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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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誕生パーティーでの被災地報告

 ミリは自分の誕生日になんとか間に合って、王都に戻る事が出来た。

 ただし、途中で疲れた馬を乗り換えて進む強行策を取ったので、費用は予算をオーバーしている。これは、供花費用で赤字になる事が決まったので、ミリがもう良いかと費用を気にしなくなったから出来た事だ。赤字を抑える事よりも、少しでも早く王都に戻る事をミリは優先した。



 ミリの誕生日当日には当初の予定通りに、身内だけを招待しての誕生祝いのパーティーが開かれた。

 場所はミリの暮らすコードナ邸。

 参加者は計十三人。コードナ侯爵家から、バルの祖母デドラ、母リルデ。コーハナル侯爵家からパノの祖母でラーラの養母ピナ、パノの弟スディオの妻チリン元王女。ソウサ家からはラーラの祖母フェリ、父ダン、母ユーレ、次兄ワール、三兄ヤール。その九人に、バル、ラーラ、パノ、そして主役のミリとなる。

 バルの父ガダ・コードナ侯爵と、パノの母ナンテと弟スディオも参加する予定だったが、ハクマーバ伯爵が亡くなった事によって王宮との遣り取りが必要な為、今日は不参加となっている。



「ミリ。誕生日おめでとう」


 祝いの言葉を掛けながら、可愛く着飾ったミリを上品に着飾ったピナが抱き寄せる。

 その様子に皆が驚いた。礼儀作法に厳格なピナが、身内だけとはいえ人々の前で、マナーに反しそうな行動を取ったからだ。

 抱かれたミリも驚いて、体を硬くする。

 しかし抱かれる腕の優しさに気付くと、ピナの顔を見上げて微笑みを返した。


「ありがとうございます、お養祖母(ばあ)様」


 そう答えてミリもピナを抱き返した。


 ピナに続いてパノもチリンもミリを抱き締めながら祝いの言葉を贈り、続くデドラもリルデもミリを抱き寄せた。

 人々の注目の中、フェリが逆にミリから抱き付かれて照れて、それをソウサ家の皆から揶揄われて睨み付けると、ミリには引き攣り気味の笑顔を返した後に、フェリは強く抱き締め返した。ダンもユーレも普段の様にミリを抱き締め、ワールはミリを高くリフトしてから抱き締め、ヤールはミリを抱き締めたまま振り回す様にクルリと一回転した。

 そして、朝一番で祝いの言葉は贈ったけれど、ミリを抱き締めてはいなかったラーラとバルがミリに近付く。バルに背中を押されて、ラーラがもう一歩ミリに近付いた。ラーラがミリの前に跪いてその体を抱くと、バルがミリとラーラを抱き締める。


「ミリ。生まれて来てくれて、ありがとう」


 バルの言葉に、ラーラはうんうんと肯く。

 それを見た皆は、驚いた。バルから触れられるのをラーラが拒絶しないからだ。二人と一緒に暮らすパノだけは、その光景を嬉しそうに眺めていた。

 ミリも驚いて目を見開いて、そして笑みを浮かべると、ミリは二人を抱き締め返す。


「お父様、お母様」


 ミリは顔を上げて笑みを皆にも向けた。


「皆様。わたくしを生まれさせて下さって、ありがとうございます」



 パーティーと言っても主役のミリがまだ子供なので、日中に開催されて酒類も出されていない。

 立食で思い思いに食事を取りながら、ミリに話し掛けたり、数人で世間話をしたり、それぞれで過ごしていた。

 そして食事が一段落すると、テーブル席にお茶が用意され、ミリからのハクマーバ伯爵領での出来事の報告会が始まる。



「被災地の復興はまだ手付かずなのか」


 ミリの報告を聞いてヤールが独り言の様に口にする。


「ええ、ヤール伯父さん。捜索が行われている領都側も、流木の撤去も進んでなかったわ。捜索に邪魔な部分だけ退()かしているけれど、まだ運び出してはいないって」

「捜索優先なら仕方ないか」

「まだ被害の全容も分からないみたいだし。それでコウグ公爵領に近い側では、被災地の傍の村々の村人達は全員退去していて、復興しても戻って来ない積もりの人も多いって」

「そうなんだな。ハクマーバ伯爵領から来たって言う求職者が、結構増えて来てるし」

「そうなのね。現地では、これから移動する積もりの人は見当たらなかったけれど、領内で職が見付からなければ王都に出たりするだろうから、まだまだ増えるかもね」

「そうだろうな」


 ヤールが肯いて、話が途切れたのを見て、ダンがミリに尋ねた。


「物流はどうなんだい?」

「領都はそれまでとあまり変わらないみたいよ、お祖父ちゃん。物価も特に変わらないって聞いたわ」

「木材は?」

「それもそれほど」

「そうなのか?被災地の辺りは、木材の産地の筈なんだけどね」

「それなんだけれど、あの辺りはハクマーバ伯爵領内にではなく、最近はコウグ公爵領に木材を運んで売っていたみたい」

「なるほどね。そうするとコウグ公爵領内が影響を受けてるんだね?」

「そうかとは思うけれど、コウグ公爵領は調べなかったから、分からないわ」

「う~ん、やっぱり、ソウサ商会の支店がない地域は、今ひとつ状況が把握出来てないな」


 ダンはそう言って首を傾げる。

 今度はユーレがミリに聞いた。


「木材以外は影響ないのね?」

「うん、お祖母ちゃん。領都とかはね。被災地近くの町は人が集まって、需要が増えたから値上がりしたって。あと、領都から被災地までの街道を通っていた隊商が、洪水の後に来なくなっているので、その街道沿いでは品不足が起こってたわ」

「そうなのね」

「うん。でもその街道以外の領民は、あまり影響を感じてないみたいだった」

「商圏はどうなんだ?」


 ワールが口を挟む。


「木材を売ってたなら被災地の辺りは、商圏としてはコウグ公爵領側になってたのか?」

「領境に収税所があるから、そんな事はなかったと思うけど」

「コウグ公爵領とハクマーバ伯爵領の間に収税所が?」

「うん、ワール伯父さん」

「二領は提携してるんじゃなかったか?」

「うん。だから入出領税は取られなかったけど、関税と売り上げ税は普通に取られたわ」

「そうですね。あの二領は以前は諍いや小競り合いを良く起こしていたので、領民の心情を考えると、税の撤廃は直ぐには難しかったのでしょう」


 デドラの言葉にミリは肯く。


「そうですね、曾お祖母様。ですけれど木材は、ハクマーバ伯爵領からコウグ公爵領に運ぶ時に関税が掛からなかったそうですから、もしかしたらこの先は、変わって行くのかも知れません」

「そうだったのですか?王宮の広報資料では、その様な記述をわたくしは見なかった様に思います」

「そうですね。確かにわたくしも見た覚えがありません」

「調べましょうか?」


 チリンがデドラに提案する。


「コーハナルのお義父(とう)様に許可を取って、スディオから王宮に確認して貰えば、直ぐに分かると思いますけれど、いかがです?」

「そうですね。ミリはどう考えますか?」

「ハクマーバ伯爵が亡くなって直ぐですし、忙しいであろう王宮の皆様の手を煩わせるのも気が引けます。それに領地間の関税変更の報告が漏れていたとしても、修正して終わりだと思いますので、このままでも良いかとわたくしは考えます」

「え?ミリちゃん?領地間の関税が変わると、国への納税額も変わるわよ?」

「ええ、チリン姉様。ですけれど収税額が減りますから、修正したら国への納税額も減りますよね?何年も遡って計算して、多く納税していた分を国からコウグ公爵領へ還付する事になりますから、王宮の文官の方達の仕事を増やす事になりますし、恨まれませんか?」

「そうかも知れないけれど、でも正さないとダメでしょう?」

「税金を多く払っているとしたら、コウグ公爵の意図が分かりません。チリン姉様。王宮への連絡は、それを確認してからの方が良いとわたくしは思います」

「そうですね。チリンさん。わたくしもミリの意見に賛成です」

「そう、ですか。デドラ様がそう仰るなら、この場では意見を引き下げます。でもミリちゃん?ちょっと分からない所があるから、後で教えて頂ける?」

「分かりました。チリン姉様」


 正義感の強いチリンに問い詰められるかも知れないと思いながらも、ミリは微笑みを引き攣らせない様に気を付けながら、この場では肯いた。

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