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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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その頃のレントを要約

 レントはハイハイを頑張った。

 羞恥と戦いながら、家人に気付かれない様に警戒しながら、毎日少しずつだったけれど、ハイハイ鍛錬の時間を増やしていった。


 しかしその結果レントに齎されたのは、恥ずかしさを感じなくなる事でも、恥ずかしさに耐える心を手に入れたりする事でもなかった。恥ずかしい有様を人に見られたらどうしようと言う事を考える時に、何やら脳内にドーパミンが分泌される体質になり始めたらしい。

 ハイハイをしながら、運動と興奮で顔を赤らめ、息を荒げる様子は、見られたら確かに恥ずかしい。心拍数が上がっているのはもしかしたら、アドレナリンが分泌された所為もあるのかも知れない。

 唯一の救いは、レントはその姿をまだ誰にも見られた事はなく、恥ずかしい姿を実際に見せる事で、更に興奮したりする経験がレントにはなかった事だ。

 ただしレントの頭の中にいる、レントの恥ずかしい姿の目撃者はミリなので、このままだとミリに再会しただけで変な興奮をする大人になってしまいそうではある。



 その様にレントが自分の精神を犠牲にした甲斐もあって、ハイハイ鍛錬の成果はレントの体に表れていた。


 体を壊していた時もレントの上半身の姿勢は崩れていなかったけれど、今は立ち姿も良くなっていた。

 ただし筋力はまだそれ程ないので、軽い服装でなければまだ立てないだろう。乗馬服も剣の鍛錬の為の防具も今はまだ、身に着けたら立ち上がれないと思われた。


 歩くのもまだ覚束ないけれど、壁に手を付きながらなら室内を移動する事は出来る。

 ハイハイ鍛錬のお陰か腿も確りと上がり、足を引き擦ってはいないので躓く様な事もない。



 そして体を動かす事に疲れたら寝学だ。

 ベッドに横たわり、領地の書類や過去の資料に目を通す。

 仰向けになって書類を腕で支えて読む事も、俯せになって体を支えて書類を読む事も出来ないので、レントは横向きで読んで、時々寝返りを打って体の向きを変えた。


 書類に疑問点があれば、レントは祖父リート・コーカデスに時間を貰って教えを乞う。

 リートは人に教えるのが上手くはなかったけれど、レントが理解して納得するまで、根気強く付き合った。


 コーカデス領の領政には、レントが不思議に感じる部分が色々とある。そしてそれは、侯爵領から伯爵領に下がった事が理由とは、レントには思えなかった。

 リートに訊いても、昔からそうなのだ、との答しか得られない事が多いそれらは、昔の資料から成立の過程を紐解いていくと、その時その時では正しいとされていた事柄が、その後も無評価にただ引き継がれて来ているだけの様に、レントには思えた。

 レントはそれに付いて改善案を考えてリートに話してみたが、今上手くいっているのだからリスクを冒してまで変える必要はない、と返される。コーカデス伯爵であるレントの父スルトに連絡して伝えてみても、なんの返信もない。

 改善案の提案を諦めたレントは、それでも考える事を()める事は出来なくて、思い付く内容を自分用の覚え書きとして纏める事にした。


 昔の社交界の情勢が絡む様な話には、リートに加えてレントの祖母セリ・コーカデスにも話を聞いた。

 セリも教えるのが上手くはなかったけれど、話があちらこちらに飛んだり流れたりするのも、結果としてはレントの知識を増やす役に立った。



 しばらくして。


 ハイハイの成果で、極短い距離なら支えなしで歩ける様になったレントは、邸から庭までの小径に複数の腰掛けられる場所を使用人に用意させた。


 庭の入り口に立つと、話を聞いてレントが想像していた以上に草が生い茂っている。

 大人も足を取られると言う事だけれど、ここを散歩するのは危ないと()められるのももっともだ、とレントは思った。


 レントは庭の入り口にしゃがみ込み、足下の草を抜いて行く。

 直ぐに敷石が見付かり、レントはその敷石のところまで、草を抜いた。

 抜いた草をそのままにするとまた根付くと聞いたので、レントは敷石の上に抜いた草を並べる。

 初日の作業はここまで。


 翌日からレントは毎日、敷石一つ分だけ草取りを進めて行った。

 それに伴って、レントが支えなしで歩ける距離も、次第に延びて行った。



 本邸から離れまでレントが自分で歩ける様になると、レントへのダンス授業が再開された。

 しかしレントにはまだ、以前ほどの体力もない。

 それなのでレントの叔母リリ・コーカデスは、レントに柔軟運動をさせる事にする。

 レントに動的ストレッチをさせて、レントが疲れたら休憩して、仕上げの静的ストレッチをレントにさせた。


 これだけでも最初は、レントはクタクタになった。初日は直ぐには自力では本邸に戻れない程だった。

 しかしこれも少しずつ、動的ストレッチの時間を延ばして行ける事が出来ている。



 レントが使用人に命じた栞の作成は、難航していた。

 使用人が作成して出来上がった物は、虫除けやカビ除けの機能は問題ないのかも知れないけれど、レントに納得出来る仕上がりではなかった。ただしレントも、どこが悪いとは明示出来ない。ただなんとなく、気に入らないのだ。


 一度作り直させてもなお、気に入る事のなかったレントは、やはり自分で作る事にした。大分(だいぶ)体も動かせる様になっているし、今ならレントも栞作りを問題なく出来そうだ。


 しかし、ミリへの手紙が問題になる。レントはまだミリへ手紙を送っていなかった。

 栞が出来たら直ぐに送ろうとしていた為、文面は書き終わっているけれど、まだ手紙はレントの手許にある。

 手紙を栞は同封しない内容で書き直せば、レントが作る栞の出来上がりを待たずに送る事が出来る。しかし今書き上げてある手紙でも文章量が少ないのに、栞を同封しないなら、更に手紙に書く事が少なくなりそうだ。

 それにミリからの手紙を受け取ってから直ぐに返信したのならばともかく、このタイミングでそんな手紙だけを送る事はレントには躊躇(ためら)われた。


 結局レントは、自分で作った栞が完成してから、ミリに手紙を送る事にする。

 するのだけれどその為に、レントは栞が出来上がるまで毎日、ジリジリとした気分を味わう事になる。

 これもまたレントに、変な心のクセを付けそうではあった。そしてこちらも、ミリに向けてのものだ。

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