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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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行商出発準備期間

 話し合いの後ミリは直ぐに、ハクマーバ伯爵領に行商に行く為の準備を終えた。


 先ずは役所に商人登録。

 屋号はミリ商会。ミリ商店と迷ったけれど、今のところ店舗を持つ予定はないので、商会を選んだ。

 原資はバルとラーラがミリの為に蓄えていた資産だ。二人からそれを使う様にと渡された。ミリはちゃんと利益を出して、この行商が終わったら原資は二人に返えす予定だ。


 そしてミリ商会として、ソウサ商会から食料や薬品等の買い付け。

 ミリの伯父ヤールが行おうとした身内割引は、曾祖母フェリに阻止されたけれど、それに気付いた祖母ユーレの話を受けて、祖父ダンがコッソリと対応した。

 馬車もソウサ商会から借り受ける事にする。もちろん借用代金は払う。身内価格で。

 馬車の馭者もソウサ商会から、普段から行商を行っている社員を派遣して貰う。小売り販売時には売り子もして貰う予定だ。


 同行する護衛には、普段からミリに付いている護衛女性から二人、バル推薦の護衛男性から二人で、計四人を選んだ。

 四人ともソウサ商会の社員で、行商に着いて行く為の契約変更や、代わりのコードナ邸の護衛の手配等は、バルが行った。

 他にも護衛は付いて行くけれど、そちらはコードナ侯爵家とソウサ商会が派遣する事になっている。費用はコーハナル侯爵家も出していた。出発するまでには、連携に付いての話し合いや合同訓練も何度も行われた。訓練にはミリが参加する事もあった。


 ハクマーバ伯爵にはミリが訪ねる事に付いて、バルの父ガダ・コードナ侯爵が書簡を送った。

 ガダはミリに紹介状も持たせたけれど、邪魔になる物ではないからと、バルの祖母デドラ・コードナとパノの祖母ピナ・コーハナルと、更にパノの弟嫁チリン・コーハナル元王女も、ミリの身分を保証する書簡を持たせる。


 後はバルとラーラが心の準備が出来れば、ミリは出発出来る。

 でも、ミリに資産を渡したり、バルは護衛の手配を手伝ったり迄したのに、まだまだ準備が出来ていなかった。



 その待ち時間にミリはピナの紹介で、医師の仕事を見学した。


 しかし、ミリと会った医師に、直ぐに弟子入りを断られる。

 最初にピナから弟子入りに付いて尋ねられた時には、成人間近の貴族子息が弟子入り希望なのかと医師は思っていた。普通はそうだからだ。

 そしてミリが見学に来る話は、それとは別口と考えて引き受けていた。


 医師の営む医院には、当然病人も来る。

 まだ子供で体力もなく免疫力も低いミリに、もし病気が感染したら重症になる可能性が高い。

 怪我も重傷なら多量に血が流れるし、手術も出血が多い事もある。それらにミリが堪えられるかどうかなどを一々配慮していたら、患者の方が手遅れになるかも知れない。傍にいるだけなら邪魔にもなるだろう。


 それに病人や怪我人の中には、神殿信徒もいる。

 信徒がミリの関与を拒み、それで信徒に何かあった場合、あるいはミリに何かあった場合、医院は責任を取り切れない。


 そう言われたら、ミリも弟子入りは諦めるしかなかった。

 ただし、弟子達が使う教科書や辞典等はいつ読みに来ても良い、との約束をミリは医師から取り付けた。



 一方、助産師の方は、弟子入りを歓迎された。

 貴族女性からの成り手が中々いないので、興味があるなら働く事を前向きに考えて欲しいと、ミリは助産師から頼まれる。

 ただ、実際に見習いになるには、ミリはまだ幼すぎると言われた。それなので、今すぐだと立場は単なるお手伝いとなって、助産師としての経歴にはならないと告げられる。

 それでも良ければ手伝って欲しいと言われ、ミリは手伝う事に決め、何度か泊まり込みも体験した。


 ミリの仕事は先ずは、専門用語を覚える事。そしてこれは直ぐに終わった。

 次に助産師に付いて回って、代わりに診察記録を書いたり、処置の指示書を書いたり、処方箋を書いたりする。いきなりミリに全てを任せる訳ではなく、正式な助手も付いている。そしてミリは直ぐに、助手の働きと遜色ない仕事が出来る様になった。

 後は妊婦の話し相手になる事。妊婦の中にはやはり神殿信徒もいる事がある。それなので妊婦側が申し出れば、ミリがその妊婦には近付かない様に助産院側が配慮した。


 ミリの仕事は飽くまでも助産師見習いとしてのお手伝いだし、身分は侯爵令嬢なので、洗濯や掃除などの下働きをする事はない。

 それなので手が空いたら、過去の診察記録を読んで、知見を増やすのも仕事になる。


 この助産院は代々の王族の妊娠と出産に関わっているが、貴族はもちろん、平民も相手にしていた。

 城下には平民相手の助産師もいるけれど、そこで対応が難しいと判断された、経過観察に特別な注意が必要な妊婦や、難産になると思われる妊婦が紹介されて来る。また、出産時に母体や子供に危機が発生して、城下の助産師からの急な連絡で喚ばれて行く事もあった。

 今は妊娠や出産をする年代の貴族婦人達は、多くが各自の領地に帰ってしまっている。それなので平民の相手がほとんどで、患者数も少ない。

 ただし、所属する助産師の多くが、各領地に喚ばれて行っていたりするので、助産院の人手が余っている訳でもなかった。


 ミリは助産院での手伝いを今後も続けようと思った。

 まだミリは出産には立ち会ってはいないし、バルはミリに就職をさせないと言っていてミリもその積もりだけれど、助産師の仕事は自分に合う様にミリには思えた。



 助産院に何度か泊まって、ミリがコードナ邸を留守にした事が功を奏したのか、バルとラーラの心の準備が整った。


 商品を積んだ馬車は、先行して出発している。個別に護衛も付けているが、ソウサ商会の行商の馬車に同道する。そしてハクマーバ伯爵領の手前のソウサ商会の支店としての問屋倉庫に先に到着して、ミリが来るのを待つ予定だ。

 ミリは護衛達と騎馬で行く。この方がミリの移動時間を短く出来るからと、バルを始めとする関係者男性陣が、このやり方を熱く推した。ミリに取っても日数が短くなれば、護衛や馭者の人件費や馬車の賃貸料が節約できるので、文句はなかった。


 ただし自分一人で騎馬して行く積もりが、護衛女性との二人乗りになったのは少し不満だ。

 でも、いざという時にミリの乗馬術では危険だと判断されたのには反論したかったけれど、馬の費用が一頭分節約できると言われたら、ミリは肯くしかなかった。

 何もないところではミリに手綱を任せるとの言葉も、もちろんミリを説得する効果があった。



 ミリは真っ白な乗馬服に身を包み、護衛達も馬装にもコードナ侯爵家の紋章を付け、大勢の関係者に見送られながら、一行(いっこう)は王都を出発した。

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