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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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レントの決断

利かん手:非利き手の事だとお考えください

 木の棒を使ってだけれどレントは、祖父リートに剣術と槍術の稽古を付けて貰い始めた。

 場所はレントが草むしりをした庭だ。


 まだ型を習って素振りをするだけで、レントの体力が尽きたらその日は終了だ。しかしレントも大分(だいぶ)体力が付いて来ていて、素振りが出来る回数は日に日に増えていた。


 そして少し休んで体力を回復させると、今度はリートにも誰にも秘密にしている練習をレントは始める。

 レントはリートに習ったのと左右反対に構えて、休憩を入れながらも同じ回数までの素振りをした。利かん手や利かん足を使う事に付いて、レントは諦めていなかった。



 ダンスも一曲通して踊れる様にレントはなっていた。ただまだ一曲終わると疲労困憊で立てなくはなるのだけれど。

 踊れる様になっても、レッスン前後のストレッチは続けていて、レントの体はかなり柔らかくなっている。


 ダンスも左右反対に構えて自主練をしているレントだけれど、ペアで踊るには相手の女性も反対に踊れなければならない。

 ふと、手紙でミリを唆してみようか、などとレントは考えた。

 しかしなぜ左右反対で練習しているのか、理由を問われたら本当の事は言えなそうだ。なんとなく恥ずかしいし。

 左右反対で踊る事の良い言い訳が思い付かなくて、レントはミリを巻き込むのは躊躇(ためら)っている。



 離れの裏口の雨除(あまよ)けの屋根には、レントは左右どちらの手でも投げた木の実が届く様になっていた。


 庭で小石を投げたりも、槍に見立てた木の棒を投げたりも、左右で遜色がなくなっていた。


 草むしりでも最近のレントは、左右の手を使っている。

 上手くリズムに乗れた時は、片手でやるより多い量をむしる事が出来た。


 そこでレントは、文字も両手で書く事の練習を始めた。

 レントはどうしても、考えたり話したりする速さで、文字を書く事が出来なかった。それはレントにとって、とてもまどろっこしく思えていた。

 しかし両手で書ける様になれば、発語や思考の速度には適わなくても、上手くいけば今の倍の速さで書ける筈。

 そう考えたレントは、先ずは左右で同じ文章を書く事にした。

 ただし利き手だけで書くよりも、両手で書く方が何故か時間が掛かる。その上、利かん手で書いた文字は、後から見直すと読めなかったりした。

 レントが倍の速さで文章を書ける様になるまでには、まだまだ練習の時間が必要だった。



 レントは軽業(かるわざ)も練習し始めていた。


 花壇のレンガの上を歩いた事から、綱渡りを始めている。庭の太めの木の間にロープを張って、その上を歩く練習をしていた。

 まだ直ぐに落ちてしまうけれど、レントは少しずつ、ロープの上に立っていられる時間を伸ばしていた。


 木登りもやった。

 初めは全然登れなくて、木の枝にロープを掛けて、そのロープを手掛かりにして登ったりしていた。

 その内にだんだんと、ロープに頼らなくても登れる様になってきた。

 慣れてきたら枝に膝裏を掛けて逆さにぶら下がったり、幹を蹴って逆上がりで枝に登ったりする様になった。


 そしてアクロバットもやり始めた。

 領兵の中にバク転やバク宙が出来る人がいて、レントはこっそり習った。こっそりなのは祖母セリに見付かれば、止められそうだからだ。

 ダンスでの柔軟のお陰で、レントの体がかなり柔らかくなっている。それなのでアクロバットにも向く様にみえる。

 ただし最初はでんぐり返しの前転や後転からだ。飛び込み前転や前回り受け身なども習い、逆立ちも練習した。



 レントは乗馬も本格的に習い始めた。

 まだ背が低いので、補助して貰わなければ乗り降りが出来なかったけれど、レントは馬を歩かせたり走らせたりはそこそこ出来ていた。ただし見様見真似で覚えていたので、リートに教わって一から学び直している。


 リートは馬上槍が得意だったけれど、それはレントがもっと大きくなるまで教えるのを保留にされている。

 馬上槍は練習でも落馬の危険性が高いので、レントが大きくなってもセリからの許可は出ないかも知れない。それならそれで構わないとレントは思っていた。


 乗馬はレントにとって、移動手段として必要なものだった。

 剣や槍も、自分の身を守る為には必要だ。

 けれど馬上槍は戦争にでもならなければ本番で使う事はないし、貴族の跡取りのレントは指揮を取る立場だから、馬上槍で遣り合う事も考え難い。

 レントが馬上槍を習いたいと言っていたのは、リートに対しての忖度の意味合いが強かった。



 これまでとは違い、レントは父スルトが邸に帰って来た時には執務室に押し掛けて、スルトと会話をする様になった。

 スルトが忙しさを理由にレントを追い出そうとすると、レントはスルトの仕事をフォローして、自分と会話する時間をスルトに作らせた。

 しかしレントが何を言っても、昔からそうだったとか、いま問題になってないのだから問題ないのだとか、レントの話を何一つ、スルトはまともに取り合わなかった。


 そしてスルトはレントが手伝って業務が早く片付けば、予定より早く視察に戻ろうとする。

 レントはそれを(とど)めて、スルトとレントの会話の議事録を見せて、間違いないかを確認させた。

 スルトはろくに見ないで、間違いないとサインをする。そして他に何かを言われない様にと、さっさと邸を後にした。



 レントはスルトの態度を見て、今後の自分がするべき事を考える。

 スルトをいつまでも当てにしていたらダメだ。だがリートも領政ではあまり当てにならない。


 レントは、これまでのままで良いと言われても対策が取れる様に、過去の施策を見直す事にした。

 何年前、何代前と同じだと言えば、スルトも受け容れるだろう。そして受け容れられるかどうかはリートで試してみよう。

 レントはそう方針を決めると直ぐに、レントの執務室で過去の書類を紐解き始めた。

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