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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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反対側からの様子

 コウグ公爵領に入ったミリ商会の一行(いっこう)は、領都には向かわずに最も早い道を選んで、ハクマーバ伯爵領の洪水被災地に通じる領境に着いた。その領境を越えた先は、ハクマーバ伯爵領の領都から洪水被災地に向かった街道と、繋がっている筈だ。


 ミリ達はコウグ公爵領内に入ってからは、商品の売買を一切(いっさい)(おこな)っていない。それなので、入領時に発行された証明書と現在の馬車に積まれている商品を比較すれば売買がなかった事が分かり、売上に対する納税は不要で手続きも簡単に済み、直ぐに領境を越えられる筈だった。

 しかし収税官に、コウグ公爵領内での売買がない事が却って怪しいと言われ、取り調べの為だとしてミリ達一行は足留めをさせられる。

 収税官はそれとなく何度も、ワイロを支払う事を求めた物言いをするが、ミリはそれを全て受け流した。一度でも払えば次回以降もワイロを求められるし、この収税官が汚職などで捕まれば贈賄側のミリも罪を裁かれる。

 時間を惜しむ気持ちはあったけれど、ミリは取り調べには応じるが、ワイロの要求には最後まで応じなかった。



 ミリ達一行が領境で足留めされている間に、ハクマーバ伯爵領側の村では、隊商が来るとの噂が広がっていた。コウグ公爵領で買い物をして、ハクマーバ伯爵領に戻る時に、ミリ達一行を見掛けた村人が広めたのだ。

 それなのでミリ達がハクマーバ伯爵領に入って最初の村に着くと、村人達が待ち構えていた。

 そしてハクマーバ伯爵領の領都から一つ目と二つ目の村と同じ様に、村長達が商品の料金の値引きを一方的にミリ達に迫った。


 村人達に周囲を囲まれて進めなくなったので、ミリがハクマーバ伯爵領に詳しい筈の馭者を振り返ると、馭者は肩を竦めてみせた。

 もしかしたら最近のこの街道沿いの村は、交渉らしい交渉をせずに一方的に押し切ろうとする者達が幅を利かせる様になったのかも知れない。そうなると交渉どころか話を聞くのも無駄なので、ミリは護衛に合図をした。

 ミリの合図を受けて肯いた護衛が、村人達に向けて大声を上げる。


「この商隊は先日、盗賊に襲われた!」


 いきなりの話に驚く村人達に、護衛達が盗賊から取った調書の写しを配る。

 それを読んだ村人達の間に、動揺が走る。


「それに盗賊は村人とある様に、その村に寄った時も今のこの場の様に、村長から強引な値引きを命じられた!」


 そこで護衛達は槍を構えた。


「その時の盗賊は全員領都まで運んで、ハクマーバ伯爵様に裁きをお願いした!しかしもしここで不埒な輩が現れた場合、ハクマーバ伯爵領の領都まで連れて行くのは困難だ!よってその場で斬り捨てる事になる!」

「脅そうと言うのか?!」


 村長が大声で怒鳴り返した。


「脅しではない。忠告だし、事前通告だ」

「そんな事を言えば誰も商品を買わんぞ!」


 村長の言葉に村人達に動揺が広がる。

 村長と一部の村人は転売で儲ける積もりだが、村人達の殆どは自分達で使用する為に必要な商品を買いたい。


「客がいないのであれば、店を開く必要もないな」


 護衛の言葉を合図に、ミリ達一行は馬を出したが、直ぐに村人達に行く手を阻まれる。


「待ってくれ!」

「少しでも良いから売ってくれ!」

「お願いします!」


 そう懇願する村人達に、護衛達は槍を突き付けた。


「我々を襲った盗賊は、村長の命令だと言っていた!その真偽は分からないが、今、我々の行く手を遮る者達が盗賊なのか違うのか、この地に馴染みのない我々には判別が付かない!分からない以上は我々の荷を奪う盗賊だとして対処する!盗賊ではない者は道を開けよ!」


 村人達は後退りして、ミリ達一行との間に距離が開いた。


「我々も斬り捨てたくはないが、そなたらも斬り捨てられたくはなかろう?」


 護衛達に構えた槍を向けられるとまた、村人達は後退る。村人達との距離は更に開き、ミリ達一行の前に道も開いた。


「我々は帰りにまたここを通るが、その時に節度を持って我々に接するなら、販売を行うかも知れない!」


 護衛がそう言い終わると、護衛達が槍で牽制をしながら、ミリ達一行は村人達の間を通り抜けて、最初の村を後にした。



 次の村でも、ミリ達が商人だと気付いた村人達に囲まれたが、こちらは普通に売買を求められたので、ミリはそれに応じた。


 ミリはまた、この村でも村長に捕まって話を聞かされる。

 しかしその村長の話の内容には、有意義な事柄も含まれていた。


 村長が言うには、これより先の村には人はおらず、村人達は皆避難したとの事だった。

 避難した村人達は、この村や最初の村に留まっている人達もいるけれど、ハクマーバ伯爵領を出て行った人達もいるらしい。ただしミリは、最寄りのソウサ商会倉庫支店でもここまでの道でも、それらの人達の事を耳にしなかったから、コウグ公爵領の領都に向かったのか、あるいは道が荒れていると思われた街道を通って、ハクマーバ伯爵領に戻っているのかも知れないと考える。


 村長の話が事実なら、馬なら一日で往復出来る距離より先は、道がなくなっていて進めないらしい。


 ミリは村の少し先で野営をする事にする。

 そしてその翌朝、馬車と馭者達と馬車の護衛を野営地に残し、自分の護衛達だけを連れて、ミリは馬でその先に進んだ。



 街道を進んで村長の言葉通り、無人の村をいくつか通り過ぎる。

 そして土砂に押し潰された村の手前で、その先には進めなくなっていた。

 村の傍の山には斜面が崩れているのが見え、それが村を潰した土砂の原因になっている様に見える。

 村の手前には広く水が溜まり、村を潰した土砂を水が回り込んで、その先に流れている様に見えた。


 その村の周囲の山も遠目に見えるその先の山々も、土砂崩れが起こってはいない様に思える部分でも、木が生えておらずに山肌が見える場所がある。そしてその合間合間に何ヶ所にも、土砂崩れが起きた様に見える部分があった。


 ここから先がどうなっているのかは分からない。

 しかし村長の言った通りで街道のこちら側からは、ハクマーバ伯爵領の領兵達による調査も捜索も行われていない事が見て取れた。


 ミリは洪水被害の現場を調べて原因を確認する為に、わざわざコウグ公爵領を通り抜けてここまで来た。しかしこれ以上近付くのは危険だと判断して、ミリ達一行は道を引き返す。

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