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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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朝の拒否と妥協

 朝になり、バルの腕の中でラーラが身動(みじろ)ぐ。


「う、うん」


 ラーラが小さく唸った。

 バルは腕の抑えを緩めてラーラの体との隙間を広げながらも、逆に腕には力を籠めた。


「おはよう、ラーラ」

「ん・・・バル?」


 ラーラは久し振りに熟睡をしたけれど、まだ寝足りない。片目が薄く()いて、眩しそうにバルを見た。

 ラーラの両目がゆっくりと(ひら)かれていく。

 そして大きく見開くと口も緩み、目と首を動かしてバルと自分の体勢を認識すると、ラーラは一気に目を覚まして叫んだ。


「イヤ!」


 目を瞑り、バルを押し退()けようとラーラは力一杯腕を伸ばすが、バルはラーラを(つつ)む腕の力を緩めない。


「ラーラ。俺だよ。バルだよ」


 バルは昨夜と同じく、低い声でゆっくりとラーラに話し掛ける。


「バル!ダメよバル!放して!」

「大丈夫だよ、ラーラ。大丈夫だ」

「イヤ!放して!怖い!」

「昨夜は一晩中、こうしていたんだ。大丈夫だよ、ラーラ」

「ダメよ!イヤだってば!」

「昨夜はラーラから抱き着いて来たんだ」

「イヤよ!放してってば!」

「ラーラ。昨夜はラーラから抱き着いてくれたんだよ」

「ウソよ!」


 最初はバルが抱き締めたけれど、ラーラからも抱き着いて来たのは来たので、嘘ではない。


「ウソじゃない」

「ウソ!」

「ウソじゃない。そうでなければ俺が、こんなにラーラの近くにいるわけないだろう?」

「でも!ウソよ!」

「本当だよ。ラーラは俺の腕の中で、安心した顔をしてくれて、眠ったんだよ」


 ラーラは自分を守る様に腕を縮め、体を硬くしたまま目を開ける。


「本当だよ、ラーラ。俺の腕の中で穏やかな表情で、直ぐに寝息を立てたんだ」


 ラーラは顔を上げてバルの目を見た。体には力を入れたままで、口は強く結んでいる。


「ラーラは俺に抱き着いてくれて、俺の腕の中で、安心した様に眠ってくれたんだ。本当だよ」

「・・・もしかして私、(うな)されたりしていた?」

「ああ。悪い夢を見ている様に見えた」

「・・・そう」


 ラーラはゆっくりと腕を伸ばして手を開き、バルの胸に指先を触れてそっと押す。


「でも、ごめん、バル。今は放して」

「ダメだ」

「バル、ごめん。ホントに怖いの」

「ダメだ。今放したら、前より俺が怖くなるだろう?」

「そんな事ないから」

「ダメだ」

「絶対ないから、お願い。放して」

「俺はラーラを傷付けないよ」

「うん。分かってる」

「絶対に、ラーラを守る」

「うん。それも信じてるわ」

「そうか。それでも怖いんだね」

「あの・・・ごめん」

「いや、俺の方こそごめん」


 バルは腕を退()けた。

 ラーラは素早く横に一回転してバルから離れ、上半身を起こす。

 バルは仰向けになり、片手で顔を覆った。

 二人はそのまま動かなかった。


 少しして、手で顔を隠したまま、バルが口を開いた。


「もし今夜、またラーラが魘されていたら、抱き締めても良い?」

「え?・・・でも・・・」

「朝には離れているし、夜中にラーラが目を覚ましたら、直ぐに放すから」

「だけど・・・」


 バルは手を下ろしてラーラに顔を向けた。


「今も俺が怖い?」

「今は、そうでも」

「俺がこのまま動かなければ、俺に抱き着ける?」

「え?・・・どうだろう?」

「背中からは抱き着けるのだから、俺が腕を動かさなければ、大丈夫なのではない?もちろん、足も頭も動かさないよ」

「・・・少し、試してみても良い?」

「もちろん」


 ラーラはバルの傍まで(にじ)り寄る。


「あの、バル?目を閉じていて貰っても良い?」


 ラーラの様子を見ていたかったので少し残念に思ったけれど、それよりはラーラに試して貰える方が大事だと思い直して、バルは「ああ」と目を閉じた。


 ラーラはバルが目を開けないのを確認しながら、手を伸ばしてバルの腕に触れる。バルは少しも動かない様にと、体の力を抜けるだけ抜いていた。

 手で触れている場所を腕から徐々に肩に移して、ラーラはもう少し躙り寄ると、手を更に動かしてバルの胸に置いた。ラーラは手のひらで、バルの心臓の鼓動を感じる。

 ラーラは体を折ると、バルの胸に顔をゆっくりと近付けた。そして直前で少し躊躇(ためら)った後、バルの胸に耳を付けた。

 バルの胸に頭を載せたまま、ラーラはバルの胸に当てていた手を反対側の肩に向けて動かして行く。

 脚を横座りから崩して伸ばし、頭は胸のまま、ラーラはバルの隣に自分の体を横たえた。


「バル?」

「うん?」

「抱き着くってこんな感じ?」

「昨夜のはもっと積極的だった」

「え?ウソ?」

「本当だよ」

「でも・・・だって・・・」

「今は無理してる?やっぱり怖い?」

「動かないよね?」

「ああ」

「それなら、大丈夫かも知れない」

「そうか。それならラーラが大丈夫な内は、慣れる為にこうしていて欲しい」

「ダメよ!」


 ラーラは体を起こした。


「朝の支度が遅くなるじゃない。仕事に遅れちゃうわ」

「今はそんなに忙しくないから、少しくらい遅れても」

「ダメ!商売人がそれではダメよ!」


 ラーラがそう言ってベッドから下りるのを感じて、バルは苦笑いと共にフッと息を吐いた。


「それで俺は?もう目を開けても良い?」

「・・・どうしようかな?」

「え?」

「だって、さっきは私がダメだって言っても、聞いてくれなかったし」

「仕返しって事?」

「冗談よ。開けて良いわ」


 ラーラはバルを振り向かずにそう言った。


「それじゃあ、朝食の時にまた」

「え?ああ」


 ラーラはいつもと違って、バルを待たずに振り向きもせずに、寝室から出て行こうとする。

 バルはその事から、自分がやらかしたと思って、ベッドの上で頭を抱えた。

 ラーラはなんとなく、バルの顔を見る事も、バルに顔を見られる事も出来なくて、直ぐに寝室を出ると廊下も足早に進む。そして自分の私室に入ってドアを閉めると思い切り息を吸って、大きな溜息を()いた。

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