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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ハクマーバ伯爵家への対応

 ベギル・ハクマーバは伯爵位を継ぐ為に、王都を訪れた。

 王宮にて、国王から伯爵位を叙爵される。叙爵式で国王の前に跪き、忠誠を誓う。

 本来なら授爵を祝って、ハクマーバ家主催の披露パーティーを開くのだが、領地の洪水被害の復興どころか被害調査さえ少しも進んでおらず、父である前伯爵の葬儀が済んだばかりなのも理由に、慶事らしい催しは行わなかった。招待すべき貴族各家が殆ど王都にいないのも理由になる。

 それなのでハクマーバ家の人々は王都には来ず、ベギルも叙爵が済んだら直ぐに領地に戻った。ベギルが王都に滞在したのは一泊のみだ。


 ちなみに国王も、サニン王子の誕生祭を行った王家直轄領から、叙爵の為に戻って来るはめになっていた。

 ソロン王太子は王都にいた。しかし国王が病床にあるなら別だが、元気に出歩いている状態では、さすがに国王の代理でソロン王太子が叙爵する訳にはいかない。そんな事をしたら、国王はハクマーバ伯爵を軽んじていると評判になってしまう。

 それなので国王は、しぶしぶ王都に戻って来ていた。



 跡を継いだ新ハクマーバ伯爵が授爵以外には何もしないで領地に戻った事に対して、数少ない王都在住の貴族家当主ガダ・コードナ侯爵とその妻リルデ、その息子バルと孫ミリの四人は、対応を話し合っていた。


「私は本来ならハクマーバ伯爵に対して抗議をしなければならないのだが、あまりの事に呆気にとられて、気勢を()がれてしまったよ」


 ガダの言葉と表情に、リルデは眉根を寄せる。


「領地が気になるのは分かりますけれど、王都にいるあなたとミリを素通りとは、驚きましたわよね」

「ああ。バルのところにも連絡も何もなかったのだろう?」

「ああ。何もなかった。使者も手紙さえね」


 バルもガダとそっくりの、呆れた様な疲れた様な顔をして両親に向けた。しかしミリを振り向いた時には眉尻が少し下がって、少し優しい表情になる。


「供花に付いてとか、ミリにも何もないよね?」

「はい、お父様」


 ミリが肯くのを追って、ガダも肯いた。


「先代からは、ミリが盗賊に襲われた事などを詳しく調べて報告するし、それで分かった事実に基づいて誠実に対応すると連絡があったのだがな」

「急に跡を継いだにしても、こちらに何か一言あって(しか)るべきですよ」

「バルはハクマーバ伯爵の為人(ひととなり)を知っているのか?」

「いや。学院で一緒の時期は確かにあったけれど、向こうは翌年直ぐに卒業してしまったからな」


 ガダとリルデの頭には、学院では女の子に声を掛けて回っていたバルの事が思い浮かんでいたけれど、それはミリも同じだった。男の事を覚えていないバルに、三人とも疑問は感じない。


「視野が狭いのかしら?」


 リルデがそう言ったのがバルの事ではなくて、ベギル・ハクマーバの事だと理解するのが、ガダとミリはワンテンポ遅れる。

 ガダは遅れを誤魔化す様に、「う~ん」と唸ってみせた。


「この状況を見るとそうも思えるが、先代が急に亡くなって災害被害も解消してなくて、心に余裕がないのは確かだろうな」

「それもありますけれど、伯爵夫人はチェチェさんよ?伯爵が一心不乱に口説いて婚約して、その後もハクマーバ伯爵家をコーカデス家に味方させて、コーカデス家が降爵した時も離婚せずに、チェチェさんにコーカデス家と縁を切らせたじゃない。一つの事しか、考えられないのかも知れないわ」

「さすがにそれはそれ、チェチェ殿相手に限った事じゃないのか?」

「父上、母上。その話はここで結論出ないだろう?それより対応を考えよう」


 チェチェの話が出てからバルの機嫌が下がったのをミリは感じていた。チェチェがリリ・コーカデスの姉だからかな?と思って、ミリはバルの様子を窺う。


「そうね。今は社交界が機能していないので、噂などがあまり広がらないからと言って、恥知らずな事をしても構わない訳ではないのだから、上位の者としてキチンと教えて差し上げなければならないわね」

「そうではないと、コードナが見くびられてしまう」

「ええ」

「まあ先ず、先代のした約束が、どの様に履行されているのか、現況を訊く。その回答内容によって、改めて出方を決めるか」

「今回の様子だと、回答が来ないかも知れないわよ?」

「いくらなんでも、そこまで恥知らずではないだろう」

「あの、お祖父様」

「なんだい?ミリ?」

「状況報告の催促は()めて、このまま静観しませんか?」

「え?何故なのミリ?」

「その様な事をしたら、他の貴族からも我が家が軽んじられるぞ?」

「ですがお祖父様、お祖母様。社交界が機能していませんので、今回のわたくしに関する話は、身内とハクマーバ伯爵家のみしか知らず、他家には伝わらないと思います」

「確かに恥になりますから、ハクマーバ伯爵家からは広めたりはしないでしょうね」

「ええ」

「それで?ミリの狙いはなんだい?」

「他家に知られないなら、わたくしの件は放置しても、コードナ侯爵家にも我が家にも影響はありません。既に起こってしまった事ですし、何かが追加で発生したりもしません。ハクマーバ伯爵家との今後の関係がどうなるのかが、問題なだけです」

「いや、ミリ?それが正に問題ではないか?」

「はい。その通りです、お祖父様。そしてこの件の対応や解決が遅れれば遅れるだけ、ハクマーバ伯爵家の立場は悪くなります」

「そうね。その通りだわ」

「なるほど。向こうが誠意を見せて早く解決するなら良し。後回しにして立場を悪くするならそれも良し、か」


 ミリの意見にリルデとガダは肯いて、ミリに笑顔を向けた。

 バルは皺の寄った眉間に手を当てて目を瞑る。案じるのは、貴族らしいだけではなく異様に計算高いミリの将来だ。

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