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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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誘う曾祖母の強引

 使用人がラーラに来客を告げた。


「え?祖母が?」

「祖母?フェリさん?」

「曾お祖母ちゃん?」


 ラーラの言葉を聞いたパノとミリが(うしろ)から尋ねる。


「ええ」


 パノとミリを振り返って一言だけ言って、ラーラはまた使用人を見る。


「こちらに通して下さい」


 その言葉を受けて、使用人は頭を下げて退室した。


「フェリさんがここに来るなんて、珍しいわよね?」

「初めてじゃないかしら?」

「そうなの?」

「ええ。パノも覚えがないでしょう?」

「そう言われてみるとそうだけれど」


 ラーラとパノは顔を見合わせて、首を傾げ合った。フェリの用事が思い当たらない。

 フェリは今日もソウサ商会で仕事をする予定の筈だった。


「もしかして、今朝のバルの事かしら?」

「ミリが医者になるのをソウサ家が、サポートだかフォローだかをするってヤツ?」

「ええ。他に思い当たらないし。ミリは何か心当たりある?」

「いいえ、お母様。ありません」


 ミリも医者の件かとは思ったけれど、それでフェリが来訪してくる事には繋がらない。


 取り敢えず三人は、フェリが来るのを待ち受けた。



 使用人に案内されたフェリは、直ぐに姿を現した。


「いらっしゃい、お祖母ちゃん」

「おはようございます、フェリさん」

「おはよう、曾お祖母ちゃん」

「おはようございます、パノ様」


 フェリはそう言って腰を折るけれど、直ぐに顔を上げた。


「久し振り、ラーラ。ミリ、連れてくよ」

「え?待って待ってお祖母ちゃん?」


 久し振りと返そうとしたラーラは、フェリの言葉に慌てた。

 フェリに手を差し出されたミリは、ぽかんとしてしまっている。


「え?曾お祖母ちゃん?」

「お祖母ちゃん?ミリを連れて行くってどこへ?」

「そんな事、あんたに教えられるかい」

「はあ?なに言ってんの?」


 ラーラの声が荒くなる。船員相手にケンカした時の様な声が出た。

 睨むラーラもそれを気にしないフェリも、どうしたら良いのか分からなくて動けないミリも、普通じゃないのは分かったので、パノが調整に入る。パノもどうなっているのか分かりたい。


「あの、フェリさん?どう言う事なの?」


 さすがにパノはぞんざいに扱えないフェリは、ミリに差し出していた手を一旦下ろして、説明をする。


「追っ付けバルが来ると思うので、その前にミリを連れ出します。細かい話は、ミリを隠してからしますよ」


 説明が簡単すぎるけれど、充分な引っ掛かりがあった。


「隠すって、バルからですか?」

「もちろんそうです」

「何がもちろんなのよ?お祖母ちゃん?」


 ラーラは呆れながらも、一応尋ねた。


「私もいい加減、目を瞑ってらんないからね」

「だから何が?」


 フェリの答は意味の良く分からないもので、ラーラの声には呆れが濃くなっていた。


「後で話すよ、後で。それよりミリ?準備は良いかい?」


 話に置いて行かれていたのに、急にフェリに言われてミリは慌てた。


「え?準備?なんの準備?」

「隠れる準備だよ」

「あ、ううん。隠れる準備?隠れる準備って、何すれば良いの?」

「取り敢えずそのままで良いよ。ほら行くよ」


 そう言ってまた手を差し出すフェリに、ミリも釣られて手を出した。


「あ、うん」

「行くよじゃないわよ、お祖母ちゃん。ミリも、うんじゃないでしょう?」

「あ、はい」

「なんだい、うるさいね。文句なら後にしな」

「うるさくないし、後には出来ないわよ」


 ミリの腕を掴もうとしていたフェリとミリの間にラーラは立って、ミリを背中に隠した。


 そのラーラの様子を見て、パノは違和感を持った。

 フェリが相手でも、掴まれる様に伸ばされた手に対しては、ラーラは怖がる筈なのに、ミリを庇ってラーラが立ち塞がっている。

 パノは心の中で「わあっ」と声を上げた。対人恐怖症の回復の兆しなのかも知れない。

 この状況を今ラーラに自覚させるより、後で出来ていた事を伝えた方がラーラの自信になりそうだ、とパノは思った。それなので贈りたかった拍手も、ラーラには気付かれない様に、心の中でだけにして置いた。



「今朝バルが一度帰って来たけれど、その時にミリが医者になるのをソウサ家が後押しするって言っていたの。お祖母ちゃんがミリを隠そうとしているのは、それに関係するの?」


 ラーラの言葉を聞いてフェリは「ふん」と鼻を鳴らした。


「関係はしてるけど、違うよ。医者を後押しってのはヤールが勝手に言ってたのさ」

「やっぱり、ヤール兄さんのスタンドプレイだったのね。ソウサ家がそんな事をする意味、分かんないものね」


 そのラーラの返しに、フェリはあからさまな溜め息を吐いた。

 ラーラはイラッとしながら、フェリに訊く。


「え?何よ?」

「あんたも立派なお貴族様になったなって、感激してたとこさ」

「そんな事、思ってもないんでしょう?なんなの?お祖母ちゃん?」

「ヤールは先走って勝手に言ってたけど、ソウサ家がミリの後押しをするってのはホントだよ」

「え?どうして?」

「どうしてもこうしても、ミリは身内だ。大人になったら平民になんなら、ウチが後押しすべきだろ?」

「だからって、私達に相談もなしに、ミリを医者にしようなんておかしいでしょ?」

「だから、医者って言ったのは、ヤールの先走りだよ」

「あ?そうなの?」

「でも、ミリがなりたいもんがあんなら、私は応援するよ。あんた()に相談なんてしなくてもね」

「え?なんでよ?なんで相談なしにそんな事をしようとするのよ?」

「ミリの問題だ。ミリが頼って来たらそれで充分。そんな状況なら、却ってあんた()に相談なんて、出来っこないだろう?」

「どう言う事?」

「あんた()が反対してるからこそ、ミリは私()を頼って()んだろうしね」


 そう言ってフェリはまた、「ふん」と鼻を鳴らした。

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