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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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買い占め防止と騒動鎮圧

 ミリ達一行(いっこう)が最初の村に戻ると、村長が先頭に立って謝罪して来た。商品を売ってくれと村長とその部下の様な者達が揃って頭を下げると、周りの村人達も慌てて頭を下げた。


 ミリはその最初の村で商品を売る事にする。

 しかし簡単には売らない。


 先ずは村長に、商品を買いたい人を村中から集めさせた。

 そして一人一人に商品名と値段が書かれた注文票を渡し、それに買いたい商品の数量を書いて貰う。字を読めない人の為には内容を読み上げ、字を書けない人には代筆もした。

 そしてその注文票を集めて集計する。集める時には注文票に番号を振り、同じ番号の半券に合計金額を書いて村人達に渡した。


「では順番に販売します」


 ミリがそう言うと、村人達を押し退()けて、村長とその部下だか取り巻きだかが前に出て来る。


「先ずは40番の(かた)。40番の方、いらっしゃいますか?」

「おい!待て!先ずは村長であるワシからだろう?」

「そんな事はありません。40番の方いらっしゃいませんか?出て来ないなら買わないと見做しますよ?」


 人々の後の(ほう)で「買います」との声が、手と一緒に上がった。


「皆さん、その(かた)を通して上げて下さい。ノンビリしていると途中でも販売を終了しますよ」

「待て!なんで終了するんだ!」

「我々は今日中に領境を越えますので、それほど販売時間を取れません」


 そんな遣り取りをミリと村長がしている間に、40番の半券を持った村人が前に出て来た。販売を担当する馭者がその村人を馬車の方に連れて行く。村人は半券に書かれていた金額を支払い、注文票通りに用意された商品を受け取った。


「次は82番の方!」

「え?はい!」

「いや待て!なぜそんなに飛び飛びの番号なのだ?!」

「金額の少ない方から販売しているからです」

「はあ?なぜだ?!なぜそんな事をする?!」

「買い占め防止です」

「は?な?」


 ミリは村長と取り巻き達に笑顔を向けてから、次の番号の村人を呼び出した。



 途中で品切れた商品もあり、注文票に書いた物が揃わなくなっていくが、それでも良いと言う村人達に販売を続ける。

 そしてミリ達は、全ての商品を売り切った。

 村長と取り巻き達は買うのを諦めて、途中でその場を去っていた。



 領境では出領に当たり、ハクマーバ伯爵領側に売上税を納める。商品は売り切ったのでそれへの関税は掛からない。

 ハクマーバ伯爵領とコウグ公爵領は提携を結んでいるので、入領税も出領税も取られない。

 そしてコウグ公爵領側では入領に当たり、馬車に積んでいる商品の数量を確認して証明書を発行して貰うのだが、それにまた時間を掛けられた。商品は全て売り切ったので確認は簡単な筈なのだが、前日に通った時も今回もワイロを渡さなかったので、またイヤがらせをされたのだ。



 コウグ公爵領に入ると直ぐに、ミリ達一行へのイヤがらせが足留めだけではない事が分かった。

 そこには多数の神殿信徒達が、ミリ達を待っていた。


「あいつだ!」

「あいつがミリ・ソウサだ!」

「悪魔の子だけあって悪魔にそっくりだ!」


 ラーラの顔を覚えていた敬虔な信徒達が、ラーラにそっくりだと言われるミリを指差す。


「悪魔の手先め!」

「洪水でどれだけの人が苦しんでるか、分かってるのか!」

「人の弱味に付け込んで金を取るなんて!」

「お前らには人間らしい心がないのか!」

「金の亡者め!」

「悪魔の生まれ変わり!」

「洪水を起こしたのもお前らだろう!」

「無辜の民を大勢殺したな!」

「大切な人を亡くした大勢の善良なる人々を今も苦しめている!」

「お前なんかがいるからいけないんだ!」

「そうだ!死んで詫びろ!」

「お前が死ねば良かったんだ!」

「そうだ!」

「そうだ!」

「お前が死ねば良いんだ!」

「悪魔よ!死ね!」


 その言葉とともに石がミリを目掛けて飛んできた。それまで抑えていた護衛達は、直ぐさま敬虔な信徒達の中に分け()って、投石した人間を取り押さえた。

 護衛達の咄嗟の素早い動きに、呆気に取られた敬虔な信徒達は動きを止めた。その中から、護衛達が投石犯を引きずり出して、体を宙に持ち上げる。それは投石犯の姿を集まっている信徒達に見せる為だ。


「この者!貴族への殺人未遂として捕らえた!極刑は免れない!お前達も貴族への侮辱罪として訴える!その場に跪け!」

「あ、な、何を言っている!」


 護衛達が敬虔な信徒達の後に回り込み、一人一人跪かせていく。


「俺は違う!」

「私は何も言っていない!」

「殺人未遂犯の仲間なら一緒だ」

「いや!仲間じゃないわ!」

「通り掛かっただけなんだ!」

「見ていただけで止めなかったなら同罪だ」

「待って!」

「いや、待ってくれ!違うんだ!」

「弁明は取り調べでする様に」


 暴れる者は引き摺り出されて縛られ、口と耳に詰め物をされて頭に袋を被せられた。


「抵抗するならこうなる!自分は無実だと思う者、罪を軽く済ませたい者は指示に従え!」


 護衛にそう言われると、多数が指示に従った。


「殺人未遂の実行犯の他に、教唆や誘導をした者がいる筈だ。ミリ・コードナ様がここに現れると教えたのは誰か、知っている者は手を上げろ」


 縛られていない者達が、周囲を見回したりしている。


「正しい情報を最初に提供した者は、協力的だったとして減刑を申請してやる」

「あいつだ!」

「あいつに聞いた!」

「あいつが言ってたんだ!」


 何人もが、収税所の出入り口から様子を見ていた役人を指差した。

 それを予期してこっそりと、収税所の出入り口の傍に待機していた護衛達が、役人を逃がさず捕らえる。


「いや!違う!俺じゃない!俺は言われた通りにしただけだ!」

「それは取り調べで証言すれば良い」


 役人も縛られて、口と耳に詰め物をされて、頭に袋を被せられた。


 騒ぎが一通り収まってから、この地域の管轄の警備隊を連れて来る為に、連絡員が向かう。


 しばらくすると収税所から別の役人が出て来て、縛られた役人を解放しろと要求した。

 それに対して上司を連れて来る様にと護衛が求めると、一旦収税所に戻って、また同じ役人が出て来て、上司はいないから、とにかく解放しろとだけ繰り返す。

 そして警備隊が到着すると、役人は収税所に逃げ込んだ。


 警備隊には護衛から事情を話し、待っている間に用意した経緯書を渡す。

 警備隊長に経緯書と犯人達と容疑者達を受け取った事をサインさせて、全員を引き渡し、ミリに向けて投げられた石も証拠品として渡す。

 顛末の報告をコードナ侯爵に送る事も、警備隊長に約束させてサインをさせた。


 その場の後始末も警備隊に任せ、ミリ達一行は王都に向かう為に、コウグ公爵領と王都を結ぶ街道を目指した。



 そして、コウグ公爵領を出たミリは、最寄りのソウサ商会倉庫支店に立ち寄り、そこでハクマーバ伯爵が亡くなったとの話を聞く。

 死因は心不全だとされていた。

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