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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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ミリからの封筒

 レントはミリからの手紙と荷物を受け取った。

 どちらも使用人が開封して、祖父リートのチェックが済んでから、レントの手元に回って来た。


 ミリからの手紙の封筒は手作りの様に見える。

 と言う事は、自分の仕掛けに気付いてくれたのだろうか?

 そう考えながらもレントは、直ぐにも封筒を分解してみたい気持ちを抑えた。

 答合わせは(あと)の楽しみに取って置いて、レントは先ず、便箋に書かれている表面上のメッセージを読む事にした。もしかしたらこちらにも、陰のメッセージを匂わす何かがあるかも知れない、とレントは考えたからだ。


 ミリからのメッセージには、押し葉の栞のお礼が書かれていた。そして使われている植物の虫除け効果しか知らなかったので、防カビ効果を出す方法に特別なやり方があるなら教えて欲しいとあった。

 つまり、レントからの返事をミリが望んでいると言う事だ。

 レントは胸が熱くなった。僅かな時間しか話した事がない相手が、自分からの連絡を待っていてくれる。レントはどこに向けたら良いのか分からない使命感に包まれた。


 同梱のお菓子は、レントがお菓子を気に入ってくれた事へのお礼だとある。

 お菓子を土産として持たしてくれて置いてその上で、レントが気に入ってくれたからお礼だなんて、どう言う事だ?と言うのにもレントは胸が熱くなった。ミリの論法も分からないけれど、それにこう言う反応をするなんて、どうした自分?

 施しは受けないと、お菓子を突っぱねる事も有り得るのに?いや、一度貰っている以上はそれはないか?もうどう考えたら良いのか分からない。

 その様な感じで、レントはミリから贈られて来たお菓子で、混乱をしていた。

 取り敢えずまた叔母上と食べよう。そして今回はお祖母様にも分けてみよう。そう考えてレントは、二人にお菓子のお裾分けを持って行く様に、使用人に命じた。


 ミリの手紙には王都で少年に人気のレターセットを送るともある。

 確かに何種類ものレターセットが一緒に送られて来ていた。

 少年に人気・・・少年とは誰の事だろう?ジゴ・コードナ侯爵令息を始め、ミリの従弟はコードナ侯爵領で暮らしているから、王都にはいない筈。ミリの周りには少年いない筈なのに、どう言う事だろう?誰なのか、訊いても良いだろうか?

 そうだ。少年が誰なのか訊けば、その回答にもう一度手紙が貰える。そこでまた次の質問をすれば、また回答に手紙が貰えるだろう。そうやって少しずつでも教えて貰えるなら、王都やコードナ侯爵家やミリに付いて、知って行く事が出来るな。

 そんな風にレントは、モヤッと感じた気持ちを解消する為の言い訳を考え付いた。



 レントからお菓子をお裾分けされた祖母のセリは、その取り扱いに悩んだ。

 憎きコードナの、卑しき娘から送られたお菓子だ。

 本来なら捨て去るべき、忌まわしきお菓子だ。

 しかし、お菓子にうるさいあのコードナが選んで、わざわざ送って来たお菓子なのだ。


 先日の小魚の干物の話し合いで話題に上がってから、乳製品も卵製品もコーカデス領では本当に流通しなくなった事を改めて、セリは肌身で感じていた。

 そんなところに、どちらも使われているであろう、お菓子の登場だ。心惹かれるなと言う方が無理がある。


 そこでセリは共犯者とする為に、夫のリートにも声を掛けて、二人でお茶請けのお菓子として食べてしまう事にした。

 レントは喚ばない。万が一、有り得ないけれど万が一、見られてはいけない様な表情をしてしまった時に、祖母としての威信が保てなくなるからだ。

 何しろ(あい)対するは、あのコードナの選んだお菓子である。どんな卑怯な手が使われているか分からない。



 一方、レントの叔母リリはお菓子を受け取ると、お茶を飲みながら一緒にお菓子を食べないかと、レントを誘った。


 それを請けたレントは、まだ良く歩けないので使用人に抱き抱えて貰って、リリの暮らす離れを訪ねた。


 そこでミリからの贈られたお菓子の種類に付いての解説や思い出をリリに教えて貰いながら、レントはお菓子を美味しく頂いた。

 まだ食欲が戻り切っていないレントにしては、思ったより多くのお菓子を食べる事が出来たのだけれど、お腹一杯になってしまえば今日の食事が食べ切れなくなるのではないかと、リリには心配された。そんな事はない、大丈夫、と言うレント本人も、失敗したなと実は思っていた。



 思ったより苦しいお腹を抱えながら、使用人に抱き抱えられて自室に戻ったレントは、取って置いた楽しみに手を付ける事にする。


 家具を伝わりながら仕舞って置いたミリの手紙を取り出して、机の椅子に腰を下ろす。

 先ずはミリからの手紙をもう一度読み返した。

 また改めて、気持ちが揺すぶられる。


 そして封筒の分解に掛かるが、結果は直ぐに現れた。メッセージは何も隠されていない。

 何度、封筒となっていた紙をひっくり返しても、内袋となっていた紙をひっくり返しても、何も見付ける事は出来なかった。便箋の裏にも何も書かれてはいない。

 今の気持ちをガッカリと表現して良いのだろうか?


 レントはまた家具を伝い、ベッドに辿り着くと仰向けになった。


 返事はどうしよう。

 また同じ様に「気付きましたか?」と書かなくても、ミリが手作り封筒で返信して来た時点で、既に気付いていると考えて良いだろう。

 でもそうだとすると、わざわざ封筒を手作りしたのに、なぜミリはなんのメッセージも籠めなかったのか?

 王都の少年に人気の市販のレターセットは、ミリはどう言う意味で贈って来たのか?

 もしかしたら、封筒の内袋のメッセージは、レントからではないと思われたとか?それなのでレントに市販の封筒を使わせようとしているとか?

 それだったら誤解なのだから、今度の内袋には自分からだと分かる様に、メッセージと共にサインをして置く?でもそれはなんか、変じゃないか?


 考えに煮詰まったレントは体を起こし、また家具を伝って机の椅子に座った。

 そしてミリが贈って来たレターセットの便箋を使い、ミリへの表向きの手紙を書いた。


 封筒には贈られたレターセットの物を使うか、また自作の物を使うかは、レントは一晩考える事にした。どちらにしても表向きの手紙に書く内容は変わらないので、それだけを先に書いた。

 そして自作の封筒を使うとしても、こうして貰った便箋を使う事で、敢えて自作の封筒を使っているのだと強くアピールしよう、とレントは考えた。

 そのアピールが一体何をアピールする事になるのか、良く分からなかったけれど。


 書き上がった手紙を仕舞って、レントはまたベッドに横になる。


 そして、ミリの狙いを推測したり、自分がどうすべきか考えたり、ミリからどんな返事が来るか想像したりしながら、レントはいつの間にか眠ってしまった。

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