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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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デドラの姿

 色々あった所為でしばらく通えていなかったコードナ侯爵邸に、ミリは久し振りに訪れた。


 ミリを迎えてくれたのは、バルの母リルデだ。


「いらっしゃい、ミリ」

「おはようございます、お祖母様」


 ミリが見上げると、リルデは少し済まなそうな顔をしていた。


「お義母(かあ)様なのだけれど、まだ眠っていらっしゃるのよ」

「そうなのですか?何かあったのですか?お体の具合とか?」

「本人は何ともないと仰っているのだけれど、睡眠のリズムが崩れているみたいで、朝まで起きていらしたり、夕方に起きて来ていらしたり、そうかと思うと昼間にちゃんと起きていらしたりするのよね」

「いつからですか?」

「使用人が気付いたのは最近なのだけれど、どうやらミリがハクマーバ伯爵領に行っていた頃かららしいの。お義母様は離れで寝起きしていらっしゃるから、それに気が付かなくて」

「分かりました。昼食の時には曾お祖母様に、お目に掛かれるでしょうか?」

「大丈夫だと思うわ。多分としか言えないけれど」

「ではその時に、少しお話を伺ってみますね?」

「ありがとう。ミリにそう言って貰えると、それだけで安心だわ」


 ミリの手を取ってそう言って微笑むリルデに、ミリも手を握り返して微笑みを返した。



 しかしバルの祖母デドラは、昼食にも起きて来なかった。



 しばらく振りのダンスレッスンで、ミリはクタクタになった。

 その後の護身術の訓練で、ミリはヘロヘロになった。


 それに続くお茶会の席にはリルデの姿しかなく、デドラはまだ眠っているとの事だった。


 心配になったミリは、デドラの寝室を覗かせて貰う。



 デドラの寝室はとても静かだった。

 離れなので、常駐している使用人の数も少ないから、人の気配も普段からかなり薄い。離れの主人であるデドラが眠っていれば、尚更だった。


 窓に掛けられたカーテンと、ベッドの天蓋から下りるカーテンとで、外の音も光も遮られる。

 ミリはその両方のカーテンを開けて貰って、デドラのベッドに光を入れて貰う。


 午後遅い光で少し暗い静謐な空間に、音も動きもなく横たわるデドラの姿は、確かにミリの不安も煽った。リルデや使用人達が心配するのももっともだとミリは納得する。


 そっと近付いて見るが、ミリにはデドラに生気を感じられない。

 手を伸ばしてデドラの顔に翳し、手のひらに当たる空気の流れで、デドラが呼吸をしている事をミリはやっと感じる事が出来た。


 生きている。そして深い眠りに就いている。


 少し躊躇(ためら)ってから、ミリはデドラを起こさずに、寝室を後にした。



 リルデには、デドラが寝ていても構わずに、日中は朝から寝室のカーテンを開ける様に伝えた。


「お義母様が寝ていらっしゃるのにカーテンを開けるのは、使用人には難しいと思うわ」

「曾お祖母様に怒られますか?」

「怒られはしないと思うけれど、やった事がないでしょうし」

「先程、わたくしが頼んでやって頂いたので、大丈夫です。実績を作って来ました」

「そうなの?」

「はい。もし曾お祖母様に怒られたとしても、わたくしが指示をしたと言って下されば問題ありません。この後直ぐに、理由を書いた手紙を(したた)めて、曾お祖母様のもとに置いて帰ります」


 そう言ってミリが微笑むことで、リルデはまた更に安心した。



 次にミリがコードナ侯爵邸を訪れた時には、リルデとデドラが迎えてくれた。


「いらっしゃい、ミリ」

「おはようございます、曾お祖母様、お祖母様」

「おはようございます、ミリ」


 リルデは笑みを浮かべ、デドラも微笑んでミリを迎える。


 リルデが出している手をデドラが握っている事に、ミリは少し気になった。しかしデドラはいつも通りに姿勢正しく立っている。

 ミリは気にし過ぎかと、その場では思った。


「ミリ」

「はい、曾お祖母様」

「あなたのアドバイスのお陰で、睡眠のリズムが大分(だいぶ)回復しました」

「そうですか。それは良かったです」

「本当に良かったわ。私達も安心できましたし」

「リルデさんにもミリにも、心配を掛けましたね」

「ミリのお陰ですよね?」

「いいえ。お役に立てたのでしたら、良かったです」


 そう答えてミリも二人に笑顔を返した。


 しかしその場で会話が続く。ミリはその事に違和感を抱いた。

 ミリが到着したこのタイミングでの会話は、いつもなら廊下を歩きながらしていた。それが今日は挨拶をしたまま、エントランスで話し続けている。


「ミリ。今日は久し振りに、昼食も一緒に摂りましょう」

「はい、曾お祖母様」

「お義母様?ガダも帰って来るそうですから、わたくし達もご一緒させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「構いませんよ。構いませんが、ガダはまたいつもの様に、戻って来るのがお茶の時間になるのではありませんか?」

「そうかも知れませんけれど、一応、食事の手配はしておきますね」

「分かりました。お願いします」


 リルデはデドラに「はい」と応えたけれど、その場にそのまま立っている。

 今までなら直ぐに、使用人への指示に向かった筈だ。


「ミリ」

「はい、曾お祖母様」

「今日も曾お祖父様の残した書類を確認するのですよね?」

「はい、曾お祖母様」

「では、わたくし達には構わずに、部屋に向かって良いですよ」

「あ、お二人はお出掛けになるところでしたか?」


 ミリはそうは言ったものの、デドラとリルデの服装は、普段の室内用に見える。


「いいえ。わたくしはノンビリと行きますし、リルデさんにはそれに付き合って頂きますから」

「ミリ。気にしなくても、大丈夫よ」


 そう言われてもミリは気になったし、納得し(がた)かったので、二人に「いいえ」と返した。

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