25 バルの交際と縁談と
バルとラーラはこれまで通り交際を続けるとの結論で、コードナ侯爵家との話し合いは終わった。
バルがラーラをソウサ家まで送って来る間、コードナ侯爵家の4人は改めて、バルとラーラの関係に付いて話をしていた。
コードナ侯爵であるバルの祖父ゴバが、少し難しい顔をする。
「ラーラはバルに対して良い影響を与えるとは思うが、二人をどう思う?」
口にしたのは歓迎すべき内容なので、表情とは合わない。
こちらは少し困った表情を作りながら、バルの祖母デドラが夫に応えた。
「そうですね・・・様子を見ながらになるでしょうけれど、このままですといつまで交際を続けさせるのかは、悩ましく思いますね」
「それもあって見極める為に、リルデが訪問させる回数を増やさせる約束をしたのだろう?」
バルの父ガダが妻に話を振る。バルの母リルデが小さくゆっくり首を左右に振りながら「いいえ」と返した。
「私はバルとラーラが結婚するのもありかと思っているの」
「え?なんで?」
「やはりリルデさんはそう考えていたのね」
「お義母様もではないですか?」
「そうですね・・・二人はお互いに惹かれ合っている様子ではありますけれど」
「うん?そうだろうか?」
「ええ、あなた。わたくしにはそう見えますよ」
「いやいや母上、リルデも。バルはコーカデス家のリリが好きじゃないか」
「コーカデス家からの交際の打診をバルは断ったじゃない」
「交際練習に集中したいって理由だっただろう?その練習だって、そもそもはリリとの交際の為だった筈だし」
「切っ掛けはそうでも、今は違うと思うわ。ねえ、お義母様?」
「そうですね・・・バルがラーラに見せる様な表情をリリさんには見せそうにはありませんけれど」
「今はまだ、じゃないのか?付き合い始めたら、バルだってリリに見せるだろう?」
「そうかしら?」
「どうでしょうね」
疑問の様な語調でリルデとデドラが言葉にしたけれど、そう言ってお茶を飲む態度には確信が感じられた。
少し視線を落として、ガダもカップに口を付ける。
「バルとリリを結婚させても良いって言う、コーカデス家との約束はどうなるんだ?」
ガダがカップから視線を上げずに、独り言の様に呟いた。
「それはただの口約束じゃない」
「そうだけれど、これまでコーカデス卿夫妻には、色々と言われたじゃないか」
「ええ。お義父様やお義母様にまで、恩着せがましくね」
「リリの両親だって、なんか言ってくるぞ?」
「良いじゃない、言わせてあげれば。でもバルにその気がなくなれば、もうあんな事を言わせてはおかないわ」
「コーカデス卿夫妻はゴバとわたくしで何とかしますから、そちらは気にしなくとも構いませんよ」
「それじゃあ後の二人はガダと私で何とでもしますね」
「ちょっと待って、母上もリルデも。なんかもう、バルとラーラを結婚させるみたいに話しているけれど、まだ決めてはいないからね?」
「もちろんです」
「でもお義母様?バルがリリさんと交際する事になれば、コーカデス家からはまた恩を着せられますわよ?あちらからの交際申し込みを一度断っていますから、今度はこちらから頭を下げる事になりますし。二人が結婚でもしたら、それこそ一生言われますわ」
「次女と三男だ。勢力にはそれほど影響がないだろう?」
「いいえお義父様。周囲への影響あるなしではありません。あの人達にとっては、偉そうな態度を取れるかどうかが重要じゃないですか?」
「リルデは学生時代からリリの母親とは仲が良くなかったものな」
「いいえ、学院に入る前から仲が悪かったわよ」
「そうだったのか?」
「リルデさんはコーカデス侯爵夫人とも、何かとありましたものね」
「ええ、お義母様。散々虐めて頂いておりますわ」
「そうなのか?」
「そうなのよ。気付いてないのね?」
「殿方は鈍かったり、気付かない振りをして自分に都合の良い様に解釈したりしますからね」
「そんな」
「コーカデス侯爵夫人から私を守ってくれたのはお義母様よ?コーカデス家から縁談が来た時は死にそうだったわ。だからガダとの結婚に飛び付いたのですし」
「え?本当に?」
「ええ」
「そんな・・・でもなんで今更、そんな事を」
「あなたがその事にも気付いていないと気付いたからよ。リリさんには悪い印象は無いけれど、コーカデス家の女性と親戚付き合いするくらいなら、バルが平民のラーラと結婚する方を私は後押しするわ」
リルデはそう言い切ると、カップに口を付けた。
ゴバがリルデに尋ねる。
「リルデ。君はバルの縁談相手がコーカデス家の人間でなければ良いのだな?」
「コーカデス家の派閥以外を望みますが、最終的にはお義父様とお義母様の決定には従います。バルがリリを選ぶなら、今の話も二人には聞かせない積もりですし。でも、文句を言うのは許して下さいね?」
「それは構いませんよ」
「ああ。今までと同じく、場を弁えてくれる限りは意見を聞こう」
「それで充分です。ですけれど、私がラーラを気に入っているのは覚えておいて下さいね?」
「気に入っているのか?」
「はい。お義父様もそうではありませんか?」
「うむ」
ゴバはまた、難しい顔をした。




