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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ハクマーバ伯爵が証言を辿ると

 刑務副隊長が更に顔色を悪くして戻って来た。そして、調書も盗賊達の死体と共に確かに燃やした事を報告する。

 それを聞いてハクマーバ伯爵はまた目を閉じて、一呼吸してから目を開いた。


 大広間の面々を見回しながら、ハクマーバ伯爵が告げる。


「コードナ侯爵閣下から、盗賊達がミリ殿を襲った事についての抗議と、それに関しての詳しい弁明を求めた書簡が届いた」


 大広間がざわつき、非難の囁きが混ざる。


「その書簡には、盗賊達の主犯は村長だと書かれていたのだ」


 大広間のざわつきは更に大きくなり、非難の声もハッキリとする。


「村長が盗賊など、我が領に対する侮辱だ!」

「言い掛かりを付けて、資材を高く売り付けようとしているのだ!」

「悪魔の手先め!」

「盗賊にやられてしまえば良かったんだ!」

「盗賊だって冤罪だったかも知れん!」

「確かにそうだ!悪魔がやりそうな手だ!」


 大広間にいる人間の七割は戸惑っているが、声は段々大きくなって行く。冤罪の言葉が出ると刑務隊長は驚き、刑務副隊長はますます顔色を悪くした。

 人々のそれらの様子をハクマーバ伯爵は、目を細めて見ていた。


 ハクマーバ伯爵が無言でいることに気付いた者から口を閉じていき、やがて大広間は静まった。


 ハクマーバ伯爵が目を閉じて、一呼吸置いて目を開いて、声を出す。


「調書がないので、処刑した盗賊の中に村長がいたかどうかも、どこの村の村長かも分からない事になる。ミリ殿は当地を既に去っていて、直接事情を訊く事も出来ない。つまり、事情に付いての報告をミリ殿から受けて、詳しく知っているであろうコードナ侯爵閣下に頭を下げて、私は事の詳細を教えて貰わねばならん」


 大広間に、何人もの人間の、唾を飲み込む音が重なる。

 しんとする中、一人の文官が「あの」と震える声を出すと、皆の視線が集まった。


「どうした?話してみろ?」


 皆の視線に気圧(けお)されながらも、ハクマーバ伯爵に促されて、文官は「はい」と小さな声で返す。


「アル村かも知れません」

「盗賊達のアジトか?」

「はい」


 大広間がざわめき、力を抜く溜め息も混じる。


「確かに領都と被災地の間にあるが、なぜアル村だと思うのだ?」

「被災地?いえ、その、盗賊の刑罰の減刑の訴えや、刑罰を身替わりで受ける申し出があったのですが、それを言って来たのがアル村の者達でした」

「減刑?さっき盗賊は皆、処刑したと言っておったな?」


 刑務隊長が「はい」と言うのと文官が「いいえ」と言うのが重なる。


「アル村の者達が来たのは、盗賊の処刑の翌日でした。ですので減刑の請願などは、受け付けませんでした」

「そうか。では処刑はやはり、既に行われているのだな?」


 ハクマーバ伯爵の言葉に、刑務隊長も刑務副隊長も肯き、振り向いてそれを見ていた刑務部長も、ハクマーバ伯爵を振り返って肯いてみせた。


「その請願してきた者達は、盗賊の身内と言う事だな?」

「そうだったのだと思います」

「その中に、村長の助命を求める者はいたか?」

「それが、誰が誰の助命を求めていたのかは、分かりません」

「分からない?話を聞いたのではないのか?」

「あ・・・いえ・・・」

「その者達は、何も言わずに帰って行ったのか?」

「そう言う訳ではないのですが・・・」

「一体、何があった?良いから、勿体ぶらずに述べよ」

「あ、はい。盗賊の刑罰の減刑を望んだり身替わりになったりしたいと申し出られたので、無理だと答えたら、こちらの話も聞かない内に激昂して、受付カウンターを乗り越えて来て私に掴み掛かって来ましたので、警備兵が全員を取り押さえて、処罰しました」

「そうなのか?」


 ハクマーバ伯爵に振り向かれて訊かれた警備部長は、後を振り返り「そうなのか?」と警備隊長に尋ねた。

 警備隊長は「はい」と肯く。


「その後、その者達はどうした?」

「公務執行妨害と傷害の罪で、規定通りに広場に連れて行き、鞭打ち刑を執行しました」

「それで?」

「はい。刑の執行後、罪人達に盗賊達の事を尋ねられましたが、前日に処刑された話の共有を受けておりましたので、そう伝えたところ、叫んで暴れて警備兵達の剣を奪おうとしましたので、その場で斬り殺しました」

「は?・・・全員か?」

「暴れた者達は全員です」


 ハクマーバ伯爵の眉間に皺が寄る。


「その言い方だと、暴れていなかった者もいたのだな?」

「はい。二人が鞭打ちの後、動きませんでしたので、その二人はそのまま放置しました」

「動かない?」

「はい。一人は老女の分の、もう一人は子供二人の分の鞭打ちの身替わりとなって鞭を受けましたので、処罰後に立ち上がって来ませんでした。ですので、暴れもしませんでした」

「その鞭打ちを免れた老女と子供達は、どうなったのだ?」

「警備兵を引っ掻いたり噛み付いたりしていましたから、やはりその場で斬り殺しています」


 ハクマーバ伯爵は目を閉じて、また一呼吸してから目を開ける。


「身替わりになって立ち上がれなかった二人は、まだ領都に残っているのか?」

「分かりません」

「どこかで治療を受けたりしていないか?」


 ハクマーバ伯爵が見回しても、誰も答えなかったが、少しして保全副隊長が「もしかして」と呟いた。


「どうした?何か知っているのか?」

「はい。朝の見回りで遺体を二つ、広場で見付けたとの報告が、あった日がありました」

「それで?」

「多分、遺体は共同墓地に埋葬したのではないかと」

「身元は?」

「そこまでは聞いておりません」

「確認して来てくれ」

「畏まりました」


 保全副隊長はハクマーバ伯爵に礼をして、大広間から出て行く。


 ハクマーバ伯爵は椅子の背凭れに背中と頭を預け、小さく溜め息を漏らした。

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