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悪いのは誰?  作者: 茶樺ん
第二章 ミリとレント
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レントの処遇

「お前の処遇は検討する」


 そうレントに向けて言って、レントの父スルトはレントの寝室のドアを開けた。


「スルト!」

「スルト?」


 レントの祖父リートと祖母セリが、寝室を出て行くスルトの後を追う。


 三人が出て行ってドアが閉まると、レントはベッドの上で大きく伸びをした。



「私は執務に戻りますので、これで」


 スルトは一人で考え事をしたかった。

 しかしセリとリートがスルトに追い縋る。


「レントはどうする積り?」

「このまま放って置くのか?!」

「考えます」

「考えるってどうするの?」

「考えるまでもなかろう!」

「レントを放って置くの?」

「目の前の今の執務も大事なのは分かる!だがレントはコーカデスの未来だぞ!」

「分かっています」

「未来が決まらないのに、今の事など熟せるか!」

「レントをどうする積りなの?」


 考えを纏めたいスルトは、けれど二人から次々と掛けられる言葉に思考を奪われた。


「取り敢えず考えますから」


 そう言って執務室のドアを開けると、リートとセリもレントを追って入室して来る。


「考えますから、出て行って下さい」

「何を言ってるいるの!」

「お前を産んでくれた母親に、何と言う言い草だ!」


 いや母親だけではなく父親にも言っているのだけれど、とスルトは思う。


 スルトは面倒臭くなった。


 今日見たレントには確かに跡を継がせられないだろうな、とスルトは考える。そうなると跡継ぎは別に用意する必要があるだろう。

 セリの実家に頼ると言っていたのは、スルトの従兄弟達の子供を養子に貰う事を言ったのだろうとスルトは思った。それも確かに手だ。


「母上のご実家からは、養子に取れそうな子はいますか?」

「そんな事、しません」

「いえ、母上。するしないではなく、あのレントの様子を見る限り、別の跡取り候補の用意は必要ですよ」

「スルト!あなた!」

「スルト!なんと言う事を言うのだ!」


 スルトは小さく息を吐いた。


「前回の視察に出発する時に、レントから手紙を受け取りました。そこには跡取り候補を辞退すると書かれていました」

「なんだと!」

「どうしてそんな事を?それ、本当にレントが書いたの?」


 本当に?レントの字だったのかと考えると、スルトは自信がない。


「レントに確認はしていませんが、今日の話とも合っていますから、本人が書いたのだと思いますよ」


 そう言葉にしてみた事で、代筆させたのでも誰かがレントの名を騙ったのでも、先程レント本人も言っていたのだから、手紙の差出人はどうでも良い、とスルトは自分の中では結論付けた。


「養子の件は、母上にお任せして良いですか?」

「レントはどうするのよ?」

「そうだ!レントがまだ生きている内に、そんな話を進められるか!」


 リートの言葉にセリが頷くのを見て、結局この二人も心の中ではレントに未来はないと思っているのだな、とスルトは思う。やはり親子なのだから、二人と自分の考えは似るのだろう。

 そしてそれは自分と自分の子であるレントも同じ筈で、レント自身も自分の将来はないと思っているのだろう、とスルトは考えた。


 スルトが領地内を回っていると、レントの様に痩せ細った子供を見掛ける事もある。

 同じ場所を訪れても次の時に見掛ける事がなければ、その子供は命を失っているのだろう。少なくとも回復して元気になった様な子供には、スルトは出会った事がなかった。


 きっとレントも同じだ。


 この二人も自分と同じ様に、ただ世間体を気にしてレントを放り出せないだけなのではないか?


「それなら、私の再婚でも構いません」


 リートとセリにとってレントを見放す事よりは、スルトの再婚の方がハードルが低いだろうと、スルトは考えた。


「いや、でも」

「頼る先は母上の実家ではなくても構いません。お二人に任せます」

「そうは言ってもだな」

「そんなに直ぐには縁談は調わないわよ?」


 スルトが離婚した時から直ぐに、リートとセリはスルトの再婚相手を探していた。しかしリートとセリが納得出来る相手は見つからず、今も見つかっていない。


「私が再婚して直ぐにレントに何かあれば、変な噂が立ったり、痛くもない腹を探られたりします」


 再婚相手との間に男児が生まれた後でも、離婚した元妻の血を引くレントをコーカデス家がどうにかしたと思われるだろう。


「それにハズレを引く訳にもいきませんから、時間を掛けて探して頂いて構いません」


 もしレントに先がないのなら、縁談はその決着が付いてからにするべきだろう。跡取り候補となり得るレントがいるのといないのとでは、縁談に対する相手の家の態度も変わる筈だ。

 それに焦って探すと足元を見られる。安売りはされたくない。

 スルトはそう思いながら、自分の立ち回り方も考えなければならないと思った。


「レントには、剣も馬も習わせます」

「おお!」

「なんですって?!」


 スルトの言葉に、リートとセリの表情は対象的に分かれた。

 喜びを漏らすリートをセリが一睨みする。


「やりたがるなら、ダンスも構いません。他の運動も良いでしょう」

「スルト!レントに何かあったらどうするの?!」

「何かも何も、母上。あのレントの姿は既に何かがあった事を示していて、それがもう手遅れである事を表しているではないですか」

「スルト!」

「落ち着け、セリ」

「落ち着いていられますか!」

「落ち着け。レントは体を鍛えれば、治るかも知れない」

「そんな訳、ありますか!」

「ああ、ある。なにせレント本人が、そう思っていそうだろう?」


 それは無理だろうと思いながらもスルトは、リートがセリに向けた言葉に、「そうですね」と相槌を打った。


「それで治るのならそれで良いですし、治らないとしても本人は悔いが残らないでしょう」


 淡々とそう口にするスルトに、リートもセリも言葉を返せなかった。



 運動解禁の知らせを受けると直ぐに、レントはスルトに手紙を書いた。

 運動や剣などの練習を許可してくれたお礼だけではなく、それに加えて、スルトの執務室にある資料の閲覧や更新の許可をレントは求めた。


 今度はスルトは直ぐにレントの手紙を読んだ。

 そして少しでもスルトの仕事を手伝いたいとのレントの言葉に、首を傾げながらもスルトはレントの望みを許可する。

 自分があの年齢の頃は、仕事どころか勉強さえ苦痛だったのに・・・そうスルトは考えると、誰に似たのかとの思いが浮かぶ。

 あの不健康な痩せ細った体は少なくとも自分に似たのではないな、と思い至ったところで、スルトはそれ以上考える事を止め()た。

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