意思の所在
言いたがりぃとやりたがりぃ。
確かにお祖父ちゃんはやりたがりぃと言えばやりたがりぃだ、とミリは思った。祖父ダンが曾祖母フェリの血を継いでいるからなのかも知れない。そう考えると伯父ヤールが一言多いのも、言いたがりぃやりたがりぃの血の所為なのかも知れないと思えて、ミリは自分も気を付けようと思う。もしかしたら母ラーラの頑固な感情論も、言いたがりぃやりたがりぃの系譜に連なるのかも知れない。
しかしダンのやりたがりぃは、なんなとなくパノに似ている気がミリにはする。取り掛かりの早さなどは、そっくりだ。
ただ、パノはやり過ぎる事はない、とミリは思っている。今日のこの話し合いの場も、パノが仕切るなら必要最低限の人しか喚ばないだろう、とミリには思えた。もしかしたら人を集める事自体せず、パノなら関係者内に話を伝え渡す事で、済ませられてしまうかも知れない。
だから似ていてもパノはやりたがりぃって感じがしないのか、とミリは納得した。
パノに任せてもダンに任せても、問題解決は出来るけれど手段は異なる。そんなのはパノとダンに限らず、ありふれた話だ。そして逆に、同じ手段を取っても、上手くいく人といかない人がいる。
祖母ユーレが、才能の有る無しに関わらず真似ばかりしている人は商売を失敗する、と言っていた事をミリは思い出す。
成功者と同じ事をやっても、真似だけをする人は失敗する。それはそうだとミリも思った。
それなら、成功者と同じ事をやって成功する人は、何が違う?そんな人はいない?
いや、そんな事はない筈。成功者と同じ事をして失敗する人の方が圧倒的に多いけれど、真似て成功している人も確かに資料上には存在している。
そこでふと、ミリは自分の事を顧みた。
単に真似をして失敗する人と、真似をしながら成功する人。
お父様の言う事と、その通りにしようとしている自分。
「曾お祖母様」
「はい」
ミリに呼び掛けられて、曾祖母デドラが応える。
「お父様がわたくしを結婚させるのもさせないのも、曾お祖母様はそれ自体は問題になさっていらっしゃいませんね?」
「そうですね」
ミリの言葉にデドラは小さく肯いた。
「それはそこに、お父様の考えが入っているからでしょうか?」
「そうですね。バルの意思で決断をしたのなら、理由を問う事はあるかも知れませんけれど、成人したバルの決定に異論を唱えたりはしないでしょう」
「それはお父様が間違えないと信じているからですか?」
「そうですね。少し違いますけれど、結果だけ見ればそう見えるかも知れません」
「それはお父様ならご自分で責任を取れるからですか?」
「ええ、そうです」
そう言って肯くデドラにミリも肯き返す。
「先程の、結婚に関しては家の問題だからとして、わたくしがお父様の言う事をきく事が正しくないと曾お祖母様が仰ったのは、わたくしが責任を取らない事になるから、と言うのが理由ですか?」
「ええ。そうですね」
「ですが曾お祖母様。結婚をするしないは、わたくしの人生を大きく左右すると思います」
「そうですね。その上、どなたと結婚するかも影響しますね」
「はい。ですので結婚しないかするか、たとえお父様の言う通りにしても、わたくしはわたくしの人生を賭けて、責任を取る事になります」
「いいえ」
「え?ですが曾お祖母様?わたくしの人生が掛かるのですよ?」
「それは当然ですけれど、もしも上手くいかない時に、ひとに選ばれた人生なら、その選んだひとの所為にしてしまうかも知れません。そうなるとその後に来るのは、自分の人生に対しての諦めです」
「諦めですか?」
「ええ。人生を諦めてしまう事は、責任を放棄する事ですよね?」
「そうなのかも知れませんけれど、上手くいけば良いのですよね?」
「ミリ」
「はい、曾お祖母様」
「誰でも、上手くいく時もあれば、いかない時もあるものなのです」
「それは、そうなのかも知れませんけれど・・・」
「この様な事を話すと、年若いあなたは、人生経験が豊富な年寄りには、反論出来なくなってしまいますね」
ミリは、人生経験豊富は良いけれど、年寄りと言う言葉を肯定する事になる返事は避けたくて、デドラの意見に応えられない。
「そう言う意味では、今のわたくしの発言も、誠実ではありせん。それなのでわたくしの話は置いて置いて、人生が上手くいかない場合を考えて、答を出してご覧なさい」
「曾お祖母様。わたくしはたとえ物事が自分の思った通りに進められなくても、諦めたりはしないと思います」
「いいえ。上手くいかない時には、ひとの所為にしたくなるものです」
「いいえ、曾お祖母様。お父様の言い付けを守って結婚しなかったとしても、お父様の選んだ方と結婚したとしても、上手くいかなかった時、わたくしは絶対にお父様の所為にしたりは致しません」
そのミリの返しにフェリが「頑固だねえ」と呟いた。それを拾ってデドラも「そうですね」と苦笑しながら肯く。
「ミリ」
「はい、曾お祖母様」
「上手くいかない時に、バルの言う通りにしたからこうなったと思わなくても、他の方法を取れば良かったと思っても、それは自分の所為にしていると言うよりは、やはりバルの所為にしている事となって、一緒なのですよ?」
「それは充分に分かっています。ですがお父様の言い付け通りにすると言うのは、ちゃんとわたくしが考えた上で、わたくしが選んでいるのです」
ミリとバル以外の参加者は皆、ミリの頑固さに苦笑した。ラーラもだ。




