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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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フェリの骨折

 フェリが怪我をした報せを受けて、ミリは慌ててソウサ邸を訪ねた。

 使用人から、フェリはミリが下働きに通っている医院に運ばれてまだ戻って来ていないと言われ、急いで医院に向かう。


 医院の待合室にはソウサ家の使用人達と、ラーラの次兄ワールがいた。

 ミリは寸前で医院内である事を思い出したので、大声でワールを呼んでしまわずに済んだ。近寄って小声でワールに呼び掛ける。


「ワール伯父さん」

「ミリ?今日は仕事じゃないと聞いたけど、わざわざ来てくれたのか?」

「うん。曾お祖母ちゃん、どう?意識はあるの?」

「ああ。意識はしっかりしていた。頭は打ってなかったらしいし、大丈夫だろう」

「落馬したって聞いたけれど?」

「ああ。何ヶ所も骨折してる」

「何ヶ所も?落馬してから引き摺られたの?落ちてから馬に蹴られたの?」

「いや。違うらしい。馬から降りようとして、降り方を失敗したみたいだ」

「降り方?」

「ああ。本人は詳しい事を教えないんだけど、見てた人によると、どうも下りる時に足が上げきらなくて、踵で馬の尻を蹴ったみたいだ。それで馬が棹立ちになって、反対の足は鐙から外れてなかったから、その所為で祖母(ばあ)さんは股関節を骨折したみたいだな。鐙から足が外れて落ちた時に、腕と鎖骨と肋骨を骨折。手首や足首なんかも痛めたらしい」

「大怪我じゃない」

「本人強がって隠すから、他にも怪我をしてるかもな」

「なんで隠すのよ?」

「落馬して怪我なんて、恥ずかしいって思ってんじゃないか?骨折だって、医者に(さわ)られて脂汗流しながら、痛くないなんて言い張ってたからな」

「もう。曾お祖母ちゃんたら」

「発端が自分の下馬のミスだから、祖母さんの性格からすると、骨折なんて認めたくないんだろうさ」

「でも、股関節の骨折なら入院よね?」

「いや。帰るって言い張ってる」

「そうなのね」

「でも家で治療が出来るのか?」

「基本は安静にしているだけだから、大丈夫と言えば大丈夫だけれど。曾お祖母ちゃんがベッドから抜け出したりしない様に見張るには、ソウサ邸の方が病室よりも人手があるから良いかもね?」

「そもそも治るもんなのか?股関節の骨折なんて」

「今まで通りは難しいかも。安静期間に体力が落ちるし、何らかの後遺症も出るかも知れない」

「・・・そうか」

「今は治療中?」

「ああ」

「じゃあちょっと様子を見て来る」

「そうか?じゃあ頼んだよ、ミリ」

「うん」


 ワールに頭を撫でられ、ミリは明るい表情を作って肯いた。



 治療室に入ると、治療用ベッドを大勢の人間が囲んでいた。

 ミリに気付いた医師が、弟子達に指示をするとベッドを離れ、ミリの傍に向かって来る。


「コードナ君の曾祖母(ひいばあ)さんだそうだな?」

「はい、先生。あの、あそこに寝ているのが曾祖母(そうそぼ)ですか?」


 治療用ベッドを振り返って、医師は肯いた。


「ああ。あまりにも暴れるので麻酔を掛けた。意識があっても痛くないと言い張るだけだから、眠って貰ったんだ。それに歳の割には凄い力で、抑えるのも大変だったし」

「それは、お手数をお掛けしました」

「こんな患者はたまにいるからな。まあ、あの歳で馬に乗る婆さんは珍しいが」


 ミリはなんて応えて良いか分からず、取り敢えず「そうですね」とだけ返した。


「それで、曾祖母は自宅での治療を希望していると聞いたのですけれど、連れて帰れるのでしょうか?」

「ああ、連れ帰ってくれ。多分、入院しても医者の話なんて聞かんだろう。家族で説得しながら治療を続けてくれ」

「分かりました。先生?骨折が治れば曾祖母は、また歩けたり馬に乗れたりしますか?」

「可能性はあるが、馬は()めておいた方が良いんじゃないか?足が上がらなかったと言うのは、歳で体力が落ちているのだろう。馬を抑える事が出来なくなったら、本人だけではなく、周りも危険だろう?」

「そうですね」

「それと感染症に罹るかも知れなかったり、他の病気に罹る可能性もある。骨折自体は治っても、元の生活が出来るかは何とも言えんな」

「・・・そうですか」

「歳を取ると骨折の治りも遅い。治るのに時間が掛かれば体力は落ちるし、体力が落ちれば病気にもなる。分かるだろう?」

「はい」

「曾祖母さんはコードナ君が看病するのか?」

「そうしようと思っています」

「そうか・・・」


 医師はラーラを向いて「コードナ君」と呼び掛けながら、肩に手を置いた。


「看病疲れと言うのは知っているか?」

「はい。資料で読みました」

「肉体的だけではなく、看病疲れには精神的なものもある」

「精神的な疲れですか?」

「そうだ。(つら)いのは患者だと思って、甘やかしたり慰めたりあるいは励ましたりして、それでも目に見えて良くなっていかなければ、慰める方も不安や徒労感を感じる。患者本人の方が辛いのだからと、看病する方は我慢しがちだが、辛く感じるのはどっちも同じだ。看病してる方が先に参る事だって良くある」

「そうなのですね」

「コードナ君はここで働いているから、率先して曾祖母さんの看病に当たる積もりかも知れんが、独りで全部やるんじゃないぞ?曾祖母さんが完治するにしても、歳が歳だから時間が掛かるからな?」

「分かりました。周りの人と相談して、ペース配分を間違えない様にします」

「ふっ、ペース配分か。そうだな。配分は見直し見直しやると良い」

「はい。アドバイス、ありがとうございます」

「いや、曾祖母さんの面倒見れないって、こっちに戻されても困るからな」


 そう言って医師はイヤそうな表情をミリに向ける。ラーラはフェリがどれだけ暴れたのか、確認するのは怖いと思った。


「まあ、長丁場になるだろうから、肩の力を抜いていけ」


 そう言うとポンポンとミリの肩を叩いて、治療用ベッドに戻って行く。

 ミリはその背中に「はい」と応えて、頭を下げた。

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