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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ハクマーバ伯爵領で

 執務室の机で書類を(めく)っているベギル・ハクマーバに、ベギルの専属執事が手紙を差し出した。


「ベギル様に対応して頂く様にと、伯爵様からお預かりいたしました」

「どんな内容だ?」


 ベギルは書類から顔を上げずに専属執事に尋ねる。


「コードナ侯爵からの手紙で、ミリ・ソウサに便宜を図れとあります」

「ミリ?・・・ソウサ?」


 ベギルは顔を上げて、脂肪に押されている目を更に細め、傍に立つ専属執事を睨んだ。


「手紙には本当に、ミリ・ソウサと書かれているのか?」

「・・・いいえ」

「ミリ・コードナか?」

「・・・はい」

「お前!どう言う積もりだ?!私がミリ・コードナだとは思わずに対応して、コードナ侯爵の不興を買ったら、どうするんだ!」

「ベギル様も奥様と一緒になって、ラーラ・ソウサは悪魔だと仰っていたではありませんか?ミリと言うのは、その悪魔の娘です」

「それは、そうだが、コードナ侯爵からの手紙なのだ。そう言う扱いには出来ないだろう?」


 ベギルの言葉に専属執事は応えずに、無表情で返した。

 その顔を見て、ベギルは小さく息を吐く。


「それで?便宜を図るとは何の事だ?」

「ミリ・ソウサが商談に来るそうです」

「商談に?来る?ハクマーバ領にか?」

「はい」


 ベギルは手を出して、手紙を受け取った。

 太い指で手紙を開き、内容を確認する。手紙にはミリの用件が、復興資材の商談だとある。


「お前に任せる」


 そう言ってベギルは、手紙を専属執事に渡し返した。


「追い返すのですね?」

「話を聞いておけ」

「追い返さないのですか?」

「さっきから何を言っているんだ?コードナ侯爵の紹介なら、追い返せないだろうが」

「ベギル様は会わないのですね?」

「ああ。私は洪水被害対策に忙しい。リュリュの為の用意も必要だし、手が回らん。ああ、ミリ・コードナには、洪水対応で会えないとだけ言って置けよ?」

「それは分かっておりますが、サニン王子の誕生会に参加なさるのですか?」

「仕方ないだろう?父上が約束してしまったのだから」

「しかし、洪水対応が進んでいない現在、皆様が晴れの場に参加なさるのはどうかと」

「そんな事は言われなくても分かっておるのだ!」

「ですが王都でのサニン王子との交流会にも、リュリュ様は参加なさいましたし」

「あれは費用が王宮持ちだったし、そもそもあの時点では被害はほとんどないとの報告だったじゃないか!これ程の被害だと分かっていれば、行かせた筈がないだろう!」

「しかし被害が明らかになって来た今からでも、王子の誕生会に出席なさるのですね?」

「それだってだ!それだって公爵閣下直々に誘われたのだ!いまさら断れんだろうが!」


 ベギルが拳で机を「ダン」と叩く。いつもの事なので、専属執事は特に動じなかった。

 その専属執事の様子を睨んでいたベギルは、ガックリと項垂れ、脂肪で潰れた太い喉から細い声で呟く。


「声を掛けられたのが私だったとしても、断れたかどうか分からん」


 その芝居掛かったベギルの様子に、専属執事は無表情でベギルの旋毛(つむじ)を見ていた。


「それに王子の誕生会用に作ったチェチェとリュリュのドレスだって、洪水前に手配していたのだ。リュリュがあんなに楽しみにしていたのだから、行かせてやりたいと思うだろう?子供に罪はないのだから」


 この後のベギルの口からは言い訳が続くと思った専属執事は、「分かりました」と一礼し、執務室を出て行った。



 ベギルの専属執事は、別の執事にミリの対応を命じる。


「ミリ・ソウサ?ソウサ商会が今頃、何の用なのです?」

「復興資材の押し売りだ」

「人の弱味に(たか)るハエみたいなヤツらですね」

「今回来るのはウジ虫だがな」

「そのウジ虫から買い叩けば良いんですね?」

「まだほんの子供だった筈だ。ミリ・ソウサが前に出て来るなら、散々焦らせばタダで置いて行くかも知れん」

「いくらなんでも、タダはないんじゃないですか?」

「持ち帰るのにも費用は掛かるだろう?」

「なるほど」

「たとえハエが一緒でも、ミリ・ソウサにタダだと言わせれば、タダになるだろう」

「分かりました。いつ来るのです?」

「近々としか分からんから、お前が対応出来ないなら、他のヤツにも共有しておけ」

「ええ。皆に伝えて置きます。でもウジ虫には私が、身の程を教えて置きますよ」

「相手はコードナ侯爵家の一員として来る。無礼は無い様に接しろよ?」

「ええ。たとえハエでもウジ虫でも貴族モドキでも、ちゃんと正しくあしらいますよ。由緒正しいハクマーバ伯爵家の、貴族家としてのあしらいが理解出来ない様な相手だとしてもですね」


 執事はベギルの専属執事に、ニヤリと笑って見せる。専属執事はそれを無表情で見詰めた。



 ミリは先行した馬車隊に追い付いて、共にハクマーバ伯爵領に入った。


 そのまま被災地に向かって状況を確認したかったけれど、ハクマーバ伯爵側がミリを待っている場合もある。

 普通ならそう言う場合は領境にその旨の連絡が来ていて、領内に入る時にミリに伝えられる筈だ。今回はそれがないけれど、でもまだその連絡が領境に届いていないだけで、すれ違いになるかも知れない。

 その可能性も考えてミリは一旦、ハクマーバ伯爵領の領都を目指す。


 ハクマーバ伯爵領の領都に着く前に、ミリは領主館に先触れを出したけれど、しばらく待つ様にとの回答が返って来た。具体的にいつまで待てば良いのかは明言されず、会合の用意が出来たら連絡をするとの事だ。

 ミリの想定内の反応だった為、連絡員を領都に残して、ミリは被災地に向かう。

 その前にミリは、今回の後ろ盾となってくれているコードナ侯爵と、バルとラーラとパノに向けて、無事に到着した事を知らせる為の手紙を送った。

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