全く賛成
「本日はお忙しい中、お集まり頂き、ありがとうございます」
ミリの祖父ダンが、出席者達に対して声を掛ける。
場所はソウサ邸の広間。
出席者はコードナ侯爵家、コーハナル侯爵家、ソウサ家の三家の人間となっていた。
「こんな、大袈裟にして」
ミリの曾祖母フェリは、ダンの横で文句を口にする。
話し合いに参加したのは、コードナ侯爵家からは、バルの祖母デドラ、父ガダ、母リルデ、コーハナル侯爵家からは、パノの祖母ピナ、母ナンテ、弟スディオ、弟嫁チリン、ソウサ家からはラーラの祖母フェリ、父ダン、母ユーレ、次兄ワール、三兄ヤールとなっている。それにバル、ラーラ、ミリ、そしてパノ。計十六人が集まっていた。
バルの兄達夫妻とパノの父は、それぞれの領地に居る為に不参加。ラーラの長兄夫妻も行商中で、連絡が直ぐには届かない為、不参加だった。
「今日集まって頂いたのは、ミリの将来に関わる話をさせて頂く為です」
ダンは参加者を見回しながら、そう宣言する。
「具体的には、バル様がミリを結婚させないと言っている件ですね」
「お義父さん、普段通りで結構ですよ?様付けは不要です」
バルが早速、話を止めた。
「ソウサ家の皆さんに私は、普段は呼び捨てにして頂いているので、この場でもそうして頂きたいと思います」
ダンはバルに微笑んでみせた。
「分かりました。私は普段はさん付けさせて頂いているので、それでやらせて頂きますね?バルさん?」
「ええ、結構です。そうなさって下さい」
バルとダンが肯き合う。
「さて、話を戻させて頂きますが、ミリの結婚に付いてです」
ダンはまた参加者を見回した。
「バルさんはミリを結婚させないと仰っていて、ミリも結婚しないと言っているのは、皆様には周知の事と思います」
参加者達が肯くのを見て、ダンも肯き返す。
「それだけなら問題は無いのですが」
「何言ってんだい」
フェリの言葉にダンは苦笑を浮かべる。
「いや、母さん。ちょっと待ってて」
「まどろっこしくて待てないよ」
「今日まで待ったんだから、もう少し待ちなよ。角を立てない様に進めてるんだから」
ダンの言葉にフェリは「ふん」と鼻を鳴らした。
「さて、それだけなら問題は、まあ、無くもありませんが、それより問題は、ミリが挙げる結婚しない理由と言うのが、バルさんが結婚させないと仰っているから、と言う事だと私は思っています」
またダンは参加者を見回した。
「ミリはコードナ侯爵家とコーハナル侯爵家に、高度な教育を授けて頂いています。その成果は、ミリと会話すれば直ぐに分かります。様々な知識を持つだけではなく、とても賢くて頭の回転が速く、思慮も深い。その上ラーラにそっくりで可愛くて、天使の様に思い遣りもあり、バルさんが嫁に出さないと言うのにも、全く賛成です」
「父さん?発言の趣旨が変わってるじゃない」
堪らずに、ラーラがツッコミを入れる。
「それに、私に似てるとかは良いから」
「良くないよ」
「そうだな。大切な事だ」
「その通り」
「もう!皆様の前で恥ずかしいから、そう言うのは良い加減にして」
ダン、ワール、ヤールの発言に、ラーラは目を細めて睨んでそう言った。
フェリが投げ捨てる様に言葉を吐く。
「あんた達、ふざけてんなら追い出すよ?」
「皆様には忙しい所に集まって頂いているのだから、さっさと話を進めて。ラーラも話の腰を折らないのよ?」
ユーレもそう諫めた。
「え?私は止めた方じゃない?」
「ミリとラーラが似てるかどうか、この場では関係ないんだから、いちいち反応しないのよ」
そう言われたらその通りなので、ラーラは「分かったわ」としぶしぶ答える。
「皆様、失礼致しました。父さん、続きをちゃんと続けて」
ラーラはコードナ侯爵家とコーハナル侯爵家の面々に会釈をすると、ダンに向けて先を促した。でも「ちゃんと」が付いたのは、ユーレの指摘に納得出来ない部分が現れてしまったからだ。
「ラーラとミリが可愛い事に付いては機会を改める事と致しまして」
ラーラはツッコミたいのを堪える。ユーレも先に進ませる為に口を挟まない。可愛いと言うのは褒められたのだからと、ミリは先程からお礼を言うタイミングを計っていたけれど、空気を読んでもいた。
「バルさんがミリを結婚させないと仰るのも分かります」
え?趣旨がズレたまま?とラーラはダンを一睨みする。
「しかし、ミリが結婚しない理由に、両家から教育を受けてちゃんとした考えも持つ事が出来ているミリが結婚しない理由に、バルさんに言われたから、と言っている事は問題だと考えるのです」
「それはミリが自分で判断していないと思えるから、と言う事ですね?」
デドラの質問にダンは肯いた。
「その通りです、デドラ様」
ワールもヤールもダンに合わせる様に肯く。フェリはダンを一睨みすると、フッと息を吐いた。
「賢いミリが、バルさんの言う事はそのまま従う。素直なのはミリの美徳の一つではありますが、無評価に言われるままに従うのは、とても危険な徴候だと思うのです。たとえその言葉の相手がバルさんなのだとしても」
そう言いながらダンはまた、参加者を見回した。




