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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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話し合いが必要

 使用人が、新たな来客を告げる。


「え?父さんも?」


 ラーラは困惑を混ざった声を出したけれど、客を応接室に通す様に使用人に指示をした。


「お祖母ちゃん?父さんもミリの件なの?」

「知らないよ。でもまあ、そうだろうね」

「もう、なんなのよ?」

「取り敢えず、お義父(とう)さんを待たせられないから、行こう」


 バルの言葉にラーラは「そうね」と肯いた。

 パノは同席するか一瞬だけ迷ったけれど、邪魔になったら退席すれば良いかと考えて、バルとラーラに続く。

 ミリはフェリがまた手を差し出して来たので、少し躊躇(ためら)った後、結局手を繋いで、みんなの後に付いて行った。


 

 応接室に入ると、ミリの祖父ダンと伯父ヤールがいた。

 二人はラーラ達の入室に気付くと、揃って立ち上がって礼を取った。


「おはようございます、パノ様」

「ご無沙汰しております、パノ様」


 ダンとヤールの言葉にラーラとバルは脇に避けて、パノを前に出す。


「おはようございます、ダンさん。久し振りですね、ヤールさん」


 パノがにこやかに挨拶を返すと、その後からフェリが声を掛けた。


「なんだい。ヤールも連れて来たんかい」

「いいや。勝手に付いて来たんだよ」


 そう返すダンに、ヤールは「勝手ってなんだよ?」と文句を言う。それを流してダンはラーラとミリを向いた。


「ラーラは久し振りだね。ミリ、おはよう」

「そうね。久し振り、父さん」

「お祖父ちゃん、おはよう」

「俺もいるぞ、ミリ?ラーラも」

「うん。ヤール伯父さん、おはよう」

「ああ、おはよう、ミリ。今日も可愛いな」

「ありがとう、ヤール伯父さん」


 ミリは褒められた礼をスッと言えた。

 それにヤールは満足そうに肯く。


「うんうん。ラーラも負けずに可愛いぞ」

「おはよう、ヤール兄さん。私にもありがとうね」


 相変わらず調子の良いヤールの言葉に、ラーラは小さく息を吐いた。


 バルが皆を促して、テーブルを囲んで席に着く。


「それで皆さん揃って、ミリの事ですよね?」

「いいえ、バルさん」


 ダンが首を振る。


「私は母を回収に来ただけです」

「回収たぁなんだい?」

「え?父さん?話し合いに来たんじゃないのか?」

「母さんもヤールも、この場で話し合って決まる事なんてないだろう?」

「え?なんでさ?」

「何言ってんだい。話し合いなんて不要さ。ミリを連れて帰れば良いだけだから」

「え?祖母(ばあ)さん?連れ帰るって、なんの話だよ?」

「ヤール。分かんないんだったら黙ってな」

「そうだね。ヤールは付いて来なくて良かったな」

「祖母さんも父さんも、なんでよ?」

「父さん?」


 話が進まなそうなので、ラーラが口を挟む。


「お祖母ちゃんを連れ帰るって、ミリの事で来たんじゃないの?」

「そうだよな?ラーラ?俺はその積もりだぞ?」

「ヤール兄さんがそうなのは分かってるわ。お祖母ちゃんもそうみたいだし。でも父さんは違うの?」

「この場で話しても平行線になるだろう?」

「え?何が?」

「ミリの将来に関する話だよ。バルさんは、ミリには仕事も結婚もさせないって主張を変えないだろうし」

「それは」


 そこまで言ってラーラがバルを振り返ると、バルが肯いた。


「変えませんよ」

「それなのに母さんがミリを連れだしたら、誘拐扱いになるかも知れないだろう?」

「なんで誘拐なんだい」


 フェリが不服の声を上げる。


「曾孫の将来の為に、居場所を作ってやろうってんじゃないか」

「だからって、親に無断でやったら誘拐だろ?」

「ちゃんとラーラに断って、連れてく積もりだったさ」

「ミリをどこに連れて行くのか、お祖母ちゃんは内緒だって言ってたじゃない?」

「そりゃそうさ。連れ戻されない為にはそうするしかないだろう?」

「祖母さん、それじゃあやっぱり、誘拐だぞ?」

「何言ってんだい。ヤールだって、おんなじ様な事をしようとしてたろに」

「俺はミリの医者への弟子入りを手助けしようとしただけで、ミリを攫ったり隠したりは考えてないよ」

「医者へ弟子入りしたら、結局は家を出る事になるじゃないか」

「そりゃあそうだけど」

「え?医者への弟子入りって、そうなのですか?」


 フェリとヤールの遣り取りに、パノが口を挟んだ。


「ええ、そうですよ」

「医者って、門外不出の技術や知識がありますからね。弟子になったら住み込みが当たり前で、普通は実家にもあまり帰れないですけれどね」

「そうなのですか」

「ええ」

「それはつまり、ヤール。私がやろうとしてる事と、あんたがミリを医者にしようとしてる事は、結果は一緒だって事だろう?」

「結果が一緒だからって、誘拐と一緒にするなよ。乱暴な祖母さんだな」

「ミリが帰ろうとした時に帰れないなんて、私が隠すよりよっぽど乱暴じゃないか」

「そこは、なんとか、便宜を計って貰えば」

「そんな事したら、贔屓だなんだって、他の弟子からミリが嫌がらせを受けるよ」

「だから、それもちゃんと気を配れば良いんだよ」

「なんだい?ヤールもミリに付き合って、医者の弟子になるのに付いてく気かい?」

「いや、そうじゃないけどさ」

「じゃあ、口出すんじゃないよ」

「え?いや、なんでだよ?」


 フェリは「ふん」とだけヤールに応えた。


 話が区切れたと見て、ダンが口を開く。


「私はこの話はこの場では決まらないと思いますので、改めて話し合いの席を設けたいと思うのです」

「何言ってんだい、まどろっこしいよ」

「何言ってんのは母さんだ。ミリが大切なら、ちゃんと周囲と合意を取るべきだろう」

「ふん」

「あの、合意と言うのは?」


 またパノが口を挟む。


「ミリをバルさんと離して暮らさせる事ですね」

「え?父さん?」

「お義父さんまで、何を言っているのです?」

「バルさん、ラーラ。私も基本的には母さんやヤールと同じスタンスですよ。このままミリをバルさんの傍に置いて置くのは、ミリの為にはマイナスだと思っています」

「え?なぜそんな意見になるのです?」

「まあ、それに付いては話し合いの場で、明らかにしましょうか」


 ダンはそう言って、微笑みを浮かべた。


「何をのんきな」


 フェリはそう言って、また鼻を鳴らした。

 ヤールは眉を顰める。


「明らかにするも何も、ないんじゃないか?」

「話し合って場とは、コードナ家とソウサ家のですか?」


 パノのその言葉にダンは肯いた。


「それとコーハナル侯爵家の皆様にも、ミリの教育をして頂いていますので、参加して頂ければと思っています」

「え?そうしたらコードナ侯爵家も?」


 ラーラの言葉にもダンは肯いた。


「もちろんだよ」


 ダンの言葉にフェリは「わざわざ大袈裟にして」と不満な口調で呟いた。

 バルは「実家にも?」と怪訝な表情を浮かべ、困った顔のラーラと顔を見合わせた。

 何か言いたいけれど、言葉の出て来ないパノも困惑をしていた。

 ヤールは「話し合っても、誘拐が結論にはなんないだろ?」と、呆れた声で言った。


 ミリはこの場で自分の意見を挟めていない事で、その話し合いでも自分の意見が出せるのか、とても心配していた。だって、ミリの将来に影響する話し合いに、なる筈なのだから。

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