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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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教えと学び

「わたくしだけではありません。ピナも同じです」

「ですが曾お祖母様。ピナお養祖母(ばあ)様は、まだまだわたくしに教える事があると、仰っていらっしゃったのです」

「それは各個の問題か、些末な調整でしょう。特に礼儀作法などは体の成長に合わせて、微調整が必要です。そう言う意味ではミリが大人になるまで、ピナも見届けたかった事でしょう」


 デドラはミリの髪を撫でる。


「わたくしの授業を卒業だと言った時に、ミリはもう一人でも学んでいけるとわたくしは考えていました。それはピナも同じだと思います」

「でも曾お祖母様。わたくしはまだまだ曾お祖母様に教えて頂きたいのです。ピナお養祖母様にも、もっとずっと教えて頂きたかったのです」

「そうですね」


 そう言うとデドラは、ミリの体を離した。


「ミリが学ぶべき事は、確かにまだ多く残っているでしょう。しかしそれは、わたくし達が教えたのでは、効率が悪いと思います。それはミリが、誰かと関わるなり、誰かに教えるなり、誰かを導くなりして学びなさい」

「・・・曾お祖母様」

「ミリはレント・コーカデス殿と文通をしていますね?」


 ミリはここでレントの名が出た事にも、また話が変わったのかと思えた事にも、どちらにも驚く。


「王都で生まれ育ったあなたと、領地で生まれ育ったレント殿。色々と恵まれているあなたと、様々な問題に囲まれているレント殿。そして由緒正しい貴族の血を引くレント殿と、出自を攻撃材料にされ()るあなた。経験も考え方もとても違う可能性があります。そしてレント殿は、わたくしや今のミリでは考え付かない、思考や思想を持っているかも知れません。ですからあなたは過去の(しがら)みを意識しない様にして、彼から学べるものは学びなさい」


 デドラは教師の時の表情をミリに向けた。


「もし誰かに何かを言われても、わたくしにそう命じられていると答えなさい。よろしいですね?」


 つよい瞳で見詰めるデドラに、ミリは「はい」と肯く。


「それ以外でも、わたくしの名が利用出来る時には、使って構いません」

「え、ですが、曾お祖母様」

「ミリはわたくしの曾孫ですし、わたくしが直接教えた生徒なのですから、あなたの導き出す答には、わたくしにも責任があります」

「そんな、曾お祖母様」

「ああ、萎縮してはなりませんよ?ミリを卒業させたのは、わたくしがあなたを良く理解出来た証でもあります。あなたはあなたの考えた通りに生きなさい」


 つよい瞳で見詰めるデドラに、ミリは「はい」と肯く。

 それを見てデドラは笑みを零し、またミリの頭を撫でた。



「ミリ?」

「はい、曾お祖母様」

「リルデ達が戻って来てしまいましたね。話に長い時間を掛けてしまいました」


 まだ遠くに見えるバル達の姿をとらえ、デドラは口角を僅かに上げた。

 そしてデドラはミリの両手を取り、またミリの胸の高さに持ち上げた。


「ミリの教育を担当出来た事で、わたくしに悔いが残っていない様に、ピナもあなたの教育には悔いを残していません」

「曾お祖母様・・・」

「ですのでミリ。わたくし達から学んだ事を大切にするだけではなく、更に学んで色々と身に着けて、あなたも誰かに教えなさい。そうすれば、わたくしやピナの気持ちも理解できて、納得して貰えると思います」

「・・・曾お祖母様」

「それとわたくし達から学んだ事も、もっと深く理解できるでしょう」

「はい。分かりました」

「ピナの死にミリが責任を感じる事はありませんけれど、ピナの死であなたの心に遺ったものは、大切にして下さい」

「・・・はい」

「結構です」


 デドラはミリに微笑んだ。


「さて、ミリ」

「はい、曾お祖母様」

「わたくしは足が痺れてしまいました。立ち上がるのを手伝って貰えますか?」

「え?はい、もちろんです。ですが、大丈夫ですか?」

「ええ。立てさえすれば、大丈夫です。手を引いて貰えますか?」

「はい」


 ミリはデドラの両手を引き上げて、デドラを立たせる。

 デドラは立ち上がれたけれど、ふらついた。咄嗟にミリはデドラの腰に腕を回し、デドラの体を胸で支える。


「曾お祖母様!危ない!」

「ミリ、大丈夫ですよ。立てましたから」

「祖母様!ミリ!大丈夫か?!」


 走って来たバルが、両腕でデトラとミリを抱えた。

 バルの後から、バルの父ガダが走って、母リルデは小走りで、三人に向かって来ている。


「ミリ、大丈夫か?!」

「お義母様?大丈夫ですか?!」

「遠くから大声を出さなくても大丈夫です。バルが大袈裟なのですよ。ちゃんとミリがしっかりと、支えてくれていました」


 そう言われたミリは、バルが間に合った事で、ホッとしていた。


祖母(ばあ)様。俺が馬車まで運ぼう」


 そう言うとバルがデドラを横抱きにする。


「大丈夫ですよ。歩けます」

「孫に抱っこされるなんて、祖母様にはなかなかないんじゃないか?」

「恥ずかしいから、下ろしなさい」

「では私が運ぼうか」


 そう言ってガダが、バルからデドラを受け取ろうと両腕を出す。


「孫に抱き上げられるからではなくて、運ばれるのが恥ずかしいと言っているのです」

「お義母様。ガダは分かって言っているのですよ。バルと違ってデスクワークばかりなのですから、ガダはミリを運んでも腰を痛めますよ」


 リルデの言葉にガダは眉間に皺を寄せた。


「そんな事はない。ミリ、来てごらん」


 ガダはミリを手招くと、ヒョイと抱き上げて片腕に載せた。


「ほら?大丈夫だろう?」

「ミリ、お祖父様の体にもたれかかりな。その方がお祖父様は楽だから」

「はい、お父様」


 ミリに体を寄せられて、ガダの顔が緩む。それを見てリルデは小さく息を吐いた。


「バル。お義母様が疲れるから、運ぶなら早く運んで」

「分かったよ、母上。祖母様、このまま運ぶから」

「分かりました。観念しましょう。運ぶなら素早くお願いします」

「ではミリは私と行こう」

「はい、お祖父様」


 そう答えながらミリは、ガダの肩越しにピナの墓を振り返る。

 そこにまだ、チリンの肩を抱くスディオと、スディオに寄り掛かるチリンの姿が残っていた。

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