友人の在り方
「遊ぶ時間ですか?」
パノは弟スディオ・コーハナルの問いに小首を傾げた。
「確かに領地視察を始めたら、港町に行く時間は減るでしょうけれど、そこは調整可能じゃないのかしら?視察旅行中も遊ぶ時間は、ミリの好きに取れるだろうし」
「いや、姉上。ミリはどうやって遊ぶのですか?」
パノの返しにスディオは眉を顰める。
「遊ぶと言うのは、子供同士の遊びですよ?」
「ミリの好きに遊べば良いと思うのだけれど、スディオは何が言いたいの?」
「それですとミリの周りには、あまり子供っていないのではありませんか?」
「そうね。でもそれがなんなのかしら?」
「コードナ侯爵領に着けばミリの従弟達がいますけれど、道中とかは子供はミリ一人ですよね?」
「ええ。そうでしょうね」
「それにミリが医師への師事を始めたりしたら、ミリは今より遊ぶ時間がなくなるのではありませんか?」
「先程も言ったけれど、遊ぶ時間もミリの好きにすれば良いと思うのだけれど?」
「だから、好きにする隙間が無くなるのではありませんか?それこそ、早朝とか夜間とかだけしか」
「スディオ兄様。時間があっても遊ぶ相手がいませんから、大丈夫です」
ミリは空き地の事はバレないとは思っても、ドキドキしてしまうので、遊びの話を終わらせようとした。
しかしそれは失敗する。
「え?ミリ?遊ぶ相手がいないって、どう言う事?」
「それは、同い年頃の子は周りにはいませんので」
「それは貴族の子息令嬢だよね?皆、領地で暮らしているから。でも平民の子達は?」
「そちらは接点がありませんから」
「接点?バルさん?ミリが平民と接するのを禁止しているのですか?」
スディオに質問を振られたバルは、少し慌てた。
「いや、そんな事は言った事がないけれど・・・ミリ?私の命令ではないよね?」
「はい、お父様。スディオ兄様。平民の子供達とは、単に接する機会がないだけです」
「ミリ?なぜ接する機会がないんだい?」
「え?なぜってスディオ兄様。私は貴族の一員として育てられていますし」
「でも、ソウサ家にも定期的に通っているのだよね?」
ミリは、脱走がバレません様に、と緊張する。
「ソウサ商会の本社に行って勉強はしていましたけれど、大人が働いているだけなので、休憩時間にも邪魔にならない様に仕事を見学していただけです」
「そうすると、ジゴ君達と会った時にしか、ミリは遊んでいないのかい?」
「いいえ。それなのですけれど、コードナ家の従弟に会っても、遊ぶと言う事はありません」
「え?それはなぜ?」
「なぜと言いますか、切っ掛けがないからでしょうか?それに関連貴族家のご令嬢達とも、挨拶を交わすだけですので」
「そうなのかい?遊んでいないの?」
「はい」
「そんな、ミリに友人がいないなんて」
「スディオ兄様、私にも友人ならいますよ?」
「え?そうなのかい?どこの誰・・・まさか、コーカデスの?」
「いえいえいえいえ違います違います!」
場の空気が瞬時に張り詰めたので、ミリは慌てた。スディオの問いに早口で答える。
「船員達です」
「船員?」
「はい」
「港に来た時にしか会えないのではない?」
「そうですね」
「船員達と一緒に遊ぶの?」
「遊ぶ事はありませんけれど」
船員達と遊ぶとしたら、賭け事とかになるかも知れない。
「そうだよね。相手は大人だし、ミリが一緒に遊ぶイメージが出来ないな」
「でも、お喋りしたりはします」
「そうか。う~ん、そうか・・・」
「スディオ?スディオは何が言いたいのです?」
パノの問いにスディオは眉を顰めるけれど、他の皆はパノと同じ様な表情でスディオを見ている。
「ミリに同じ年頃の友人がいない事に付いて、姉上は心配ではないのですか?皆様も?」
「友人が同じ年頃である必要はないでしょう?」
「大人になれば、そうですね。大人はそうだと思います。でも子供の内は一緒になって遊べる、年の近い友人が必要ですよ。出来たらミリの面倒を見てくれる年上と、ミリが面倒を見る年下の友人も」
「どうして?」
「どうしてもです。姉上には子供の頃に同じくらいの友人がいたから、その有難味が分からないのかも知れませんけれど、子供が人間関係を学ぶのには必要なのですよ」
「それは大人相手ではダメなの?」
「ダメでしょう?」
「それはなぜ?」
「なぜって、ミリが大人になって人間関係を築く時に、同じ様な立場や年齢のコミュニティに加わるのに、困難を感じる様になるからですよ」
「大人になった時に?」
「ええ。大人になった時に」
「いま既にミリは大人の友人を持っている様だから、別に大丈夫なのではない?」
「別に大丈夫って」
スディオはそこまで言って、パノの言葉に他の皆が賛同している表情に、言葉が続かなかった。何よりミリも、パノの意見に賛成している様に見える。
そのミリは将来の心配より、いますぐに友人話から話題を変える事だけを考えていた。
スディオは幼い頃の友人と再会した時に、友人達は領地間で行き来をして共通の思い出を築いていて、王都に残った自分はその輪に入れなくなっていた。
その思いがあって、ミリには友人との時間を大事にして欲しいと、スディオは考えていた。
しかしミリにはそもそも、思い出を共有すべき歳近い、周囲の人に紹介出来る友人はいなかった。
空き地で遊んでいた事は皆には秘密だし、空き地の友人達にもミリは自分の正体を隠しているからだ。




