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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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噛み砕いて

「曾お祖母ちゃん。私がお母様に感謝するの、おかしい訳はないでしょ?」


 ミリは曾祖母フェリに意見した。


「お母様が産んでくれなかったら、私はここにいないのよ?」


 フェリは「ふん」と鼻を鳴らす。


「それを言うなら、コードナ侯爵家の皆様が反対したり、コーハナル侯爵家の皆様が助けてくれなかったら、あんたはここにいないんだよ」

「そうかも知れないけど」

「そうかもじゃなくて、そうなのさ」


 ミリはフェリが何を言いたいのか、良く掴めなかった。


「曾お祖母ちゃん」

「なんだい?」

「私がコードナ侯爵家の皆様やコーハナル侯爵家の皆様に感謝するのはどうなの?それもおかしい?」

「おかしかないよ」

「だったらお母様に感謝するのだって、おかしかないでしょ?」


 ミリはフェリの口調に少し釣られた。


「あんたはデドラ様達やピナ様達にも、ちゃんと感謝してんのかい?」

「当たり前じゃない」


 教える内容はもうちょっと手加減して欲しいけれど、とミリは思いながらもそう答えた。


「なんの感謝だい?」

「え?なんのって、高度な教育を授けて頂いてるからだよ」

「それはさっき、ダンが言ったからじゃないのかい?」

「確かにお祖父ちゃんも言ってたけれど、だからと言って私も同じ様に思っていても良いでしょう?」

「あんたは頭も回るし口も回るから、言ってる事が軽いんだよ」

「え?何よそれ?非道いじゃない!」


 フェリが微妙に話を逸らした事に、ミリは乗ってしまった。


「良いかい?感謝ってのは与えられた事が分かって初めてするもんだ」

「え?どう言う事?」

「ミリは物心付く前から、デドラ様にもピナ様にも他の皆様にも教えて頂いていて、それが当たり前になってるだろう?」

「当たり前って訳じゃないよ」

「でも、あんたに取っては日常じゃないか」

「それは、そうだけれど」

「本当の感謝は、ミリが誰かに教えを授けようとして、その難しさに気付いて初めて産まれんのさ」

「違うよ、曾お祖母ちゃん。教えて頂いた事が身に付いている事が感じられた時だって、ちゃんと感謝してるってば」


 フェリは「ハン」と息を吐く。


「それは躾けられた感謝だろ?」

「え?どう言う意味?」

「何かを頂いたら、ありがとうって言うだろう?言わないかい?」

「それは言うけれど」

「ミリはそう躾けられたからこそ、ありがとうって言うのさ。それと同じだよ」

「なにそれ?心が籠もってないって言ってるの?」

「何言ってんのさ?ミリはありがとうって時に、心を籠めてないのかい?」

「いや、籠めている積もりだけど」

「躾けられた感謝だって、ちゃんと感謝しなけりゃダメだよ」

「ちゃんと感謝してるし、心を籠めてるってば」

「なら良いさ。文句はないよ」


 フェリに論点をスルスルとずらされて、ミリは何が言いたいのか見失っていた。

 何か違うのは分かるけれど。


 ミリはここまでのフェリとの会話を思い出し、振り返って心の中で検証した。


「曾お祖母ちゃん」

「なんだい」

「私は誰かに教えた事もないし、もちろん子供を産んだ事も育てた事もないから、本当の感謝を知らないって、曾お祖母ちゃんは言いたいのね?」


 そう纏められると、フェリは肯けない。


「そう言う訳じゃないけどね」


 そう言ってフェリは逃げ道を作る。


「それとも私の心は、本物の感謝を産み出せないって言ってるの?」

「そんなこたぁ言ってないよ」

「じゃあ何を言ってるの?」

「何をって、今さんざん言ったろ?」

「曾お祖母ちゃん」

「なんだい」

「私に理解させる気がないの?」

「何言ってんだい。あんたの経験が足りないから、私の言ってる事が分かんないんだよ」

「違うよ」

「違わないね」

「違うよ。私は今ここでしている会話からだって経験を積んでいるよ」

「だからなんだい」

「曾お祖母ちゃんは私に話を伝える気はあるの?ないの?」

「伝える気はあるけど、あんたが分かってないんだろ」

「違うよ。伝える気があってこれなら、曾お祖母ちゃんの伝え方が悪いんだ」

「はあ?何言ってんだい」

「だってお祖父ちゃんの言葉に対して、難しく言うなって言って置きながら、曾お祖母ちゃんは私に理解出来ない事を前提として、噛み砕いて説明しようともしてないじゃない」

「そんなこたぁないよ」

「あるよ。だって曾お祖母ちゃんは言いたがりぃだし」

「はあ?なんだって?」

「根拠とか、繋がりとかない言葉を言ってるだけでしょ?」

「バカな事、言ってんじゃないよ」

「それなら私に分かる様に言ってよ」

「まだ子供のミリには分かんないんだよ」

「ほら、やっぱり、言いたがりぃだ」

「あんたが大人になったら説明してやるさ」

「私が大人になったら、大人なのに分かんないのかい、って言うよ、曾お祖母ちゃんは」

「そんなこたぁ分かんないだろ?」

「曾お祖母ちゃん」

「なんだい?」

「私の理解力はデドラ曾お祖母様が鍛えてくれたんだよ」


 フェリは、肯定も否定も疑問も、言葉を返せなかった。


「曾お祖母様の授業を卒業した私に、曾お祖母ちゃんの言っている事が理解出来ない訳はないんだよ」


 デドラは珍しく眉根を寄せた。

 チェックメイトされたフェリは、言葉を返せない事が降参を表していた。

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