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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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友人の在り方

「遊ぶ時間ですか?」


 パノは弟スディオ・コーハナルの問いに小首を傾げた。


「確かに領地視察を始めたら、港町に行く時間は減るでしょうけれど、そこは調整可能じゃないのかしら?視察旅行中も遊ぶ時間は、ミリの好きに取れるだろうし」

「いや、姉上。ミリはどうやって遊ぶのですか?」


 パノの返しにスディオは眉を(ひそ)める。


「遊ぶと言うのは、子供同士の遊びですよ?」

「ミリの好きに遊べば良いと思うのだけれど、スディオは何が言いたいの?」

「それですとミリの周りには、あまり子供っていないのではありませんか?」

「そうね。でもそれがなんなのかしら?」

「コードナ侯爵領に着けばミリの従弟達がいますけれど、道中とかは子供はミリ一人ですよね?」

「ええ。そうでしょうね」

「それにミリが医師への師事を始めたりしたら、ミリは今より遊ぶ時間がなくなるのではありませんか?」

「先程も言ったけれど、遊ぶ時間もミリの好きにすれば良いと思うのだけれど?」

「だから、好きにする隙間が無くなるのではありませんか?それこそ、早朝とか夜間とかだけしか」

「スディオ兄様。時間があっても遊ぶ相手がいませんから、大丈夫です」


 ミリは空き地の事はバレないとは思っても、ドキドキしてしまうので、遊びの話を終わらせようとした。

 しかしそれは失敗する。


「え?ミリ?遊ぶ相手がいないって、どう言う事?」

「それは、同い年頃の子は周りにはいませんので」

「それは貴族の子息令嬢だよね?皆、領地で暮らしているから。でも平民の子達は?」

「そちらは接点がありませんから」

「接点?バルさん?ミリが平民と接するのを禁止しているのですか?」


 スディオに質問を振られたバルは、少し慌てた。


「いや、そんな事は言った事がないけれど・・・ミリ?私の命令ではないよね?」

「はい、お父様。スディオ兄様。平民の子供達とは、単に接する機会がないだけです」

「ミリ?なぜ接する機会がないんだい?」

「え?なぜってスディオ兄様。私は貴族の一員として育てられていますし」

「でも、ソウサ家にも定期的に通っているのだよね?」


 ミリは、脱走がバレません様に、と緊張する。


「ソウサ商会の本社に行って勉強はしていましたけれど、大人が働いているだけなので、休憩時間にも邪魔にならない様に仕事を見学していただけです」

「そうすると、ジゴ君達と会った時にしか、ミリは遊んでいないのかい?」

「いいえ。それなのですけれど、コードナ家の従弟に会っても、遊ぶと言う事はありません」

「え?それはなぜ?」

「なぜと言いますか、切っ掛けがないからでしょうか?それに関連貴族家のご令嬢達とも、挨拶を交わすだけですので」

「そうなのかい?遊んでいないの?」

「はい」

「そんな、ミリに友人がいないなんて」

「スディオ兄様、私にも友人ならいますよ?」

「え?そうなのかい?どこの誰・・・まさか、コーカデスの?」

「いえいえいえいえ違います違います!」


 場の空気が瞬時に張り詰めたので、ミリは慌てた。スディオの問いに早口で答える。


「船員達です」

「船員?」

「はい」

「港に来た時にしか会えないのではない?」

「そうですね」

「船員達と一緒に遊ぶの?」

「遊ぶ事はありませんけれど」


 船員達と遊ぶとしたら、賭け事とかになるかも知れない。


「そうだよね。相手は大人だし、ミリが一緒に遊ぶイメージが出来ないな」

「でも、お喋りしたりはします」

「そうか。う~ん、そうか・・・」

「スディオ?スディオは何が言いたいのです?」


 パノの問いにスディオは眉を(ひそ)めるけれど、他の皆はパノと同じ様な表情でスディオを見ている。


「ミリに同じ年頃の友人がいない事に付いて、姉上は心配ではないのですか?皆様も?」

「友人が同じ年頃である必要はないでしょう?」

「大人になれば、そうですね。大人はそうだと思います。でも子供の内は一緒になって遊べる、年の近い友人が必要ですよ。出来たらミリの面倒を見てくれる年上と、ミリが面倒を見る年下の友人も」

「どうして?」

「どうしてもです。姉上には子供の頃に同じくらいの友人がいたから、その有難味が分からないのかも知れませんけれど、子供が人間関係を学ぶのには必要なのですよ」

「それは大人相手ではダメなの?」

「ダメでしょう?」

「それはなぜ?」

「なぜって、ミリが大人になって人間関係を築く時に、同じ様な立場や年齢のコミュニティに加わるのに、困難を感じる様になるからですよ」

「大人になった時に?」

「ええ。大人になった時に」

「いま既にミリは大人の友人を持っている様だから、別に大丈夫なのではない?」

「別に大丈夫って」


 スディオはそこまで言って、パノの言葉に他の皆が賛同している表情に、言葉が続かなかった。何よりミリも、パノの意見に賛成している様に見える。

 そのミリは将来の心配より、いますぐに友人話から話題を変える事だけを考えていた。


 スディオは幼い頃の友人と再会した時に、友人達は領地間で行き来をして共通の思い出を築いていて、王都に残った自分はその輪に入れなくなっていた。

 その思いがあって、ミリには友人との時間を大事にして欲しいと、スディオは考えていた。


 しかしミリにはそもそも、思い出を共有すべき歳近い、周囲の人に紹介出来る友人はいなかった。

 空き地で遊んでいた事は皆には秘密だし、空き地の友人達にもミリは自分の正体を隠しているからだ。

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