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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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フェリの呟き

 ミリはバルとラーラと馬車に乗り、バルの祖母デドラ達とはコーハナル侯爵邸を出る時に別れた。

 デドラが元王女チリンに告げたミリへの用事とは、疲れの見えたミリを家に帰らせる為の方便だった。

 しかしミリは家には帰らずに、ラーラの祖母フェリの所に行く積もりだ。


 ラーラは久し振りに人の多い所に出たので、疲れ果てていた。それなのでミリとバルが馬車に乗り込んだ時には、ラーラはうつらうつらとしていた。

 ラーラの隣はバルに任せて、ミリは向かい側に座ったけれど、失敗だった。ラーラが寝ぼけてバルに抱き付いたのだ。

 疲れたラーラを起こすのは、バルにもミリにも難しい。それなのでバルは、起こしてしまいそうだからと、ラーラを引き剥がす事も出来ない。

 両親が仲良くする事は良い事なのだけれど、それをまざまざと見せ付けて貰う必要はないので、ミリは窓の外に目を向けた。

 暮れ行く街並みには、優しい美しさがあった。



 ミリはソウサ邸で馬車から降ろして貰う。

 ラーラに抱き付かれたままのバルは、ソウサ邸には寄らずに、そのまま帰った。

 パノは今夜はコーハナル侯爵邸に泊まる、と言うか、帰る筈だ。今でもパノの住所は、書類上はコーハナル侯爵邸だ。

 今夜はミリもソウサ邸に泊まる。しばらく振りに、ミリの曾祖母フェリの部屋で寝る積もりだ。



「曾お祖母ちゃん、ただいま」


 ミリが声を掛けると、フェリはベッドに横になったまま、薄く開けた目をミリに向けた。


「うん?お帰り、ラーラ」


 曾お祖母ちゃんと呼ばれながら、フェリはミリをラーラと呼ぶ。


「どこに行ってたんだい?」

「コーハナル侯爵邸だよ」

「ああ、ピナ様のとこかい。今日は何を教わったんだい?」

「曾お祖母ちゃん。今日はピナお養祖母(ばあ)様の埋葬だよ」

「ピナ様の?」

「うん」

「埋葬ってピナ様、亡くなったのかい?」

「うん」


 フェリはパノの祖母ピナが亡くなった事を知っていた筈だった。


 ミリはフェリの言葉に間違いが多くなってきてから、指摘した方が良いのか、指摘しない方が良いのか、悩んだ。

 間違いを指摘すれば、本人も間違いを認める時もある。それでしばらくはその件に関しては、本人も注意していて間違えない。

 しかし指摘をする事で、本人が自分はダメだと思う事があり、自信を失くして精神的に弱る事もあった。


 なのでミリは、間違いはなるべく指摘せずに、けれど自分は正しい事を言い続け、本人に間違えに気付かせる事を選んでいた。

 しかしそれが正しいのか、ミリには分からない。


「・・・そうか。そうだったね。ピナ様は亡くなってた」


 フェリはミリから視線を外して、顔を上に向けて目を瞑るった。


「ピナ様、亡くなってたね。そうか。もう何年になるかね」

「今日、埋葬だったから、何年も経ってないよ」

「・・・そうか。今日、埋葬か。何年も経ってないのか」

「うん。そうだよ」


 ミリの声にしばらくフェリは反応しなかったが、急にもぞもぞと動き出す。


「曾お祖母ちゃん?どうしたの?」

「だって今日、ピナ様の埋葬だろう?私も行かなきゃ」

「待って待って。曾お祖母ちゃんは怪我してるから、ベッドから出たらダメだよ」

「何言ってんだい。ピナ様の埋葬だ。私が行かなくてどうすんのさ」

「埋葬は終わったんだよ」

「終わった?」

「うん。ピナお養祖母様の埋葬は終わったよ。それで私が帰って来たんだから」

「私が行かないのに終わったのかい?」

「曾お祖母ちゃん、怪我で行けなかったんだから、仕方ないじゃない」

「ウチは誰か行ったのかい?」

「だから、私が行ったよ」

「ラーラはコードナ侯爵家の人間じゃないか。ソウサ家から誰か出たんかい?」

「今日は貴族様しか来てなかったよ」

「だからって」

「ウチからは供花を出してあるから、大丈夫だよ」

「ソウサ家からかい?ソウサ商会からかい?」

「どっちも出したから。ちゃんとお祖父ちゃんがやってくれたから」

「お祖父ちゃん?何言ってんだい?ドランはそれこそ死んでんじゃないか?」

「ダンお祖父ちゃんだよ」

「ダン?ああ、ダンか。なら仕方ないね」


 何が仕方ないのかミリには分からなかったけれど、フェリが納得した表情で体の力を抜いて目も瞑ったので、取り敢えずミリは良しとする。


「ラーラ」

「なに?」

「貴族って、コードナ侯爵家の皆さんもかい?」

「うん」

「デドラ様は大丈夫だったかい?」

「うん。デドラ曾お祖母様は足を悪くなさってるけれど、矍鑠としていたよ」

「ふっ。矍鑠かい」

「うん」

「・・・ラーラ」

「うん?」

「デドラ様を大切に、って言ったらおかしいか。あんたに大切にされるなんて、落ちぶれた様なもんだ」

「なんでさ?」

「孫に大切にされるのなんて、やっぱりなんか違うんだよ。孫は元気に育ってくれりゃあそれだけで良いんだ」

「私は曾お祖母ちゃんの事を大切にしてるけど」

「そんな気遣いは要らないんだよ。それより自分の事を大事にしな。その方が回りの大人が安心すんだから」

「分かったよ。大切な曾お祖母ちゃんが大事にしてくれるから、私も自分の事を大事にする」

「ふん。(さか)しらぶるんじゃないよ。素直に自分を大事にすりゃあ良いんだ。そうじゃなきゃ、私がいなくなった時に困る事になるよ」

「そう思うなら、いなくならないで」

「当たり前だ」

「いなくならないでね?約束だよ?」

「心配要んないよ。私はあんたより長生きすんだから」

「確かに、曾お祖母ちゃんならあり得るね」

「だからってね、早死にしたりしたら許さないよ?」

「分かってるよ」

「ピナ様なんか姉君が亡くなられて、ずっと引き摺ってんだ」

「え?曾お祖母ちゃん?それ知ってたの?」


 フェリはミリの質問には答えない。


「そうか。ピナ様、亡くなったんだね」


 しばらくしてから、フェリはそう呟いた。


「ラーラも大変だったろう?」

「大丈夫だよ」

「若くたって疲れは溜まるんだ。ラーラも今日は早く寝るんだよ」

「分かったよ、曾お祖母ちゃん」


 ミリはフェリには正しい事を返すけれど、自分がラーラと呼ばれる事はそのままにしていた。

 今のフェリにとってミリと言うのは、ラーラを守って亡くなったメイドの名だったからだ。

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