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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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小魚の干物

 運動が解禁されたレントが先ずやったのは、ベッドでの寝返りだった。

 仰向けから転がって俯せになり、転がり戻ってまた仰向けになる。

 そして今のレントには寝返りさえ、疲れてしまって何度も繰り返せない動作になっていた。


 疲れ果てるとベッドに横になったまま、スルトの執務室から運んで貰った資料を読む。


 その次は四つん這いになって、体を前後左右に動かす事だ。

 体を後に引いて背筋を伸ばして猫の伸びの様な姿勢を取り、体を前に動かして胸を反らせて犬の遠吠えの様な姿を現す。左右に動かすのは少し難しく、バランスを崩してよろめいたり倒れたりもしてしまう。

 そしてこれも直ぐに疲れた。


 疲れると言う事は効いていると言う事だ、とレントは前向きに捉えて、毎日少しずつ回数を増やして行った。


 そして体力作りと並行して行ったのが、食事の改善だ。



「なに?魚を食べるだと?」

「なにを言っているのレント?魚なんて平民の食べ物です。知らない訳ではないでしょう?」


 レントの祖父リートと祖母セリは、レントの予想通りに大反対だ。


「お祖父様、お祖母様。たとえ平民でも、体に悪ければ食べません」

「そう言う事を言っているのではありません」

「そうだぞ?貴族のプライドが、魚を食べる事など許さんのだ」


 ただ魚を食べるかどうかに貴族のプライドを持ち出されても、とレントは思う。プライドはもう少し大切な場面の為に、取って置いた方が良いのではないかな?


「そもそも食べるとしても、魚ってとても生臭いのよ?」

「そうだぞ?レントも実際に目の前にしたら、あんなに生臭い物を口に入れる気にはならんだろうな」

「お祖父様とお祖母様が、どの様な魚料理を見た事があるのか分かりませんけれど、わたくしが知っている小魚の干物は、変な臭いはしませんでした」

「干物ってあの、グロテスクなやつよね?」

「ああ。小魚のと言うのは分からんが、干物と言う限り、口を開けてシワシワになった魚だろう?」

「それに小魚なんて、食べるところがないじゃない」

「その通り。小魚は平民の中でも貧乏人が食べる物だ。まあ、どうやって食べるのかは分からんがな」


 あまりにも想定通りの二人の反応に、レントはおかしくて、笑いそうになる。


「小魚の干物はそのままでも食べられますけれど」

「そのままだと?」

「そのままって、火も使わずに生で食べると言う事なの?」

「食べる時に火は使わなくても、作る時に茹でてから干してあるので、生ではありません」

「いくら作る時に茹でていても、食べる時には煮たりも焼いたりもしないなんて、信じられないわ」

「食べる時に火を使わないなら、腹を壊したりしそうだな」

「ええ。そうよね」


 そう言う心配をするのかと、レントは祖父母の新しい一面を見た気がした。


「干してあるので、ちゃんと管理されている物ならば、そのまま食べても体調を崩したりする事はありません」

「レントがそう言うのだから、そうなのかも知れないが」

「ええ。にわかには信じ(がた)いわ」

「しかし、医者に掛かる事が難しい平民が、体調を崩す様な物を食べる筈はないと、わたくしは思います」

「言われてみれば、それはそうなのだけれど」

「まあ、確かにそうかも知れんな」


 取り敢えずは、リートとセリが魚の干物を食べ物として認識してくれたみたいなので、レントは話を進める事にする。


「それにわたくしが食べる場合には、炙って食べる積もりです」

「炙る?焼かないのか?」

「そうですね。そのままでも食べられる物ですので、香ばしさを出す程度に表面を炙るだけです」

「それって、中は生なのでしょう?」

「干物ですから、生ではありませんが」

「でも中まで火を通さないって事よね?」

「そうですね」


 火が通らない事をこれ程警戒するのかと、レントは不思議に思った。


「しかし小魚と言うと、大きくてもこれくらいだぞ」


 リートが指を広げて小魚のサイズを示した。


「こんなの、食べる所があるのか?」

「そうよね。そもそも魚って、どこを食べるの?」

「確か、骨の周りの肉をこそぎ落として食べるのだったと思うが」

「その大きさでどれくらいの太さなの?」

「いや、太さなんてないような物だった筈だ」

「そう?こそぐのなんて、難しそうよね?」

「まあ、食べるものが他になければ、しゃぶりついてでも口にするのだろうがな」

「しゃぶりつくだなんて、(はした)ない。貴族は魚を食べなくて良かったわ」

「本当だな」


 お互いの顔を見合わせて納得すると、セリはレントに向き直った。


「レント?レントはなぜ、魚を食べるなんて言い出したの?」

「王都に行った時に、わたくしの体はとても骨が細い事を知りました」

「骨が細い?そんな事、ありませんよ?」

「普段からわたくしを見慣れているので、お祖母様には分かり(にく)いのかも知れません」

「細いとして、それが魚とどう結びつくのだ?」

「わたくしの骨が細いのは、骨の材料となる食べ物を摂れていないのだと思います」

「そんな事はないぞ?」

「ええ。その様な事はありませんよ?」


 首を左右に振るリートとセリに、レントも首を振り返した。

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