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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ピナの別れ花

 ピナ・コーハナルの葬儀は、家長であるラーダ・コーハナル侯爵が、領地から王都に来るのを待って行われる事になる。

 コーハナル侯爵家の跡継ぎスディオは、ピナが亡くなった報せを早馬で、コーハナル侯爵領のラーダに送った。それと同時に王宮にも報せ、所縁(ゆかり)のある貴族家にもピナの死を報せた。


 ミリもスディオとスディオの母ナンテの許可を得て、レント・コーハナルにピナが亡くなった事を報せた。そしてその事にナンテもスディオもパノも反対をしなかったのはその昔に、パノを通してピナとリリ・コーハナルの間に少なくない交流があったからだ。

 ピナにとってはリリも、礼儀作法の弟子と言えた。

 コーハナル侯爵家とコーカデス伯爵家の関係は、今は良いとは言えない。その為、所縁のある貴族家と同じ様に、ピナの死をコーカデス伯爵家に直接伝える事は躊躇された。

 それなので、ミリとレントが文通している事を利用したとも言える。ミリからレントに伝える事で、リリの耳にも入るだろうと、コーハナル侯爵家では考えた。

 そして向こうから何らかのアクションがあれば、向こうの出方次第によっては関係を改善しても良いと、特にコーハナル侯爵家の時期当主スディオがそう考えていた。


 スディオの妻チリン元王女は、ミリとレントの文通を良くは思っていなかった。

 幼い頃のチリンは、ラーラとバルの恋物語が好きだった。劇の中ではリリはライバルとして描かれていて、ラーラ誘拐の切っ掛けになっていた。それだからか、チリンはリリにネガティブな印象しかない。

 そしてコーカデス伯爵家との関係も、これ以上の改善など出来ないし必要ないとチリンは考えていた。

 しかし今回、ミリがレントにピナの死を報せる事に付いて、チリンが特に意見を上げなかったのは、(ひとえ)にピナの死にチリンがショックを受けていて、その事に注意を向けられる状態ではなかったからだ。


 チリンはピナを尊敬していた。

 王女であったチリンは、忖度や追従(ついしょう)を受ける事が多く、正しい指摘を受ける事は中々なかった。

 だがピナは幼いチリンに対して、他の人の耳に入らない様にとわざわざ二人だけになる機会を設け、婉曲的ながらチリンの問題点を指摘した事があった。

 その後、ピナと夫のルーゾがラーラの養父母になった事が切っ掛けで、チリンはラーラとバルの恋物語に出会う事になったし、スディオとの結婚もとても前向きに進めた程だった。


 幼い頃のピナからの指摘もあり、王家の教育も甘かった訳ではないので、チリンは王族として素晴らしい所作を身に着けていた。

 しかしコーハナル侯爵家に嫁いでからは、チリンはピナから直截的な指導を受けながら、日常生活の中で更に所作に磨きを掛けていた。


 心酔しているとも言える師匠であるピナの死に付いて、チリンは上手く受け止められていなかった。

 しかしチリンの夫のスディオは、ピナの死に関する手続きで忙殺されており、あまり妻のチリンのケアが出来ていない。チリンもスディオが忙しいのは分かるので、自分の状態を言葉や態度には表さない。それは姑のナンテに対しても一緒だ。

 皆がチリンの変調に気付いていたけれど、そのケアをする余裕がない。出来るのは、チリンがやるべき次期女主人としての仕事に対して、重要なもの以外をパノが肩代わりするくらいだった。

 そしてチリンに対してのケアは、ミリに一任された。


 ミリもピナの死にショックを受けていた。ただそれはチリンと違い、ピナの死にミリは責任を感じていたのだ。

 ピナの病気がうつらないものだと気付いていれば、ミリはもっと早くからピナの看病が出来ていた筈だ。

 ミリには多少の医療知識があり、医院の診察記録を読む事も出来たので、そもそもピナが病気にならない様に、手を回したり口を出したり出来たかも知れない。

 医師の仕事におそれを感じて及び腰になっていなければ、養祖母ピナを死なせずに済んだかも知れない。


 そんな風に考えてしまったミリは、それを誰かに相談する事も出来ずに、独りで心に抱えてしまう。

 この様な悩みを相談できる相手がミリにいるとすれば、それは医師が該当するのではあったのだけれど、相手は忙しい上に相談相手としてはあまり相応しくもない。少なくとも、相談してもミリの心が軽くなる様なアドバイスは医師からは貰えない様に、ミリには思えていた。

 家族や親族も同じだ。ミリの所為ではないと慰めてはくれるだろうけれど、ミリの抱える思いの解決につながるアドバイスは、やはり貰えないだろう。


 そんなミリを周囲は、チリンと同じ様にショックを受けていると見做して、寄り添い合う事で二人の気持ちが癒える様にと、ミリにチリンの相手をさせる事にする。

 チリンは甘える事が出来るけれど、ミリは甘えるのが下手なので、ミリにチリンの面倒を見てくれる様にと頼む事で、二人を一緒にいさせた。その為にミリは、コーハナル侯爵家に泊まり込む事になる。


 ミリを大好きと言って良いほど気に入っているチリンは、ミリといる事で感情を安定させていく。

 そう言う意味では、周囲の狙いは上手くいったと言えた。



 ピナの棺に別れ花を入れる為に、ソロン王太子は人気(ひとけ)の無い早朝にコーハナル侯爵邸を訪ねた。

 連絡を受けていたナンテとスディオが対応し、パノとチリンも同席する。ミリもチリンに付き添って同席した。

 ピナの棺にはナンテ、スディオ、チリン、パノの順に別れ花を入れ、それにソロン王太子が続いた。


 ソロン王太子はチリンの様子を見て、チリンの肩に手を置くと、反対の手でミリの頭を撫でた。

 そしてミリが驚いている間に、ナンテ達に挨拶をして帰って行った。


 パノに促されて、ミリも別れ花をピナの棺に入れる。

 少し(やつ)れたピナの顔を見ると、ミリの心にはまた自責の念が浮かんだ。


 チリンは棺に取り付いたまま離れない。

 ミリはチリンの隣に回り、チリンが納得して離れるまで、その背中に手を当てて寄り添った。


 ラーラとバルは夜遅くに、やはり人気のない時間を狙って別れ花を納めに来た。

 ラーラもチリンと同じ様に棺に取り付いていたけれど、バルに促されると肯いて、名残惜しそうにではあるけれど棺から離れ、そして帰って行った。

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