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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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案と意図

 パノの弟スディオ・コーハナルが「皆さん」と発言する。


「このままではいつまでも話が平行線で、結論を出せないのではありませんか?」

「そうよね。ミリちゃんは納得させられそうにないし、バルさんも納得しないだろうし」


 スディオの妻チリン・コーハナルが小首を傾げた。

 スディオはチリンの言葉に肯くと、ミリの祖父ダン・ソウサに尋ねる。


「ダン殿は、この話し合いのゴールをどこに想定しているのだろうか?」

「そうね。ミリちゃんを隠して終わりには、出来なそうよね?」


 スディオと続けたチリンの言葉を受け、ダンは苦笑を見せた。


「皆様の意見を受けて、少なくともミリは納得するだろうと考えていました。ミリが納得するならバルさんの事も、ミリも一緒になら説得出来るかと見込んだのです」

「甘いね」


 ミリの曾祖母フェリ・ソウサが、ダンの想定を否定する。その言葉にダンは、苦笑したまま肯いた。


「そうだね。ミリがここまで頑固だとは思わなかった。計算違いだったよ」

「当たり前だよ。誰の娘だと思ってんだい」

「え?私?」


 フェリの言葉にラーラが返す。


「ミリが頑固なのは私の所為じゃないわよ?」

「なに言ってんだい。ラーラだって頑固だろうが」

「それを言ったらお祖母ちゃんだって父さんだって、ソウサのみんなは頑固じゃないの」

「いいや。バルとラーラが頑固者だから、娘のミリも頑固なのさ」

「それは、でも・・・」


 フェリがバルをミリの親として言及したので、ラーラは反論する気が(しぼ)んだ。ここはフェリの言い勝ちだ。


「私から提案があるのですが」


 スディオは参加者を見回して、そう伝えた。

 皆の視線を集めて、スディオは言葉を続けた。


「取り敢えず、数日だけでも、ミリをどこかに泊まらせるのはどうでしょう?」

「どこかって?当てはあるの?」


 そう訊くチリンにスディオが肯く。


「我が家とかコードナ侯爵邸やソウサ邸の様な、ミリが普段行き来しているところではない方が良いとは思う。経験を積む事を考えるなら、その方が良いだろう?」

「そうね。お兄様ならミリちゃんを預かってくれると思うわよ?ミリちゃんを気に入っていたし。ねえ、ミリちゃん?」


 ミリは直ぐには何も反応を返せなかった。

 チリンの言うお兄様はソロン王太子だ。王家の邸に泊まりに行くなんて、そんな。


「確かにソロン王太子殿下のところなら、濃い経験が出来るに違いないね。けれどそれは、コードナ侯爵家や我が家で積む経験の、延長線上になるよね?目新しい経験は、それ程ないのではないかな?」

「う~ん、それもそうね」

「それなので私は、泊まり込みでの行商や、コードナ侯爵領の視察などが良いのではないかと思うのです」


 スディオの皆に向けたその言葉に、チリンは「そうね」と返した。


「ミリちゃんは私達と一緒に、コーハナル侯爵領に行ってみたいと言ってくれていたし」

「ああ、そうだったね。しかしコーハナル領にいるのは今は父上だけだけれど、コードナ侯爵領ならジゴ君達もいるだろう?一緒に遊んだりも出来るんじゃないか?」


 遊びと聞いてミリは、ジゴや他の従弟達が木登りや鬼ごっこをしたりするとは思えず、一緒に何をするのか思い付かない。

 ケーキ作りかな、ともミリは思ったけれど、ミリはそれ程興味を持っていないし、スイーツにうるさいコードナ男のジゴ達が、ケーキ作りを遊びで済ますとも思えなかった。


「スディオ様、チリン様。それですと、効果が薄いかも知れません。ミリが戻って来たら、元に戻ってしまう可能性があります」


 ダンの言葉にチリンとスディオが、同じ様に小首を傾げる。


「その可能性はありますけれど、何もしないのよりは良いのではないでしょうか?」

「それに、ミリに経験させる事が目的なのでは?それなら意味はあると思うが?」

「それは、そうなのですけれど・・・」


 ダンの返しは歯切れが悪かった。

 ミリの祖母ユーレも伯父のワールとヤールも、困った様な表情を浮かべている。

 フェリが小さく息を吐き、「仕方ないね」と呟いて皆に告げた。


「平民の間で、聞き苦しい噂が上がっております。我がソウサ家では、それが広まる事を危惧しているのです」

「フェリ殿。その噂とは?」


 バルの父ガダが尋ねた。


「結婚前のラーラに流された様な類の噂が、ミリに付いて流されています」

「え?ミリに?」

「ミリちゃんにですか?」


 スディオとチリンは驚きの声を上げるけれど、他の面々は渋い表情を浮かべる。


「正確には、バルさんとミリにですね」


 フェリが答を口にする前に、ダンがそう答える。


「やはりあの噂の事か」


 ガダが表情の通りの苦々しげな声でそう言い、他の渋い顔の面々も小さく息を吐いた。


「え?ミリも知っているの?」


 パノの母ナンテが、分かっていそうなミリの顔を見て驚く。


「はい、ナンテ養伯母(おば)様」


 ミリはナンテに向けて肯いて見せた。そのナンテにスディオが尋ねる。


「母上?どの様な噂なのです?」

「お義母(かあ)様?教えて下さい」


 チリンもナンテに応える事を求めた。

 言い淀むナンテの様子を見て、ミリはやはり自分が言うべきだと判断する。


「スディオ兄様、チリン姉様。上がっているのは、お父様がわたくしをお母様の代わりにしていると言う噂です」

「え?ミリちゃん?」

「あ~、え~と、ミリ?それは大人達が言い淀んでいるけれど、そう言う意味なのかい?」

「はい、スディオ兄様」

「え?ミリちゃんは、その意味を・・・理解していると言う事よね?」

「はい、チリン姉様」


 スディオもチリンも他の面々と同じ様な、渋い表情を見せる。


「それなので、バルさんとミリの関係に付いて、なんとかしたいと言うのもあって、ソウサ家ではミリをバルさんから引き離すと言う話が出たのです」


 ダンの言葉に、何人もが溜め息を吐いた。

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