」

「考えられるのはソウサ商会に付け込む事かい?」

「スランガはそんな奴ではなかった筈だがな」

「そうだね。足掛かりとしては弱いし」

「正確には縁談じゃないよ」


 ラーラの父ダンが口を挟んだ。


「今日来たのは、ラーラとバル様の交際内容を聞きたいと言うのと、その話次第ではラーラに息子との縁談を申し込みたいって話だね」

「それならさっさとそう言いな」

「ははは。私にしては早い方だろう?」


 フェリが睨んでもダンは気にした様子もなかった。その所為でフェリのテンションが上がりそうだが、それをユーレが逸らす。


「ごめんなさい、お義母(かあ)さん。スランガさんが噂を聞いたって話を私が口にしたから」

「はぁ、まあ良いよ。ラーラの噂を船乗りにされてるのが、私も昼間っから気になってたからね」

「だが何で入港そうそう縁談を持って来たんだ?」

「縁談じゃないって。持って来たのはラーラとバル様の交際を控えろって話だから」


 そこでダンとユーレが推測を伝えた。


「このままならスランガの跡はパサンド君が継ぐだろう?」

「パサンド君の奧さんに悪い噂があれば部下に侮られるし、それが原因で陸でも海でも仕事の障害になるって考えたんじゃないかって思うの」

「なるほどね。特に海では信頼が生死に繋がるらしいし。良く知らないけど」

「だがそれなら、ラーラに縁談を申し込まなければ良いだけだろう?」

「なに言ってるんだよ父さん」

「なにがだ?」

「あんな噂なんてラーラの魅力の前に霞むから、申し込まない理由にはならないに決まってるだろう?」


 そのダンの発言は、フェリとユーレの溜め息を産んだ。

 ドランが首を左右に小さく振り、ダンに応える。


「ラーラが可愛いのは当たり前だが、相手は他国の人間だ」

「それが?」

「国が違えば文化が違う。ラーラの可愛さがスランガの船員達には通じんのだろう」

「そんな訳ないだろう?ラーラの魅力は世界共通だ」

「だったら推測がおかしい。それならラーラの可愛さに船員達が平伏(ひれふ)す筈だから、スランガは船員達を気にする必要は無いじゃないか」

「そんなのラーラの魅力の虜になったパサンド君が、ラーラを船員達の前に出さないって言ってるからに決まってるじゃないか」

「なるほど。それなら仕方ないか」

「なるほどじゃないよ」

「仕方なくないわよ、お義父(とう)さん」


 ユーレは義父に対して(こら)えたが、フェリは構わずに溜め息を()いた。


 (ほう)って置くと夜が明けそうなので、ユーレはラーラがコードナ侯爵邸を訪ねた件に話を移す。


「ラーラがコードナ侯爵家にその話を伝えに行ったけど、あちらはこのままの交際を望んでらっしゃって」

「それは困ったな」

「ラーラの縁談なんか知らんって事かい?」

「いいえ。縁談は進めて良いし、婚約に至れば約束通りに交際を()めさせるそうよ」

「それは良かった。少し心配してたんだよ」

「心配?何をだ?」

「バル様がラーラに執着してそうで。特に最近は」

「身分差があるだろう?」

「でも、攫われたりしたら大変じゃないか?」

「何処に攫うんだ?バル様は騎士志望だろう?攫うにしたって直ぐに居場所が分かるじゃないか」

「この国の騎士になるとは限らないよ」

「母さん、飛躍しすぎだよ」


 フェリが睨んで「そんな事ない」と言うけれど、ダンは涼しい顔だ。


「そりゃあバル様だってラーラの魅力に抗えないのは仕方ないけど、他国で暮らせるコネも目処もないだろう?王都を出た事さえあまりなさそうだし」

「熱に浮かされた若者の行動力をダンだって知ってんじゃないのかい?」

「そんなのは無謀と言って、行動力とは違うよ。舞台でそう言うのがもてはやされるのは、日常的にはあり得ないからだろう?」

「だがラーラがその気になったら、生活は何とかするんじゃないか?」


 ドランのその言葉に、ダンはフッと小さく笑う。


「その気になんてならないよ」

「何でそう言い切れる?」

「ラーラの根っ子には冷静な判断があるじゃないか?万が一ラーラがバル様に熱い想いを抱いたとしても、少しもバル様の為にならない駆け落ちなんて選ぶ筈がない」

「じゃあダンは、ラーラはその冷静な判断でスランガからの縁談を受けると思ってるんだね?」

「普通に考えたらそうだろう?条件は良いし、私達が勧めるならラーラだってパサンド君を選ぶさ」

「ユーレもそう思うのかい?」

「そうね。私達が勧めれば、ラーラはパサンド君を選ぶでしょうね」

「う~ん、そうかい?」


 首を傾げるフェリにも、ダンはフッと小さく笑った。


「ラーラとは性格が違うから、母さんには分かり(にく)いんだよ」

「何だって?」

「だがそうすると問題は、ラーラとバル様の交際だな。控えて貰わないとスランガがどう受け取るか」


 妻と息子の遣り取りに目もくれず、ドランは腕を組んで眉間に皺を寄せてそう言った。

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