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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ハクマーバ伯爵の媚

「閣下!進退とは何事だ!」


 旧臣が椅子から立ち上がって、ハクマーバ伯爵に言い募った。ハクマーバ伯爵は旧臣に、凪いだ視線を返す。


「進退は進退だ。私は今後、コードナ侯爵閣下に(こび)ねばならん」

「はあ?!なぜコードナに!」

「今回のミリ・コードナ殿の事で、大きな負い目を負ったからだ。被災地復興の援護を目的に、話し合いにわざわざ来てくれたミリ・コードナ殿の相手をろくにせず、領地内、それも領都にほど近い場所で盗賊に襲われて、その事に謝罪も盗賊を捕らえてくれた事に感謝する事もなく、領地を出て行かせた」

「支援だって下心があったに決まっている!」

「それはそうだろう。ミリ・コードナ殿も貴族の令嬢。幼くともコードナ侯爵閣下が一人で他領を訪ねさせるほどだ。才女との評判の高かったデドラ・コードナ夫人と、その人の前では行儀作法に間違えがないかと王族ですら緊張すると言うピナ・コーハナル夫人に教育されたとも聞く」

「あのデドラ・コードナ様とピナ・コーハナル様に・・・」

「そう。あのお二人にだ。下心なしにわざわざこの地まで来る筈はないし、その下心を隠して何かを成し遂げる事まで既に出来る様になっているからこそ、コードナ侯爵閣下は一人で寄こした。そうは思わないか?」


 ミリの曾祖母デドラとラーラの養母ピナの名を知らない者達も、古くから勤める高位家臣達の様子に、知らないならではの畏れを抱いた。


「進退はそれぞれの決定に任せるが、私に冷遇されてもベギルの代になったら、などとは考えない方が良いとは言っておく」

「なぜ?!ベギル様もチェチェ様も、ラーラ・ソウサは悪魔だと仰っているではないか?!」

「いつの話をしておる」

「現に今回だってベギル様の命令で、ミリを放置したのだし」

「さっきの話か?」


 ハクマーバ伯爵はミリとの窓口を担当した文官を見る。


「ミリ・コードナ殿の放置は、ベギルの指示か?」

「あ、はい」

「そうか?先程はベギルの執事の提案と言ってなかったか?」

「え?はい」

「その執事はこの場にいるか?」


 大広間の面々が周囲を見回す。


「いえ。ベギル様に付いて、サニン王子様の誕生祝いに、共に向かったと思います」

「その執事からされた話に、ベギルの指示だとあったのだな?」

「あ、いえ、それは・・・」

「執事にはなんと言われたのだ?」

「ミリ・ソウサが来て閣下やベギル様との面会を希望したら、報告する様にと言われました。そして焦らせれば資材をただで置いて行くだろうから、ベギル様が誕生祝いから戻るまで待たせれば良いと。資材を買い叩いた功績は分け合おうと」

「功績を分け合う?」

「はい。領地の利益になるので、褒美が出されるから山分けだと」

「財務部長。私の知らんところで、いつもその様な褒賞を出しているのか?」

「いいえ。その様な事は全くございません」


 財務部長が首を左右に小さく振りながら、そう答える。


「そうだな。私の知らぬ間に、ルールが変わった訳ではなさそうなので良かった。それで?その執事はベギルからの指示だと言ったのか?言ってないのか?」

「それは、言葉にはしていなかったと思いますが」

「まあそうだろうな」


 ハクマーバ伯爵は大広間の面々を見回した。


「ベギルとチェチェがラーラ・コードナ殿の事をラーラ・ソウサと言ったり悪魔と呼んだりしたのは、もうかなり前だ。少なくともコーカデス家と距離を置く様になってからは、その様な事はない」

「そんなバカな!コーカデス家が落ちぶれたのも、ラーラ・ソウサの所為ではないか!」

「その件ではチェチェもかなり悩んでおったから、考えが変わったのかも知れんな」

「そんな・・・バカな・・・」


 大きかった旧臣の声が、小さく細く呟く様になった。


「リュリュがサニン殿下との親睦会に参加した時に、美しい所作で、殿下に対しても堂々と接していた子供が二人いたそうだ。リュリュは挨拶をしていないので名は分からなかったそうだが、それまで見た事がないと言っていたから、初参加だったミリ・コードナ殿とレント・コーカデス殿だろう」


 レント・コーカデスの名に、大広間に動揺が走る。


「私に冷遇された者も、ベギルの代では復権出来るかも知れん。だがリュリュやボグルの代ではどうなるか分からんぞ?」


 大広間が静まった。


「なので進退を考えるか、あるいはコードナ侯爵家やミリ・コードナ殿に対しての考えや態度を改めるか、個々に考える事だな」


 大広間の面々は、周囲を見回してお互いに顔を見合わせる


「今は忙しいから辞められると困るので、私からは退職勧告などはせんが、辞めたい者は気にせず辞めて貰って構わない。今後の事で足を引っ張る存在となるくらいならな」


 そう言うとハクマーバ伯爵は旧臣を見そうになって、誤魔化す様に顔を動かした。


「ただし私は、コードナ侯爵家との付き合いだけではなく、コウグ公爵家との付き合いも再考する積もりだ。コウグ公爵領とは昔から、小競り合いが続いていた因縁がある。それが先代がコウグ公爵閣下の配下に付くとしてから、一切交渉が出来ずに言われるままになるしかなくなっている。この現状をなんとかしたいのだ」


 ハクマーバ家の家臣の中には、その現状に不満を持つ者も多い。大広間の何人もが、ハクマーバ伯爵の言葉に肯いた。


「同様にコーカデス家ともだ。こちらはまだ何も関係修復の為の足掛かりがないが、リュリュやボグルの代の選択肢を増やす為にも、手探りでも進めて行く積もりだ」


 ハクマーバ伯爵のその言葉には、大広間の中には戸惑いの比率が高かった。

 それを感じてハクマーバ伯爵は、コーカデス家から嫁いで来たチェチェがいるとは言え、コーカデス家との関係修復はやはり後回しだと結論付けた。

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