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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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無条件

「質問してもよろしいですか?」


 パノの弟嫁である元王女チリン・コーハナルが手を挙げた。ラーラの父ダン・ソウサが肯く。


「はい。なんでしょうか、チリン様?」

「ミリちゃんがバルさんの言葉を無条件に聞いてしまうとして、その解決策をダンさんはお持ちなのですか?」

「荒っぽい方法で良いのでしたら、提案できます」

「荒っぽい?」

「ええ。かなり」

「それはどんな方法だろうか?」


 バルの父ガダ・コードナ侯爵が尋ねる。


「ミリをバルさんから離して暮らさせる事ですね」

「それって、効果はあるのかい?」

「その間に、色々な経験を積ませる事によって、効果が出せると考えています」

「経験?例えば?」

「私が直ぐに示せるのは行商ですね。国中を巡って様々な人々の暮らしを見て回るのは、濃い経験になります」

「その経験をすれば、ミリがバルの言葉を無批判で聞かなくなるというのは、その根拠はなにかな?」

「ミリには知識はありますが、それに比べて経験が今の所不足しています。ですので知識では解決出来ない問題を経験する事で、知識を充分に生かせる判断力が付けられると考えるのです」

「知識で解決出来ないのに、知識を生かせるのかい?」

「持っている知識にのりしろを付けるイメージですね。解決出来ないと言う事は、()てる知識を次々に当て嵌める事をする筈です。それでこそ、ミリが自身の持っている知識の外形を把握出来ると私は思うのです」

「何言ってんだい」


 ガダへのダンの説明に、ラーラの祖母フェリ・ソウサが吐き捨てる様に言った。


「経験に裏打ちされてこそ、知識は身になるんだよ」

「だからそう言ってるじゃないか」

「じゃあそう言えば良いじゃないか。小難しく言っても賢く成れる訳じゃあないんだからね」


 フェリの断言に、ダンは肩を竦めた。


「詰まり、ミリちゃんに経験を積ませる事で、判断力を養うと言う事ですか?」

「そうですよ」


 チリンの言葉にダンが返す前にフェリが答えた。


「それでその為には、バルさんと別れて暮らす必要があると?」

「そうですね」


 チリンの言葉にフェリが肯くと、ダンが補足する。


「ええ。それが最も早く、効果が出ると思っています」

「別居が目的や手段じゃなくて、結果ですけどね」


 フェリのその言葉にラーラが「でも」と口を出した。


「お祖母ちゃんは、ミリを私とバルから隠すって言っていたじゃない?隠すのが結果なの?」

「どこにいるかと教えたら、バルもラーラも付いて来るだろう?だから隠すんだよ。隠すのは手段さ」

「確かにバルさんとラーラが傍にいたら、ミリは二人の意見を尊重して、自分で判断しなそうだからね」


 フェリとダンの言葉にラーラは眉を(ひそ)めた。


「お祖母ちゃんも父さんも、ミリをなんとかすれば、なんとかなると思っているのね?」

「そうだよ」

「さっきも言ったけれど、父親が娘を嫁に出したくないと思うのは、至極当然の気持ちだからね。バルさんをどうにか出来る筈はないんだ」

「当然て何よ?でも、お祖母ちゃんは先日は、バルとミリに血が繋がっていない事も持ち出していたわよね?」


 バルの母リルデ・コードナの心に警戒が浮かぶ。血の繋がりを持ち出すラーラの意図をリルデは測り兼ねていた。


「今日は言ってないだろう?コードナ侯爵家の皆様は、あまり良い気はしないんじゃないかい?」

「え?この間は自分で言っていたのに、なにそれ?」


 フェリの返しにラーラは驚く。

 確かにバルとミリの血が繋がっていない事を話題にすれば、普段からミリを可愛がってくれているコードナ侯爵家の面々は面白くないかも知れない。けれどもフェリの様な言い方をされたら、それこそ不快に思うのではないか、とラーラは思った。フェリに悪役にされた様で、ラーラは納得出来なかった。


「たとえ血が繋がっていなくても、ミリは私の可愛い孫だ」


 話が逸れそうなので場を繕おうとしたガダの言葉に、リルデは引っ掛かった。

 ガダがミリを可愛がる度に、ラーラがミリを産むのを反対していたのに、とリルデは思う。ミリを可愛がっても良いけれど、ミリが生まれる事に賛成したのは誰なのか、ミリが生まれたのは誰のお陰なのか、ちゃんと私に感謝しなさいよ、とリルデはいつもガダに感じるし、二人きりの時には口にも出している。

 もちろん、反対したままミリを可愛がらないのよりは全然良いのだけれど、とリルデは思っているけれど、でもそう言う事ではないのだ。ちゃっかりと私のより先に、生まれたばかりのミリを抱っこしていたし、もう。


「お義父(とう)様、ありがとうございます。申し訳ありません」


 ラーラがガダに頭を下げる。


「いや。ラーラもそう言う積もりで言ったのではないのは、分かっている」


 そうラーラに返して、ガダは肯いた。



「ミリ」

「はい、曾お祖母様」


 バルの祖母デドラ・コードナの呼び掛けにミリが応える。


「ミリはフェリさんやダンさん達が、何を問題としているか理解していますか?」

「はい」

「そうですか。それなら、ミリはこの問題をどの様に解決すべきだと考えますか?」


 デドラの問いに、参加者は衝撃を受けた。

 確かに賢いミリに解決策を出させるのは、とても良いアイデアに思える。何より正に当事者なのだし。


 しかしミリは首を左右に振った。


「お母様には既に回答済みですけれど、わたくしの案は却下されています」


 参加者の視線がラーラに集まる。

 ラーラは溜め息を吐いた。


「どの様な案だったのですか?」


 デドラの質問にミリは、チラリとラーラを見てからデドラに向き直って、答えた。


「わたくしの考えとして、結婚も就職もしないと述べたのですが、それはお父様がそうしろと言うからだとされて、お母様には受け容れて頂けませんでした」


 ラーラの事をデドラに言い付ける様な形になって、ミリはちょっと恥ずかしさを感じた。

 別に、デドラに味方して貰わなくても、ラーラとは話し合える積もりでいる。ラーラはしつこいけれど、ミリも負けない積もりだった。


「では何故、ミリはバルの言う事をきこうと思うのですか?」

「それはお父様が働いて、わたくしを育てて下さったからです」

「そうですね。しかしミリを育てたのはラーラもですね」

「ですが、わたくしの養育費はお父様の収入から賄われています」

「だからバルの言う事をきくと?」

「はい」

「ミリを育てたと言うなら、わたくしもピナ・コーハナル夫人もフェリ・ソウサさんもそうですね?」

「・・・はい」


 ミリはイヤな予感がした。


「もしバルが、これまでに掛かったミリの養育費をわたくしから受け取ったならば、ミリはわたくしの言う通りに生きるのですか?」


 それがあったか、と気付かされて、ミリは頭を抱えたかった。

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