二つ目の村の盗賊
二つ目の村もほとんど同じだった。
違いは村長孫と老使用人の代わりに、村長本人とその取り巻き達が出て来た事だ。なので「荷物は全部置いて行け」のセリフは村長が言った。
ミリは馬から降りもせず、護衛達はミリを中心にして馬車も囲みながら、二つ目の村を通り過ぎた。
最初の村で食堂兼宿屋の主人に話を聞いた時から、ミリ達一行は野宿を考えに入れていた。元々が先に進むに当たって、宿が取れなくなる事は想定していたので、野営の準備は出来ている。
野営に適した地形を見付けると、護衛達も馭者達も手分けして、食事と寝床の準備を行った。
ミリも、肉の塊を一口サイズに切る事を手伝い、その後はスープが焦げないように見張りながらかき混ぜるのを担当した。
夕食を食べながらミリは、以前に行商でハクマーバ領に来た事があると言う馭者の一人に質問をする。
「ハクマーバの人達って、今日の二つの村の人達みたいな人柄なの?」
「あの村長達のあの振る舞いを見て、あれがこの土地の人柄と言うのには、抵抗がありますね。確かにああ言う人も居るには居ますけれど」
「そうよね。最初の食堂のご主人は、人柄が良さそうだったもの」
「このあたりは領都に近いので、村長が権力を笠に着て威張るのかも知れませんよ。奥の方に行けば、村長などはそもそも敬われて頼りにされていたりしますので、わざわざ威張る必要はないですからね」
「そう言うものなの?」
「ええ。まあ、この領地に限った話でもありませんけれど」
その言葉に他の馭者達も肯いている。
「なるほど。そうなのね」
ミリも肯き返した。
馭者も護衛も野宿だが、護衛女性もだが、さすがにミリはそうはさせられなかった。
ちょっと楽しそうだったけれど、警護に問題があるし子供なので体調を崩すかも知れないと、護衛達に真面目な顔で言われたら、ミリは野宿を諦めるしかない。遊びに来ているのではないのだからと、ミリは自分に言い聞かせた。
馬車から荷物を降ろしてスペースを確保して、簡易ベッドを調えて、ミリはそこで眠る事になる。ベッドのすぐ脇では、護衛女性が時間交代で不寝番をする。
夜。
護衛女性がミリを起こした。
「ミリ様。夜盗の襲撃がありそうです」
襲撃の言葉にミリはさっと目を覚ます。
見ると馬車の扉が開いていて、護衛達が数人、ミリを見ていた。
ミリが上半身を起こすのを護衛女性が手を貸す。
「捕まえられますか?」
「向こうの実力次第ですが」
「皆さんに怪我が出ない事を最優先にして、捕まえられたら捕まえて下さい」
「全員ですね?」
「はい。出来たら全員、お願いします」
ミリが肯いてそう返すと、護衛達も肯き返した。
護衛も馭者も、帽子だったりヘルメットだったり、白い被り物をしている。暗闇でお互いの位置を把握する為だ。敵へ目印を与える事にはなるけれど、同士討ちや防衛網の穴を予防する事を優先している。
ミリが寝ていた馬車にも同様に、ミリがいる事の印として、白い小さな旗が付けられていた。
ミリの乗馬服が真っ白なのも、ミリに似合うからと言うのが理由ではなかった。警護対象のミリがどこに居るのか、護衛達が把握し易くする為だ。でもミリには似合っている。
そのミリは今は馬車の中で、フード付きの黒いマントを羽織らされていた。もし逃走する状況になったらその時には、目立たない様にする為だ。
混戦になったらマントを脱いで、どこにミリが居るのか護衛が分かる様に目立たせる。そしてまた逃げるとなれば、黒マントのフードを頭から被る事になる。
ミリがマントを羽織ると、護衛女性はミリをもう一度ベッドに寝かせた。
事が済むか逃げる必要が出来るまで、ミリは寝ていて良いと言われる。
馬車の扉の外には、体格の良い護衛男性が控えていて、いざとなったらミリを抱えて走って逃げる事になっていた。
だから安心して寝ていて良いと護衛女性に言われても、これから襲われるかも知れないのに寝られる訳がないと考えたミリは、けれどもその後直ぐに寝息を立てた。
ミリが目を覚ますと朝だった。
盗賊達は一人残らず捕らえられていた。
既に取られていた調書が、護衛からミリに渡される。
拷問したりはしていないから、何も話さない盗賊もいる。だが命乞いをしながら自白した何人かの盗賊によると、全員が二つ目の村の人間で、村長の命令で荷物を盗みに来たと証言した。一人一人個別に行った尋問の結果で、話は概ね合っていたから事実の様だ。
明け方に姿を見せた人間達もいたので捕まえて、尋問したらやはり二つ目の村の人間で、盗賊達が帰って来ないから村長命令で、様子を見に来たと白状した。
貴族であるミリを襲ったのだから、この場で切り捨てても良いのだけれど、それなら昨夜、わざわざ捕らえる様には頼まない。
ミリは二つ目の村に人を送り、盗賊を運ぶ為の荷車を借りて来る様に頼んだ。
借りて来て貰った荷車に盗賊を載せ、ミリ達は来た道を戻る。
ミリは盗賊を領都に運んで、処罰はハクマーバ伯爵に任せる事にした。
自領で貴族令嬢が襲われたなど、ハクマーバ伯爵はコードナ侯爵に負い目を持つ事になる。
一旦領都に戻ってからまた来るのだと、最低二日は掛かる事になるけれど、コードナ侯爵の利益を考えるなら、とてもコストパフォーマンスが良いな、とミリは朝からご機嫌だった。




