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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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言いたがりぃ

「ミリ」


 そう呼び掛けたミリの曾祖母(そうそぼ)デドラの、眉根は寄ったままだ。


「はい、(ひい)祖母(ばあ)様」

「今のあなたの物言いは誠実ではありませんね?」


 デドラはミリをじっと見詰める。


「それは曾お祖母様の教えを盾に、フェリ曾お祖母ちゃんの言葉を封じたから、と言う事でしょうか?」

「ええ、そうですね。わたくしが貴族である事を利用してフェリさんが反論出来ない様にするのは、フェリさんとミリの関係ではフェアではないのではありませんか?」

「ですが曾お祖母様。曾お祖母様の教えやピナお養祖母(ばあ)(がた)のお教えを受けて、フェリ曾お祖母ちゃんの考えが理解出来るのが事実なら、そう言う他はありません」

「事実かどうかも大切ですが、相手の意見を封殺するのにミリが権力を使うなら、ミリも権力で意見を封じられます。その様な手段はミリには適さないのではありませんか?」

「確かに権力を笠に着る様な事をわたくしが行うと、わたくしには出自に付いての問題がありますので、わたくしと敵対する者にそこを付かれる事はあると考えます」


 そのミリの発言に話し合いの参加者達は、多かれ少なかれ緊張を感じる。

 ミリがバルの娘ではない事をミリが知っている事に、慣れた者はまだいなかった。

 参加者の様子を受け取りながらも、ミリはそのまま話を続ける。


「しかしそれは、わたくしがそれを自分の罪、あるいは罰と認識している場合のみ、わたくしの弱点になるのです」

「その一点だけを問題にしているのではありませんよ?」


 ミリは罪や罰をパワーワードとして使った積もりだけれど、その流れを想定していたデドラは、透かさず指摘を入れる。


「・・・申し訳ございません。少し、整理させて頂きます」


 そう言ってミリは頭を下げて、そのまま顔を伏せて考えた。


 誠実ではない、フェアではない、とデドラに言われたのだから、フェリとの会話が対等なのだと説明出来れば良い。


 そう方針を決めてミリは顔を上げ、デドラと目を合わせる。


「曾お祖母様。フェリ曾お祖母ちゃんは、わたくしと二人きりの時ならば、先程のわたくしの言葉に対して、分かった振りをすんじゃないよ、とでも言うと思います」

「ああ。言いそうだよな」


 そうミリの伯父ヤールが小声で口を挟み、それをミリの曾祖母フェリが聞き咎める様に睨んだ。


「ですがわたくしが分かった振りをすると言うのが、曾お祖母様やピナお養祖母様方に教育して頂いた事が原因だとの指摘となる事を避ける為に、この場では言葉にしなかったのでしょう」


 デドラは「そうですね」と返しながら、小首を傾げる。そして視線をミリに戻して否定を口にした。


「しかしミリと二人きりならば、分かった振りをしない様にとフェリさんが言うのは、フェリさんはミリへの教育が正しくないと思っている、とミリは考えていると言う事ではありませんか?」

「いいえ、曾お祖母様。フェリ曾お祖母ちゃんがそう言うのは、フェリ曾お祖母ちゃんが言いたがりぃだからです」


 フェリが小さく「なに言ってんだい」と呟く。


「その言いたがりぃとはなんですか?」

「フェリ曾お祖母ちゃんは直感で言葉を口にする事があります。大概は直前に言われた意見の否定です。その根拠や繋がりとかを示さずに言われる言葉は、その場の状況には合っているものではありますけれど、普段のフェリ曾お祖母ちゃんの考えなどとは不一致だったり反していたりする場合があります」


 フェリがまた小さく、けれど先程よりは少し大きく「なに言ってんだい」と呟いた。それにヤールが反応して「その通りじゃんか」と言って、またフェリに睨まれる。

 それはどちらもミリの耳に入ったけれど、ミリはそのままデドラへの説明を続けた。


「今回の場合ですと、わたくしの教育が皆様から(しっか)りと()されていると、フェリ曾お祖母ちゃんが感じていると、わたくしは思っています。詰まり、フェリ曾お祖母ちゃんが言葉に詰まったのは、わたくしに正しい教育が為されている事を認めたからであって、曾お祖母様が貴族であるからではないとわたくしは考えます」


 ミリの意見に、フェリが「フン」と鼻を鳴らす。


「そうですね。しかしミリへの教育が正しいとフェリさんが思っているなら、ミリをバルから引き離す様な案は、出さなかったのではありませんか?」

「それに付きましてはフェリ曾お祖母ちゃんは、経験に裏打ちされてこそ知識は身になると言っていました。つまり私に不足しているのは経験であり、お父様と引き離す目的も、わたくしに経験をさせる為。教育や知識は足りていると、フェリ曾お祖母ちゃんも考えているものと思われます」


 そう言ってミリがフェリに視線を移すと、フェリはミリから視線を逸らしながら、控え目に「フン」と鼻を鳴らした。

 その様子をデドラも目に入れながら、「そうですね」と小さく肯く。


「わたくしにもフェリさんは、わたくし達のミリへの教育が間違ってはいないと感じていらっしゃって頂けていると思えます」


 再びミリに視線を向けてそう言うデドラの言葉に、ミリも小さく肯いた。


「ただ、それをフェリさんに確認するのは難しい。それこそ身分差で、答を言わせてしまう事になりかねませんからね」

「デドラ様。そんな事はありませんよ」


 フェリが小さく首を左右に振りながら返した。


「さすがに真正面からの否定はできませんけれど、ミリとラーラの事に関しては、ダメなものはダメとコードナ侯爵家の皆様にも、コーハナル侯爵家の皆様にも、伝えさせては頂いておりますので」

「そうですね。バルの事も言って頂いて構いませんよ?」

「バルには、バル様には直接、言わせて頂いておりますし、バル様はいい大人ですから私が口出す事はありません」

「それだと私が子供みたいじゃない」


 ラーラがそう口を挟むのに、フェリは「子供だろう?」と返す。

 その様子を見ながらミリはデドラに話し掛けた。


「曾お祖母様」

「はい。なんですか、ミリ?」

「フェリ曾お祖母ちゃんはお父様と私を引き離すと言って置きながら、お父様には口を出さないとも言っています」

「そうですね」

「これがお母様とわたくしが言う、フェリ曾お祖母ちゃんの言いたがりぃです」

「なに言ってんだいミリ?離れさせる件だって、私はバルに直接言ってるじゃないか?」

「だけど曾お祖母ちゃん?こんな場を調えて、デドラ曾お祖母様やガダお祖父様やリルデお祖母様に訴えて、私とお父様とを離れ離れにする積もりだったんでしょ?」

「なに言ってんだい。この場を設けたのはダンじゃないか」


 そのフェリの言葉を聞いて、ミリの祖父ダンが苦笑する。


「言いだしたのはそうだけど」

「私はこないだだって、そのままミリを連れ帰ろうとしてたろう?」

「そうだけど」

「私が言いたがりぃなんじゃなくて、ダンがやりたがりぃなんだよ」


 そうフェリは言うと、「フン」と鼻を鳴らした。

 それを受けてヤールが「ハッ」と息を吐く。


「その言い(ざま)が、言いたがりぃじゃないか」

「うるさいよヤール!」


 ヤールの言葉に、フェリは切り捨てる様にそう返した。

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