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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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休暇の要不要

 ミリ達が予め調べていた食堂兼宿屋の場所は、際どい服装の女性が呼び込みをする店だった。


「ここなの?」


 店を凝視していた町に詳しい筈の馭者は、ミリの言葉に振り向いて、激しく首を振った。


「違います!場所はここですけれど、建物もそうですけれど、店は違います!」


 そう言って馭者はもう一度店に目を向ける。

 店の前に立つ女性に声を掛けられると、馭者は手を突き出して女性の言葉を拒否して、ミリに向き直った。


「知り合いがまだこの町にいるはずなので、会って話を聞いて来ても良いですか?泊まる事が出来る店も調べて来ます」

「ええ、そうね。お願いします」


 馭者は護衛に馬車を任せて代わりに馬を借り、ミリ達から離れた。

 ミリ達も馬を進めて町を通り抜け、野営が可能な場所を探し、しかしそこでは野営の準備は始めないで、今は一旦休憩とした。



 町に詳しい筈の馭者が聞いて来た話では、ハクマーバ領の洪水被害の調査や行方不明者の捜索や身元確認を行っている領兵が、この町を休憩地にしているとの事だった。

 領兵達は被災地を周り、交代で貰える休みの日にはこの町に戻って来て英気を養い、また被災地に戻るそうだ。

 元々この町にも風俗店はあったけれど、領兵達のニーズが大きくて捌き切れず、風俗女性が他の地域から集められたり集まって来てたりしたらしい。そしてそれを受け止める為に、食堂も宿屋も風俗店に改装された。


 この時点でミリ達一行(いっこう)の女性達の纏う雰囲気がわずかに変化したのだが、男性達もミリも気付かなかった。


 馭者は知り合いから聞いて来た話として、現在の町では、食べるのも泊まるのも風俗店しかないと、ミリに報告した。


「分かりました。それでは今日はここに野営しましょう」


 馭者の言葉に頷いて、ミリは一同を見回してそう言った。そして言葉を続けた。


「王都を出て今日まで、特に休みもなく来ましたので、追加の荷物がこの町に届くまで、皆さんも交代で休みを取って貰って構いません。私はここにいますので、皆さんは交代で町に戻って泊まって下さい。順番等はお任せします」

「え?町にですか?」

「はい。男性はああ言うお店で英気を養い、活力を補給するのですよね?この商隊の意気を上げられる良い手だと思います。女性の皆さんには楽しめないかも知れないので、申し訳ありませんけれど、女性には何か別の方法で埋め合わせをしようと思います。もちろん、女性の皆さんも交代で休みを取って下さい」


 そうにこやかに告げるミリに、「はあ」と気の抜けた返事を護衛のリーダーの男性が返した。

 続けて護衛リーダーはミリに頭を下げる。


「お心遣い、ありがとうございます。休みについては皆と相談して、決めさせていただきます」


 護衛リーダーに合わせて、他の男性達も戸惑いながら頭を下げた。


 その場で野営の準備を始めながら、先程の護衛リーダーの男性が、少し離れた場所にミリを誘う。それにはミリの護衛の女性達も付いて来るが、護衛女性達の目付きはいつもより鋭かった。


「ミリ様。先程の休暇の話は、お気持ちは嬉しいのですが、任務期間中にあの様な店に寄る必要は、我々護衛達にはありません」

「そうですか?」

「はい。馭者の方々の出方がわからなかったので、一旦はお受けしましたけれど、皆、戸惑っておりましたでしょう?」

「でも、男性には定期的にあの様なお店が必要なのですよね?」

「それは、否定は出来ませんが」


 護衛女性達の目付きが一段と鋭くなる。


「ですが今回のこのチームの護衛達は、コードナ侯爵家、コーハナル侯爵家、ソウサ家、そしてバル様に選ばれた者たちです。男であっても任務期間中に、あの様な店は必要ではありません」

「でも、必要ではなくても、男性達の意気が上がるなら、有用ではないですか?」

「我がチームの護衛男性に限っては、不要ですし無用です」

「そうなのですね」

「はい。それにもし今ミリ様と離れてあの様な店に入ったとしても、ミリ様の事がどうしても気になって、思う存分楽しめず、充分に満足は出来ないと思います」


 護衛リーダーのその言葉に、護衛女性達の目付きは更に鋭くなった。幸いミリは気付かなかったが、気付いた護衛リーダーは結構怯んだ。


「分かりました。では休みを取らない男性達にも、埋め合わせを考えましょう」

「いえ、ミリ様。これは護衛としての当然の職務ですので、埋め合わせは必要ありません」


 そう言って頭を下げた護衛リーダーに、ミリは「そうですか」と返した。

 ミリに受け取って貰えたと思った護衛リーダーが喜んで顔を上げると、護衛女性達の目付きは驚くくらい鋭くなっていた。実際にそれを見て、護衛リーダーは驚いた。


「では埋め合わせではなく、この行商が終わったら、何らかのお礼をさせて下さい。それはどうですか?」


 そう言ってミリが護衛女性達を振り向くと、皆が微笑みを浮かべている。


「ありがとうございます」

「嬉しいです」

「皆のやる気や集中力にも、良い効果が出ると思います」

「お礼、楽しみにさせていただきます」


 護衛女性達は口々に、ミリに礼を伝えた。



 その後の護衛女性達の雰囲気はいつも通りで、職務にもこれまで通り真剣に、これまで以上に気を配って当たっていたけれど、護衛女性達の護衛リーダーへの当たりだけは、少し厳しくなったらしい。

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